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走行:2012年10月
掲載:2013年01月

東武 浅草駅

今朝は暗いうちから家を出て輪行し、JRと地下鉄銀座線を乗り継いで浅草へやって来た。 階段を登り地上に出ると、都会の谷間にシトシトと朝から冷たい雨が降っている。 「オーイ、こちらです」指定した集合場所で輪行袋を立て掛けてビル陰に雨宿りしていると、道路の向こうから小柄なT編集長が大きく手を振って呼びかけてくれた。 今日はこれから雑誌の取材で一緒に走る事になっている。 編集長とは「自転車生活」で過去に2度ほどご一緒している仲だ。 なんと自宅からここまで雨に濡れながら走って来たそうで、駅入口の階段下で明るい緑のランドナーを手際良く分解している最中であった。

久し振りにやって来た東武浅草駅。 今年の春に改装されて開業当初のレトロな外観が復活している。 そこから乗り込むスペーシアもまた、私が乗った当時とは装いが異なっている。 その路線名ですら東武スカイツリーラインという愛称が付いた。 東京スカイツリーが出来て、このあたりはすっかり変わってしまったようだ。 そんな思いと二人の自転車を乗せ、朝8時発の「きぬ103号」は定刻発車で浅草駅を後にした。 その曲がった窮屈なホームを出ると隅田川の上をゆっくりと渡り、スカイツリーに見送られながら徐々にスピードを上げて行く。 スペーシアは車内もリニューアルされたようだが、旅に彩りを添えてくれたアテンダントの乗務がなくなってしまったのが、私としては何よりも寂しい限りだ。

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「スペーシアで輪行してどこか日光方面でも走って来ようか」そう思ったのは2001年秋のこと。 実はそれに先立つ一ヶ月程前、私は会社のリフレッシュ休暇をとって単身で北海道へと渡った。 向こうで宿を起点にあちこち走るつもりで、あらかじめ宅配便で自転車を送り宿主に保管してもらっていたのだ。 ところが当日に北海道へ着いてみると折からの大型低気圧接近で、残念なことに休暇の間はずっと豪雨の日が続いた。 おまけに滞在中の9月11日にあの忌まわしい事件が起こり、基地として借りたコテージで独り外へも出られずテレビでニュースを見続けていた。 そんなこんなで、この旅でリフレッシュするどころか、すっかり意気消沈して帰宅したという次第だったのである。

しばらくモヤモヤしていたが、気分を変えてどこかもう一度走りに行きたいと考えた。 それで、まだ乗ったことのなかったスペーシアに白羽の矢を立て、その沿線で走るためのネタを探ることにした。 そうして出て来た案が、一度行きたいと思っていた東武矢板線の廃線跡辿りと組み合わせる事だったのである。 矢板線は、かつて東武鬼怒川線の新高徳駅と東北本線矢板駅との間を結んでいた非電化のローカル線で、ピーコックという古典的な蒸気機関車が客貨混合の列車を牽いてのんびり走っていた。 しかし元々人口も少ない地域であり、沿線にさしたる観光地もなかった為、昭和34年に廃止されてしまったのだ。 ちなみにこの線についての希少な情報は基本的に鉄道雑誌から仕入れたもので、当時はまだネット上で廃線を扱っているサイトも自分の所以外は数えるほどしかない状態という時代だった。

そして今回、東武矢板線を再び訪れるのにはわけがある。 それは、11年前の訪問で私はそのほぼ全線を自転車で走破したものの、最後に一つだけ大きな忘れ物をしているからだ。 それをぜひとも探しに行かねばならない… ぜひとも…