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水神もりの物語(■最終話)

水神もりの物語、最終話となりました。「下総快速鉄道 水神森駅 ~終端駅のセクション~」の連載は今回で終了となります。製作記から含め、長い間お付き合い頂きありがとうございました。

ネットの彼と分かれた後、私は一人で少し線路跡を辿ってみようと考えた。地図で見ると少々距離がありそうだったし、また取りに戻っ て来るのも面倒なので、ここからそのまま自転車で行く事にした。駐輪場から自転車を出して来て築堤脇から走り出そうとすると、ドラム缶の脇で、先ほど管理人室にいたビルオーナーの老人がちょうど火の始末をしているところだった。

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「先ほどはどうも。」「おや、シンちゃんのお友達の方だったかな?」 ビルが建つ以前からの近所の住人という事で、老人にこの築堤について聞いてみたが、どうもあまり詳しくは知らないようだ。ただ、当時ここから線路が延びていたのは事実だそうで、貨物列車が走るのを良く見かけたし、時々はそれに混じって電車も通っていたような記憶があるという事だった。シンちゃんもこの話は聞いただろうか。

さて、老人に別れを告げて、いよいよ線路跡探索のスタートだ。ところが、上からはあんなにハッキリと見てとれたのに、地上でそれをトレースして行くのはなかなかに難しかった。「廃線趣味の人は良くやるよな。」そんな事を考えながら住宅地の合間を何とかJRとの交差地点らしき所までは到達出来たが、そこには当然ながら遺構らしきものは何一つ見あたらなかった。

水溜りでジメジメした高架下の歩道を抜け、反対側へと出ると、そこからの探索はこれまで以上に困難を極めた。走ってゆくと突然行き止まりで人家の裏庭に入り込んでしまったり、通って良いのか悪いのか迷うような工場の資材置き場を抜けたり、しまいにはもう方向感覚さえおかしくなり、頭の中が混乱して来た。そのうち、日の傾いて来た空に浮かぶ雲が、グルグルと不規則な円運動を始める。何だか空全体が暗転してゆがんで来たような心持ちだ。

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巨大な送電鉄塔や工場のタンクが、上から体をかがめて私を覗き込む。遠くから聞こえて来る「ガシン、ガシン」という機械の音が、頭の奥に共振して響きだす。段々と目の前の景色が黄色いフィルターをかけたようになって、全身から冷や汗が出て来るのがわかる。やばいな、朝から飲まず食わずでずっと走り通しだったので、どうやら脱水症状になったようだ。自転車を降り、どこかに飲み物でも無いかと歩を進めるが、既に足がよろけ出して来た。思わずその場にしゃがみ込んで目をつぶり、しばらくじっと我慢する。

「グァーン」 突然耳元で鳴り響く轟音で我に返った。いつの間にか路地裏を抜けた私は、広い殺風景な道路脇の草むらの中に佇んでいた。その道路と草地の境に敷いてある線路の上を、茶色の小さな機関車が今まさに私を横目に見ながら追い越し、走り去って行く所だ。引っ張ってきた自転車は気を失う前に無意識のうちに放り出したらしく、脇の潅木の所にあさっての方を向いて引っかかっていた。

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「え?ここは!」 それはデジャヴのような光景だったが、自分自身この場所に来た経験の無い事は明らかだ。「ここにつながっていたのか...、...な?」

実際につながっていたのか、いなかったのか、その場では結論が出なかった。何しろどこをどう走ってそこへたどり着いたのか、そのあたりの意識が朦朧としているのだから。「後で彼に聞いてみるか」足元には、朽ち切った枕木のような木片が地面から少し顔を覗かせている。

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道路はロープを張って一時的に封鎖されていたが、列車が通過すると同時に、それを監視していた作業員たちがヤレヤレという感じで即席踏切の後片付けを始めた。道に出来ていた何台かの車の列は、ロープが解かれると共に静かに走り去る。すぐ脇の歩道上には一人の男がいて、私と同じように機関車を興味深げに見送っていた。

列車が彼方のヤードの方へ行ってしまうのを見送り、私は自転車を押しながらトボトボと道路を渡った。ちょうど工場の横手に自動販売機があったので、そこでジュースを一本買って飲んでいると、事務所の中から帰り支度をした初老の男性が駐車場の白い車に向って歩いて来た。私は思い切ってさっきの機関車について尋ねてみた。
「アッハッハ、今日は大当たりの日だな。君で二人目だ。」その人は愉快そうに笑って、「ちょっと、こっちへ。きっと気に入る物があるよ。」と私を駐車場の奥へと手招きした。

階段を登ると、驚いた事にそこは小さなホームだった。目の前は林立するコンビナートのパイプ群、そしてその向こうで、地平線近く薄雲の下へと降りて来た夕陽が、本日最後の輝きを見せ始めたところだ。

それから水神森の工事は順調に進み、数年後に地下線が開通すると同時に、味のある地上駅は跡形も無く消え去ってしまった。駅跡は今はまだ工事用のフェンスに囲まれて再開発の整備中だが、やがて電鉄系のショッピングビルと、一部は公園になる予定との事だ。この線を走っていた小さな電車達は、大型の次世代車両へとバトンタッチして廃車になったが、唯一あの茶色い主だけは、どこかに静態保存されるという噂である。

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ネットの彼は相変わらず精力的にサイト更新に励んでいるが、昨今は地下線開通がらみのニュースで取材に追われているようで、返信は多少滞りがちだ。例の喫茶店の建物も駅と一緒に取り壊されるそうだが、跡地に建つビルにテナントとして入るらしいと、その彼からのメールで知らされた。あの貨物線と謎のホームの件については彼も初耳だそうで、今度一緒に工場へお話を伺いに行こうという事になっている。

そうそう、開業後しばらくしてピカピカの地下駅を訪問してみた私は、改装なって広く綺麗な島式のホームでキビキビと働いている駅員の彼を発見した。嬉しくなり声をかけたが、懐かしいあのベンチはもちろん失われてしまったそうで、二人にとっては少々残念な事だった。勤務中なので多少遠慮しつつホームのベンチ脇で話していると、ふいに誰かに背中をツンツンとつつかれた。振り返ると、そこには売店のボックスから出て来たおばちゃんが立っており、笑いをこらえながら「牛乳いかが?おごるわよ。」と白い瓶を差し出したのだった。

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...という所で目が覚めました。どうやら床に腹ばいになって完成したセクションを眺めているうちに、又そのまま居眠りしてしまったみたいです。背中の感触に寝そべったまま振り返ると、そこには手に茶碗とシャモジを持ち、足先で私の背中をツンツンしているカミさんの姿が...。ニヤっとして、「寝てたでしょ...。ご飯。」とのお言葉。

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いつの間にか日もすっかり傾いて、窓の外にはオレンジ色から青紫へと段々に変わるグラデーションの空が広がっていました。「あぁ、何てストーリーなんだ」夢とはいえなかなか琴線に触れる展開でしたが、ちょっと複雑な気分でもあるんです。だって、これを公開してしまうと、次は「地下駅のセクション」を作らねばならなくなりそうですからね。え? 作りませんよ、絶対に...、たぶん...。

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コメント

完結おめでとうございます(^^)

「あれ? 前作のパイクが出てきた???」
「・・・廃線? 地下線? 再開発???」

今までのショートストーリーが現実味あふれるものだったので、
今回のストーリーの時間軸のゆがみが
私まで「夢」を見ている気分にさせてくれました。

「寝てたでしょ…。ご飯。」ってところは実話だったりして(笑)

次回作品も期待していいんでしょうか???

執筆お疲れさまでした~。
す、素晴らしい内容ですよ~~~。
ひと時、水神森の住人になれた気がします。
セクションの完成度もさることながら、
物語の奥行きの深さも。
駅周辺のお話が先にふくらみ、
セクションで具体していったのでしょうか。

最後の一枚は、…模型?
あっ、野暮なことは聞きますまい。

とうとう最終話ですね。
話の途中であのパイクがでてくるとはビックリです。
つながっていたんですね。
それにとうとう駅の工事が始まってしまったんですか。残念ですねぇ・・・。
今回も奥深い話をありがとうございます。
いままで執筆ご苦労様でした。
次回作品をもし作るとしても地下駅なので、かなりの技術がいりますね。
期待してもいいのでしょうか・・・?
もちろんH.Kuma様の自由ですが。

レイアウト、そして製作記の完成おめでとうございます。
今までコメントすることはありませんでしたが、今まで更新を毎回楽しみにしていました。
精密で、ストーリー性のあるレイアウトって素敵ですね。
このレイアウトの進化がこれ以上見れないかと思うと残念で仕方ありませんがまた新しいレイアウトの作成もそう遠くなく実現するんじゃないかと期待しております。

なにはともあれお疲れ様でした!

ついに最終話ですね。完結おめでとうございます。でも、終わってしまうと楽しみがなくなってしまって残念な気がします。 「地下駅のセクション」も期待したいような…。
あのパイクの廃線跡とつながっていたとは!なんと!びっくり。もう一人とは、以前にパイクに訪問されたご自身でしょうか?時空が重なってますね。(笑)
工事中の建機は、ワーキングビークルでしょうか?(壁の完成予想図や貼り紙もアップで見てみたいような…)
最後にあの駅員さんと売店のおばさん親子のご登場、何か安心しました。
最後の写真、窓の外に珈琲煎香の長屋が! 夢から覚めても夢の中?
製作記から訪問記、多くのサイドストーリー共に、楽しませていただきました。どうもありがとうございました。
私の訪問記の最終話(水神森5)もご笑覧くださいませ。(ジャージのメーカーからもTBを受けています。(笑))

 最終話おめでとうございます。そしてお疲れ様でした。
 ファンの一人としては、地下駅の作りこみにも期待してしまうのですが…。
 モデルの世界でも実物の風景と同じく時系列に比例して、物語も生まれて行くのですね。とても勉強になりました。
 本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございました。

皆さん感想をどうもありがとうございます。

>どんぶりさん

もちろんあの部分は実話でなくあくまでフィクションですが、多少潜在意識的なもの?は影響してるかも(笑)しれません。次回作品は未定ですが、少しほとぼりの冷めた頃にまた何かやらかすかも。ひょっとすると下総シリーズでなく、少し気楽に出来る工作に手を出すやも知れませんが。

>ヶ太郎さん

このセクションの構想が固まった段階である程度ボンヤリとしたストーリーは頭の中にあったんですけど、詳細は作り込みしつつ同時進行ですね。あ、こういうスジならここにアレがなくちゃいけない、ってんで急遽作り足した小物なんかも数知れず… 最後の写真は良くお気づきで。実はうちの窓から良く見えるんですよ、水神森あたりに良く似た風景が。

>南風さん

味わいのある駅舎が解体されたのは残念ですが、ひょっとすると跡地に出来る公園内の記念館とかで復活するかも知れないですよ。その辺は、皆さんの想像の世界で遊んでみるのもいいんじゃないでしょうか。地下駅は作り甲斐がないっていうか(^^;)、見る角度が限られてしまうんで非常に難しいですね。地面を取り外し式にするとか?しないと。

>watcherさん

いつも見て頂いていたようで、ありがとうございます。コメントは無くとも、多くの方が何度も訪問下さっているのはとても嬉しい事です。とりあえずこの場での連載は一度終了としますが、セクションはまた気が向いたらもう少しいじるかも知れません。何か変化がありましたら、また日誌の方ででもご報告しますので。

>musashimarumaruさん

パイクのあの一角の作り込み… 実は今回のために仕込んでました。っていうのはウソですが、ストーリー的にからませたら面白そうだったので、少々無理やりながら繋げてみた次第です。ちらっと見えているショベルカーは、「お届け物(Part4)」の一部、完成予想図、貼り紙は以下からです。
http://www.tokyu.co.jp/railway/railway/east/pr/images/od_kmng_img05.jpg
http://www.monotaro.com/c/021/862/
Monotaroのサイトは一通りの標識関係が揃うので、地面派モデラーにとってはありがたいですね。

>Jパパさん

実は、地下駅をやるとしたら、その前に照明関係を何とかしないといけないという大きな課題がありまして…。 手持ちの車両はライトや室内照明を組み込んでいませんのでね。その辺にやる気が出たら作るかもしれないですが、次は本線系の中間駅とか鄙びた終点あたりの情景も作ってみたいなー何て思いもあります。まぁ何れにしろ、しばらく先の事になるでしょうが。

いやまあ何というか、鉄としてはちょっともの悲しい結末でしたね。最終回に相応しい?や、次の作品の始まりですよね?(^^;

ついにやっちゃいましたね。これは泣けます?ねw最終話はこんなサプライズだなんて予想もしてなくて・・・。このページを見ている間片時もパイクのことを忘れませんでしたが、「最近どんな感じで出してくれてんのかなぁ」なんて思いながら見ていたらひょんなところで登場したくれたので驚きと感銘でいっぱいです。僕も最近セクション作りまた始めようかな、なんて思ってます。
最終話、セクション作りお疲れ様でした!!また新たな作品期待してます!!

>ぼうずさん

確かに寂しい感じなんですが、考えてみるとこれって京津線の経緯と全く同じなんですよね。別に意識してストーリー書いてたわけではないんですが、途中であれ?って気がつきました。車両もまんま一緒だし…。 そういえば三条京阪のあの地上駅の佇まい、とっても好ましいと思ってましたんで、潜在的な意識があったかも知れません。

>悟空特快さん

な、泣けますか?そこまで感動してもらえるとは嬉しいです。パイクもちゃんとおぼえていて下さったんですね。この機会にパイク探訪記の方もあらためて読んでみると、また新しい発見があるやも(^^;)

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