サイドストーリー(6)
踏切の怪
...踏切ってのはまぁ、電車を運転する身からすると厄介者だけど、僕はきらいじゃないなぁ。特に青砥ヶ谷駅を出てすぐのそこの踏切、本線じゃなくて支線の方ね。路地裏のどうって事ない場所なんだけど、何となく風情を感じてしまう。ちょうど乗務員詰所がある建物の目の前でもあるんで、警報機の音はもう体に染み付いちゃってるみたい。この沿線で唯一まだ電子音化されてなくて、「カンカン」と昔ながらの鐘を突く音がするのもいいな。
そう言えばあの鐘、以前一時的にスピーカーの電子音に変えられた事があるんだょ。でもそうすると周囲の住宅からうるさいっていう苦情がたくさん入って、元に戻されちゃった。不思議だよね?音量的には鐘の方がよっぽど大きくて耳触りだろうに。きっと長い事それで来たから、周囲の人達もすっかり慣れてしまってるんだろうね、あの古い鐘の音に。
で、その踏切、実は前に運転士の大先輩からも教えてもらった事あるけど...、「出る」んだよ?フフフ。いや、あそこで事故があったっていう話は聞いてないから、ウラメシヤ~ってわけでは無いと思うけど。ここらも一昔前は野っぱらばかりだったそうなんで、今でも狐とか狢の類がどこかに隠れて住み着いてて、夜な夜なイタズラしに来るんじゃないかな、きっと。
え?嘘じゃないさ。そう言われてみると自分だって、あれがそうだったのかなって経験あるもん。それがね、終電車の時だったかな、奇妙なんだよなぁ。駅に到着する時に、踏切際に傘をさした女性がボンヤリ立ってるわけサ。それで運転士の直感でヤバイって咄嗟に思ったからいつもより早めに減速して、いつでも停止出来る位の速度で注意しながら踏切を通過してホームに入ったんだ。
その時は幸い何事もなかったんだけど、お客さんを降ろして折り返しで回送電車を車庫へと引き上げようとすると、まだその女の人が踏切んとこにいるんだよね。で、何かやだなーと思いながら発車させたら、通過する時に、ヘッドライト浴びて傘の下から見えてたその人の口元がニヤっとしたような気がして、次の瞬間クルッとトンボ返りしてフッと消えちゃったんだよ!その女の人。
えっ、と思いながら視線を正面に戻すと目の前の地面が突然切れ落ちてて、線路がプッツリなくなってるんだ。「うゎー」って非常制動かけたつもりだったんだけど、気がついたら既に何事も無く線路の上を普通に走ってて、もう次の駅に近づいてるところだった。え!? いゃいゃいゃ、絶対に居眠りなんかしてないって。あれはたぶん化かされたんだって思うよ、今でも。若いヤツに話しても信じてもらえないんだけどね。
え?髪型どうですかって?あぁ、いいですいいです。後ろも... うん、大丈夫。はい?次は洗髪ね。ハーイ、よいしょっと。ところでオヤジさん、最近もまだ山行ってんの?...
「踏切の幽霊」、以前ちょっと噂になったことがあって、あの、最近焼肉屋になった民家あったでしょ。あそこに戦後夫婦と娘の3人家族が住んでましてね、その娘の結婚話がまとまりかけたんだけど、何故か挙式直前に破談になってね、いたたまれなくなった家族は引っ越したんですわ。それ以来、あの家は空き家になってて、でもその娘が自殺したとか、一家心中したとか、根も葉もない噂が立ってね、そん時かな?娘の幽霊が踏切に出るって・・・、家に帰りたいけど帰れない娘なんてね、まあ、あくまで噂でしたけどね。今じゃ、そんな話誰もしらないだろうなあ。
な~んてお邪魔しました。素晴らしいモジュールそしてお話し、楽しみにしてますよ。
Posted by 横丁の心霊研究家 at 2018年8月18日 14:47 | 返信
おっとぉ、横丁にそんな噂話があったんですネ?
あの民家なら、有り得ない事でも無さそうです。
でもやだな~、私、その手の怖い話に弱いんですよぉ…
…なんてね。
乗っていただきありがとうございます(^^)
引き続きご愛読いただければ嬉しいです。
Posted by H.Kuma at 2018年8月18日 17:00 | 返信