2018年9月29日

サイドストーリー(12)

サイドストーリー第12話。前掛け横丁に住み着く野良猫のモノローグ。

「前掛横丁の猫」

我輩は猫である。名前は「ミケ」... というらしい。らしいというのは猫の世界ではそもそも名前なんていう概念は存在しないからで、ただ単に人間達が我々を識別する為に都合よく付けているだけのものだからである。なので「ミケ~」と呼ばれれば一応お愛想で振り向くが、別に「ノラ」だって「クロ」だって構いやしない。

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我輩が縄張りにしているここらも、彼らは「前掛横丁」等と呼んでいるそうで、それは、そこんとこの坂の下に立つお地蔵さんの前掛けに由来するという話だ。そのお地蔵さんにはお供えという便利なものが置かれていて、それは時々我輩のおやつ代わりとして有難く頂戴する事にしている。それに、横丁には飲食店が多いから、建物の裏手に回ればたいがいは容易に食料にありつけ、ここにいる限り食事に困ることが皆無といって良いのは幸いである。

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我輩はそこのドブ川の脇にある叢で生まれたそうで(無論覚えていないが)、それ以降今に至るまで、ずっとこの一帯に住み着いて暮らしている。昔はあの小川ももっと綺麗な流れだったようだが、もちろん寿命の短い我々猫族はそんな事は知らない、汚したのは人間の責任である。この近辺は「青砥ヶ谷」という地名だそうだが、大昔はその名の通りで清冽な流れが刻むちょっとした渓谷だったのだ。いや勿論見たわけではなく、彼らが偉そうにそう話しているのを、通りがかりに小耳に挟んだだけの事だが...。

今じゃそれも上から蓋をされ(暗渠というらしい)、流れはすっかり見えなくなってしまって、風流も何もあったもんじゃないが、そのお陰で我輩が堀に落ちて溺れ死ぬ確率が低くなったから、有難いと言えば有難い。だが、まだ二三箇所穴の開いてる所があって、たまに食後に草を食みにいったついでにそこを覗くと、暗い溝の奥をチョロチョロ流れる水が青空を映していたりして、綺麗な事この上ないのである。それをボォーっと眺めているだけでも、ウットリして何だか吸い込まれそうになって来るから用心しなけりゃいけない。クワバラクワバラっと。

コメント(2)

猫さん。前作、前々作?にもいましたね。塀の上かどこかに。
路地裏に住む猫さんからの目線いいですね。暗渠の中を流れる水に映る青空。素晴らしい。
お地蔵さまの謎も解決しました。

musashimarumaruさん、いつもコメントありがとうございます。

そう言えば、貨物線沿線の方でも似たような猫を見かけましたね(笑)
http://hkuma.com/rail/pikrep12.html

でも15年くらい前の事なので、おそらく親子関係か何かなのかも知れません。

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