山梨交通鉄道線 YAMANASHI TRAMWAY | [1] | ||||||||
□甲府〜相生町 ロータリーの向こうには「山交」のビルが、朝日を浴びて屋上看板の角を光らせている。山交とはむろん山梨交通の事だが、かつてここから電車を走らせていたこの会社は、今や県内屈指の大バス会社だ。この山交百貨店の入っている駅前ビルの所が、実は当時山交の甲府駅であった。さすがに当時を知る人は数少ないだろうが、ネコ・パブリッシングの RM LIBRARY 5 「山梨交通鉄道線回想録」(花上嘉成氏)に廃止前年の写真が載っている。 コンクリートで出来たそのレトロな二階建ての駅舎、額には「山梨交通電車のりば」の看板とその上にさらに大きく「ナショナルテレビ」のネオンサイン。駅前広場には、着物姿で振り分け荷物、下駄履きで蝙蝠傘を持った男が改札口の方へと歩いて行く。家路へと就く午後なのか、地面に落ちた影が長い。暗い正面改札を抜けると、その奥には二本の線路と対向式の小さなホームがある。短いホームの半分ほどは駅舎の中に突っ込んでおり、上空を建物の二階が覆っている。ホームの端っこは石段で地上へとつながり、その先には小さな御手洗の小屋。駅から出て来た二本の線路はその脇でカーブしつつ合流し、一路青柳へと向かっている。 こんな感じで地方私鉄らしい実に好ましい駅だが、車両の方は路面電車と郊外電車をごちゃ混ぜにしたような感じの代物で、地元の人々には「ボロ電」で通っていたという。一応高床式ではあるが、途中の路面区間での乗降用として客用ドア下に折畳み式のステップを設け、また前照灯が着脱式で昼間は装着せずに走る等、なかなかユニークな構造の車両だった。 さて今日は旅程が長いので、リュックを背負ってそろそろ走り始めようか。中身は空に近いが、本日の走路はほとんど幹線道になっているみたいなので、途中でいくらでも食材の補給は可能だ。勢い余ってボトルに水を入れるのすら忘れてスタートしてしまったが、まぁ自販機もあるから何とかなるだろう。
駅裏(写真1.)で90度方向を変えた軌道は、南へ向かって舞鶴通り(写真2.)を併用軌道で下って行く。ここは駅前の市街地と甲府城跡のある舞鶴公園の間の裏通りだったが、現在は陸橋で駅北側と結ばれた大通りとなり、昔日の面影も無い。県庁、市役所等の並ぶお役所街の裏手(写真3.)を抜け、相生町までずっと南下した後ようやっと西に向きを変える(写真4.)。 |