2.寝台特急「彗星」(2) 3.高千穂鉄道 4.宮崎交通バス 5.南阿蘇鉄道 6.熊本での出来事編(1) |
8.肥薩線(1) 9.肥薩線(2) 10.日南・志布志編 11.志布志〜大阪編 |
「えびの1号」は吉松から進行方向を変え、しばらくは川内川の造った山間の平地を東進する。多少もやってはいるが、時折薄日も射すのどかな田園風景が広がっている。左手には、さっき通ってきた矢岳越えの山並みが間近に見え、その頂には雨を降らせた雲がかかっている。
右手には韓国岳をはじめとする霧島連峰のシルエットが見えている。前景には飯盛山、白鳥山、甑岳。背後には雲を頂いた韓国岳、尖がった山容を見せる夷守岳、等々。それぞれに特徴のある姿だ。
えびの市を過ぎ、小林市あたりまでくると、天を突くような高千穂峰が現れた。これらの火山地帯のすそ野を巻くようにして、吉都線は進む。やがて山越えの緊張も解け、霧島には高校の修学旅行で来たはずだったが、などと多少の思い出にふけるうち、11時51分、都城に到着した。
駅前に立つと本格的な雨であった。この旅行で初めて傘のお世話になる。昼時でもあり、食事をしたいと目抜き通りを歩いてみるが、県下有数の都市であるのにまともに開いているのはパチンコ屋だけというありさまで、収穫はなかった。今日が日曜日だからなのか、いつもこうなのかはわからない。駅弁の幕の内も何か個性に乏しく、結局ホームの立ち食いで済ませる。黒くて太いとろろ入り蕎麦で、汁は色も味もあっさりしていた。シンプルな立ち食いの方が、安くて地方色が感じられるのは有りがたい。
やがてうすら寒い雨模様の中に踏み切りのカンカンという音が響いて、快速「錦江8号」が入線。ヘッドマークを付けた交流電車である。昨日「彗星」を延岡で下車して以来の日豊本線と再会して、13時05分に発車。雑木林で埋まった深い谷間をぼんやりと眺める。今日も早起きをした。
13時56分、南宮崎着。ここで本格的な食事をもくろんでいるが、腹を満たす前に、まずフトコロを補給せねばならない。昨夜熊本で、スケスケのお姉さんと一杯やったおかげで、財布の中身がやや心もとなくなっている。幸い南宮崎は、宮崎に付随するかのようなその名に反してなかなか立派な町で、日曜日だから銀行は閉まっているが、VISAカードのキャッシングコーナーが苦も無く見つかった。
駅前には「宮交シティ」があり、宮崎交通の手によるショッピングゾーンになっている。なかなか賑わっていて、飲食店の前には行列ができている。また食いっぱぐれかと思案していると、駅ビルの並びに、キシ(ディーゼル特急の食堂車)を改造したスパゲティ屋があったので入ってみた。「車内」から見た窓外はすぐホームで、実際の食堂車と大して違和感がない。唯一の違いは、ホームとの間に無骨なフェンスが建てられていることだが、フェンスの向こう側とこちらとでは、キシにとっては境遇が大違いであろう。反対側の窓から見る眺めは駅前通りで、背の高い椰子の木がずらりと並んで植えられていて壮観だ。
15時07分発の日南線志布志行は、宮崎始発でほとんど満席に近かった。車両はクロスシートとロングシートが混在したキハ40で、近郊型と長距離型のアコモデーションが混在した、地方線区ではおなじみの設計だ。
志布志駅は片面ホームの簡素な終着駅で、真新しい駅舎と舗装したてのような駅前広場だけの素寒貧としたところだ。再開発でもやろうとしているのか、それでいて人の気配も活気もない。振りかえると、かつてのヤードが草ぼうぼうのままで広がっていて、腕木の撤去された信号機柱だけがいくつも並んでいるのが見える。