Button前へ    田駄雄作の鉄道四方山話(過去記事)

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第7話:祖父の写真 Image

 私の母方の祖父「藤栄弥太郎」は20年近く前に亡くなっているのですが、その後発見されたアルバムに大正時代末期の写真が数多く貼ってありました。それも日本でなく、ジャワ島だというのです。当時はオランダの植民地だったジャワ島に、野心家だった祖父は商売で渡り、しばらく滞在していたようです。独身時代のことで本人が亡くなってしまっているので詳しいことは全く判りません。写真は古い寺院や、労働者、それに本人の写真などが多かったのですがその中に、蒸気機関車が写っているものがあったのです。祖父にそういう趣味があるという話は聞いたことがなかったので驚きでした。私が汽車の写真を撮っていることはもちろん知っていましたし、祖父の事務所には私の撮影した奥中山のD51の写真が飾ってあった位ですから、きっと本人も撮ったことなど忘れていたのでしょう。それになぜかジャワ時代のことはあまり人に話したがらなかったようです。

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 そのジャワの機関車の写真を、鉄道雑誌の編集部にいる友人に見せると、当時ご健在だった高田隆夫さんに照会して下さり、素性が判明しました。詳しい資料が現在手元に無いのですがオランダ製で1922年製造のD50形と言う機関車で、後に南スマトラ島へ転属したことまで判っているそうです。しかしジャワ時代の写真は皆無だそうで貴重な記録とのことでした。ジャワ島を始めインドネシアの鉄道はオランダが建設し、メーターゲージです。

 1922年と言うと大正11年ですから、祖父が撮影したのは配属直後と言うことになります。簡単に撮影とか写真とか言っていますが、当時個人で写真を撮り歩くなど普通の人はやっていなかったことで、単身渡航したことなどを考えても、当時の祖父の先進性というか冒険心というか好奇心旺盛なハイカラな人柄がしのばれます。

 私の知っている祖父は計理士の資格を持つ穏やかなやさしい人で、とてもそのような性格はうかがい知れませんでした。町内会の温泉旅行以外特に旅行もせず、写真も時折ハーフサイズのカメラでスナップを撮る程度だったように思います。しかし、その性格は末娘に受け継がれ、アメリカに留学し現地で結婚、現在もペンシルバニアに住んでいます。若干ではありますが私の中にもその血は流れているような気がします。天安門事件で挫折しましたが、中国との大きい商売を仕掛けたことなどは、血のなせる技だったのかとも思います。

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 私のことはさておいて、話はここで終わりません。数年前に祖母も亡くなり家を片づけることになったんですが、その時茶封筒に入った100枚以上のネガが出てきたのです。アルバムに入っていた写真も含め、やはりすべてジャワ島のもののようです。手札判と名刺判が約半数ずつ、小型の組み立て暗箱のようなカメラを使っていたようです。80年ぐらい前のものですが、画像もはっきり残っていますし、変色も大したこと有りません。30年前の私のネガより良いくらいです。なによりもサイズが大きいので、絵柄もしっかりしています。 そのネガの中にまだあったんです「鉄物」が!全部見ていただけると思うんですが、鉄道の写真と言うか、鉄道の情景が描かれている作品であることに驚かされます。おそらくこの写真、当時のプリントは残っていませんし、ひょっとしたらアルバムの写真以外はボツとしてプリントはされなかったかも知れません。(プリントと言っても当時は殆どコンタクトプリント)ということは、孫である私のコンピューターの中で引き伸ばされ、80年ぶりに蘇ったジャワの鉄道情景ということになります。場所も撮影データも知るよしもありませんが、一枚一枚が感動ものです。インドネシアは気候も温暖でとても暮らしやすい処、と聞いていますが、当時もそのままであったようですね。なかでも驚かされるのは川で洗濯をする(?)女性と子供のバックに列車が鉄橋を渡ってゆく写真です。最初はピンぼけ?と思えたのですが拡大してみると前景に合わせてあるんですねえ。記録的には列車にピントを合わせて貰いたかったものですが、謎めいた機関車、客車に想像力がわいてきます。他のネガにこの親子を撮った物が何点かあり、コミュニケーションを取りながら列車の通過を待っていた様子です。フィルム感度はおそらく当時のものはISO-10とかそんなものだったのではないでしょうか。明るいレンズも無かったでしょうから撮影の苦労が忍ばれます。私が日高本線で撮影したC11の写真に同じようなものがあり、驚きました。前景の老人と馬にピントを合わせ、バックの鉄橋上を少しぼかしたC11の重連が行くもので、私の好きな写真の一枚です。ここにその写真を並べるのは控えますが、いずれお披露目します。
ホームを歩く少女の写真は映画のワンシーンを見ているようです。

 今回あらためて入力するので大きい画面で見たのですが、80年前と言うことを考えてもそのレベルの高さに驚かされました。その血が私に繋がっていることを感謝したいと思います。 この写真を見た感想をお聞かせいただければと思います。

2001/11/06

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