純粋に「貨物線」と呼べる線が少なくなった昨今、首都圏で定期の旅客列車が走らないこの新金線は貴重な存在だ。常磐線と総武線を短絡する貨物路線としてこれまで重要な使命を担って来たが、京葉線の貨物化推進によりその位置付けは微妙なものになりつつあると聞く。
そんな新金線の沿線を、そぼ降る氷雨の中、半日ほど歩いてみた。時間帯が悪く、結局一本も貨物列車の姿を見る事はなかったが、それはある意味この線の置かれた現状を、よく表わしているのかも知れない。
新小岩駅の北口は、意外な程こじんまりとしていた。人ごみに、差し掛けた傘をかしげつつ、バスも入って来れない様な狭い駅前の小路を行く。11月も、はや後半。今世紀最後の冬を向かえるが、さすがにこの時期の雨は冷たい。着て来たジャンバーの襟をたて、角を曲がって線路際を小岩駅方面へ。旧新小岩操車場の機能が実質廃止されたのは平成9年だそうだが、しばらくここを訪れる事のなかった私には、多くの貨車がたむろしていた頃の光景がつい昨日の事の様に思われる。
1.操車場跡に建築中のビル 奇抜な色の建物だ |
蔵前橋通りから右折して、ちょうどヤード中央部あたりを横断している大跨線橋、小松橋に登ってみる。橋の下には、新金線、総武快速線、総武緩行線と、多くの線路が並んでいる。操車場が活動していた頃は、さぞかし興味深い風景が展開したであろうこの場所から、今見えるのは建築中の大きなビル。振り向けば天空に聳えたつ照明灯は、機関区のものでなく跡地に建設中のスタジアム。遠くからトリプルヘッドライトをかざして疾走して来た E217系が、眼下のハンプを駆けあがる。いやこれは、ヤードへの進入口を確保するための立体交差だ。これも新金線が機能しなくなれば、早晩無用のものとなるのだろう。
2.堤防上から新小岩方向を見る 左が線路、右が旧線路敷 |
蔵前橋通りに戻りさらにしばらく歩くと、やっとの事で新金線が本線を離れ、右手からこの通りを斜めにオーバークロスしている。私も通りを渡り、線路に沿って住宅地の中へと歩を進める。上部に高圧送電線を併設した特徴的な架線柱が、ずっと川の方へと向かって並んでいる。土手の手前で線路は若干右カーブし、川へと向き直ってから鉄橋を渡るが、その左手には線路に沿った空地が雨にうたれており、これがかつての線路跡だったようだ。
3.浅緑のトラス 左側には無用の橋脚が |
土手に登って鉄橋を観察してみる。これぞまさしく... という感じの典型的なトラス橋だが、その脇にはもう一対の橋脚が川の中に顔を出している。新金線は全線にわたって複線対応で設計された様だが、ここにもその名残が残る。目の前の新中川は黙々と流れ、川の中程に係留されたプレジャーボートの群れが、波に任せてウェーブを繰り返している。送電線の方からは、「ヴィーン... ヴィン」というかすかな電気音がリミックスして聞こえて来る。雨は相変わらず降りしきり・・・、そして期待していた列車の姿は、さっきから全く見えない。