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第3章  高千穂鉄道 延岡〜高千穂

高千穂鉄道車両 
 

 高千穂鉄道の発車は10時04分なので、あと30分程しかない。まともに食事をしている時間がないので、とりあえず駅前のスーパーで非常食のおにぎりを仕入れて、すぐ駅に取って返す。
 正面に鉄筋コンクリート2階建てのひなびたJR駅舎があり、その左隣に高千穂鉄道の駅舎がある。
 もと国鉄高千穂線から第3セクターになったので入口も別にこしらえたのだが、JRのホームからも連絡口が設けられている。ちょっと立派な公民館、といった程度の簡素な作りだが、天井の高い三角屋根のデザインはなかなかおしゃれで、建物の規模ではJRとは比較にならないが、元気の良さでは優っているように見える。
 肝心の車両は、地方の第3セクターではおなじみの、新潟鉄工所製レールバス。今日乗るのは2両編成で、それぞれ「わかあゆ」「うんかい」と愛称の書かれた立派なヘッドマークをつけている。
 乗客は、地元客らしいおばちゃんグループの他、シルバーエイジの夫婦連れなども交じり、生活と観光が半々といったところ。空いているので最前列に楽々と陣取る。

高千穂鉄道車内 
 

 第3セクターの乗務員は、概して元気がいい。JRのOBなどの採用で年配者が多い傾向はあるが、神妙な初々しさ、といったものも感じられる。今日もワンマンではなく車掌が乗務していて、明るいブルーの制服を着こなし、発車前から忙しく活躍している。まずは高千穂の観光パンフレットを配りに来てくれた。
 「台風が過ぎてよかったですね」「ええ、しかし、今日の1番列車は、途中風で倒れた竹を切り払ったりしながらの運行だったので、多少遅れが出ました」
 パンフレットを配りおわると、今度は車内に備えられたAV装置にビデオテープをセットして、観光PRビデオを流し始めた。高千穂神社の名物の「夜神楽」などが映しだされる。何だか夜行長距離バスの趣だが、列車内にビデオがあるというのは、最近はやりの「ジョイフルトレイン」の類は別として、地方の中小路線では聞いたことがない。
 発車すると、今度は「皆さま、本日はご乗車ありがとうございます・・・」とアナウンスを始める。
 時には、道端から手を振る幼稚園児の列に手を振り返したりしていて、この人は一人で何役も忙しいことだ。

 延岡を出てすぐに左へ大きくカーブする。右手には「旭化成」の工場が見える。旭化成延岡といえば、宗兄弟、谷口といった長距離の名選手を輩出した、実業団の名門である。
 線路はアップダウンとカーブの連続で、ひんぱんにタイフォンを鳴らす。振動が足元からビリビリと響いてくる。速度は60km/hくらいで、今朝の日豊本線の「彗星」と同じようなものだが、スピード感ではこちらが断然上だ。

1015:
行縢(むかばき)。カーブの陰から片面ホームが突然現れた。まるで「停留所」。

五箇瀬川 
 
1025:
吐合。名前のとおり谷が落ち合う地形で、寄り添う五ヶ瀬川の流れは広く、水はゆったり、たっぷりとしている。

1033:
川水流(かわずる)。北方町の表玄関で、ここで対向列車とタブレットを交換する。
自動閉塞とタブレットが混在して使われているようだ。
車両の愛称にもある通り、このあたりでは櫛の歯状をした道具「梁(やな)」を使った鮎漁が盛んらしい。

1037:
上崎。次第に山が深くなり、対岸は屏風のような断崖になっている。台風のせいか、濁った水の流れも速さを増している。急カーブとトンネルが連続する。

1044:
早日渡(はやひと)。再び雨がパラつく。駅舎に「駅前公民館」と看板がかかっている。
「駅前」に建っているのではなく、駅そのものがそういうことになっている。

1046:
亀ヶ崎。崖っ縁に小さなホームがへばりつくように設けられている。なんでこういうところに駅があるのか不思議なくらいだ。
トンネルを出て五ヶ瀬川の左岸に渡り、崖っ縁の25パーミルの勾配を昇る。河原には落石の名残か巨岩が目立つようになる。
白波を立てはじめた川面に見とれていると、突然列車がスピードを落とした。
「左に見えるのは現在工事中の、国道のバイパスとなる『まきみね大橋』です。高さは、115mあります」とアナウンス。
しばらく走ると、またスローダウンとアナウンス。今度は「八戸の観音滝」だそうだ。

名物女性運転士 
 
1107:
日ノ影で、快速「たかちほ」と交換。名物の女性運転士が乗務。制服に帽子を着用していて凛々しいが、なんだかエレベーターガールのようにも見える。
延岡からここまでは、昭和14年に開通した、旧国鉄「日ノ影線」だったが、この先高千穂までは、昭和47年に延長された新線である。
発車後しばらく走ると、また観光停車。高さ137mの「青雲橋」が見えるという。
新線区間はトンネルが多くなり、河原から離れて相当高い所を走る。勾配はさらに増したようで、40〜50km/hしか出さない。

 さっきから停車してはアナウンスのくり返しで、観光客へのサービスは結構なことだしどれもそれなりに珍しいのだが、、沿線一番のハイライトはやはり、105mという鉄道橋として日本一の高さを誇る「高千穂鉄橋」である。影待、深角と駅が続き、大平山トンネルを抜けると、いよいよである。

高千穂鉄橋 
 

 トンネルに続く短い切り通しを抜けると、いきなり深い谷の上に踊り出た。高い高い! 高すぎて実感が湧かない。長さ352mの鉄橋が、銀色に輝きながら一直線に対岸まで伸びている。谷を渡る風景は案外広々としていて見晴らしも良い。左手には高さ110mの国道橋「雲海橋」の雄大なアーチが並走している。とにかくどちらを向いても、おおらかさ、スケールの大きさで、やはり「神々の里」にふさわしい眺めだ。

高千穂鉄橋 
 

 鉄橋上は制限25km/hになっておりゆっくりと進むのだが、それでも対岸まで1分とはかからない。あまりに壮大な眺めなので、どこをどう味わえばいいのかうろうろするうちに渡り終えた。ここに書こうにも言葉が見つからないので、うろうろしながら撮った写真をご覧頂くしかない。
 「天岩戸」という、いわくありげで、かつ胡散臭い名前の駅があり、その次が終点高千穂である。延岡〜高千穂50.1km、乗車時間は1時間半たらず、表定速度は30km/hそこそこであった。

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