門前町にある、電停のような小駅を作ります
(訪問記「門前町のXX」は、XX部分に各話のタイトルを埋め込んで脳内変換願います)

門前町のXX(Vol.2)

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3. 歴史ある書店

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次の休みの日、参道駅が出来た頃の様子を良くご存じだという人を鮨屋の親方から教えてもらったので、会って少しお話を伺うことにした。下宿の玄関を出て、今日は駅の方へは行かず、裏口へとまわる。門を出て左へ進めばすぐに電車みちの信号が見えて来て、その角にある古い書店「平戸三郎書店」が目的地だ。長いので普段は平戸書店と呼んでいるが、高齢のオーナーに連絡をとって今日は会ってもらえることになっている。ここは区内最古級の書店として明治期の創業以来地域住民に親しまれ、建物は有形文化財として登録されている。その造りは純日本家屋であるが、窓枠がパステル調の鮮やかなものだったりして、大正浪漫的なものも感じる。

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こちらへ住むようになって1階の書店で何度か本を買ったことはあるが、今日は2階の喫茶室が約束の場所だ。横手の入口から入り、ギシギシと音の鳴る階段を上がって2階カウンターの人に来意を告げ、窓際の席でしばらく待つ。2階へは初めて登ったが、ここからの眺めはなかなかのものだ。眼下の狭い通りを、時々電車が窮屈そうに車体を揺らしながらゆっくりと通過して行く。いつも車内から眺めている状況を外から、それも上から電車の屋根を見下ろすのは新鮮な光景だった。

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珈琲を飲みながらしばらくその景色を眺めていると、そこへオーナーがやって来た。男性かと想像していたが、上品な感じのお婆さんだ。挨拶をすませ、失礼と思ったがお歳を伺ったところ、何と90歳を超えているとのこと。矍鑠としていて、とてもそんな年齢には見えない。

「それで、あの駅が出来た頃のお話が聞きたいという事でしたね?」

「はい、そうです。こちらがお詳しいと、幸鮨の親方に教えていただきまして」

「ほほほ、まぁこのあたりじゃ化石みたいな存在ですからね」

「いや、そんな...」

「そうねえ、まず、電車が開通した頃あの駅は無かったというのはご存じ?」

「はい、親方のところで写真を見せてもらいました」

「そう?それで、皆さん大神宮駅からお参りなさるので、参道のお店から色々と苦情が出ましてね」

「なるほど、大神宮駅からだと参道の商店街は経路から外れることになりますね」

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「なにしろ大鳥居のまん前に線路を通したのに、お客さんは参道を素通りする形でしょう?それで、この近辺の人達が協力して鉄道に抗議したわけです」

「あそこは鳥居のギリギリ真ん前を通ってますもんね?」

「それで何年か、かかりましたけども、最後にはあちらも折れて駅が出来る事になりました」

「鉄道側がよく了解しましたね。駅を開く土地があったんでしょうか」

「そう、そこなんですけどね...」

詳細の説明を聞いているうち、ちょっとびっくりな事実が出て来た。それは自分が下宿しているあの家に関係するものだったが、帰ったら大家の奥さんに聞いてみようと思う。窓越しに射し込む午後の陽がオレンジ色に染まり出した頃、本屋さんを辞して下宿へと戻る。その前にちょっと商店街の方へ寄り道を。

4. 老舗の和菓子屋

俺は大の甘党を自認している。お酒も吞めなくはないがどちらかと言うと下戸であるので、それからすればごく自然な事と言えるだろう。で、甘いものの中でも和菓子、特に餡子系が大好きだ。なので、駅前にある和菓子屋には良く出入りしていて常連客の部類である。書店のオーナーにお話しを伺った後、参道商店街へ寄り道したのもそこで買出しを行なう為である。

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裏路地を抜けて通りに出ると、そこからは参道が線路を越えて大鳥居を潜り緩く坂道を登って行く情景が望める。特にマジックアワーを迎えたこの時間帯は、空の残照に染められた参道の石畳が美しく、俺の大好きなシーンが拝めるのが嬉しい。ちょうど電車が駅を発車したところで、カンカンと鳴る踏切を、夕刻の通勤客を乗せた電車が、車内灯の光跡を残して走り去って行った。

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「おやシンちゃん、いらっしゃい」「こんばんわー」

「いつもの?」「うん、今日は4個もらおうかな」

「はい、門前最中4個ね」

門前最中はここの門前町近くの工場で作られている銘菓で、こし餡と求肥が入った上品な味がお気に入りだ。このあたりの店で何箇所か扱っている所があるが、この店が一番扱う量が多くバラ売りをしてくれるのも嬉しい。

「それと... みたらし団子を2本だけ」

「あいよ、今新しいの焼くから少し待ってな」「いいの?嬉しいな」

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団子を焼いてもらいながらおやじさんに駅誘致運動について訊いてみたところ、勿論この店も賛同して先代が運動に参加したそうだ。この参道に並ぶ商店は悉く古から店を開いていた歴史があり、電車が通る計画が発表された当時は大歓迎、でも駅が出来ないと聞いてみんなから不満続出だったらしい。この店も今はグループ店となって建物も新しいが、元々老舗の和菓子屋でかなりの歴史があるとの事だ。

「それをシンちゃんとこの大家さんが取りまとめてくれたそうだよ。亡くなったお爺さんがね」

「そうらしいっすね。初耳だったんでビックリでしたよ」

「あれ?どこで聞いたの?」「さっき、平戸書店のオーナーさんに」

「あぁ、平戸さんとこの。あの、おお奥さんなら詳しいだろうね。」

話しながらおやじさんはテキパキと団子を焼き、それをみたらしのタレに潜らせた後、さらに上から追いダレをたっぷりかけてくれる。

「ほいっ、お待ちどぉ」「ありがと、お代ここに置いとくね」

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最中と焼き上がった団子をパックに入れてもらい店を出る。既に周囲は日が暮れて、電車の到着する時間以外は人通りが皆無で路地もシンとしている。和菓子屋のおやじさん、店舗の一部で何か新しい商売を始めるらしく改装工事中で、路地に面した角の壁面が工事シートで覆われている。聞くのを忘れたがいったい何が出来るんだろうか。(続く)

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コメント(2)

musashimarumaru 返信

新しい商売、何ができるのでしょうか、楽しみです。

H.Kumaからmusashimarumaruへの返信 返信

あれですあれ(笑)
制作編では既に大々的にネタバレしてます。

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