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次の電車で古町まで戻り、一旦下車して駅の周りから車庫を観察させてもらう。 古町は鉄道の高浜線と軌道の城北・大手町線が連絡している駅であり、実はこの構内でも両線は平面交差しているのである。 鉄道線の大きな電車と小さな路面電車が次々と交錯しつつ往来して行く様はなかなかの見ものだ。 駅東側には路面電車の車庫があり、数名の作業員の方が声を掛け合いつつ整備をこなしていた。 線路を渡って西側は主に鉄道線の車庫だ。 元京王2010系の800形がたくさん留置されていたが、この中から何本かが銚子電鉄へ売却されるようだ。 多くの車両に混じって、京王重機から送られて来たばかりと思われる井の頭線の3000系もチラリと顔を覗かせていた。 変電所の建物もかなり年季の入ってそうで好ましい佇まい、そしてそのすぐ脇には伊予鉄きっての珍車と歴史遺産がさりげなく並んでいたりするのも嬉しい。 かつて入換えに使われていた荷物電車「モニ30」はパンタも降ろされ放置状態だが、まだ車籍はあるらしい。 坊ちゃん列車のオリジナルと言われる2軸客車「ハ31」は、傷みが激しい為かシートでスッポリと覆われていた。

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古町駅鉄道線ホーム

古町から再び電車に乗り、そのまま直通する横河原線に乗って終点横河原まで。 途中の石手川公園駅は河川の上にホームがあり、鉄橋のトラスをホームが包んでいるという驚異の構造。 下車しないので写真は撮れなかったが、窓の外にチラリと鋼体が見えた。 横河原線の電車は郊外を意外な高速で飛ばし、到着したターミナルは住宅地の中にある大屋根の古びた駅だった。 すぐに折り返して今度は郡中線へと向かう。 横河原線からの乗換え駅となる松山市は伊予鉄の中核駅で、百貨店を併設した大規模な駅ビル一階にホームがある。 街の中心部に近く、駅前は路面電車の始発終着点でもあり、JR松山駅前あたりよりも活気のある場所だ。 隣接して建つ立体駐車場ビルの下には電車の留置線まであるという、凄い構造になっている。

その松山市駅でジャストタイミングで接続してくれる郡中線の電車に乗り込んだはいいが、既に車内は満席で仕方なく運転室すぐ後ろのドア脇に収まる。 さすがに乗り疲れて来て、吊革にぶら下りつつ眠気と戦いながら前方線路を凝視しているが、気を抜くと膝カックンしてしまいそうで少々心もとない。 これから向かう郡中港は「ぐんちゅうこう」と読むなかなか勇ましい響きの駅名だ。 最初、郡山の「郡」と、読みの同じ那珂湊を連想して「こおりなかみなと」とでも読むのかと思ったが全然違っていた。 そんな事を思い出しながら揺れに身を任せていると「郡中」とスピーカーから流れて来たので反射的に下車したら、なんとそれは一つ手前の駅だった。 仕方なく一電車待って次のに乗ったが、郡中線は約20分ヘッドで走っているのでこんな時は助かる。

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古風な表示の横河原駅

郡中港は海岸から少し山側に入った国道沿いにある1面1線の小さな終端駅だが、道路を挟んで反対側にあるJRの方は伊予市駅となっている。 これで伊予鉄の鉄道線は全線を制覇したので、ここからは18切符で松山へ戻ろうと思う。 道路を渡って行くと一階建ての小さなJR駅舎があり、その横の広場は「手づくり交流市場」との事で露店が並んでいる。 待ち時間があるのでここのテーブルでサイダーを飲みつつ少し休憩し、やがて入線時間が近づいた頃合を見計らって待合室へ。

駅に客は殆どいなかったが、白いブラウスのすらっとした女学生が一人目に付いた。 何となく「マドンナ」という言葉が脳裏に浮かんだが、彼女は何やら困った様子でそこにいた保線作業員のおじさんと話している。 そしておじさんが奥に引っ込んでいた駅の女性職員さんを呼び出し、改札の所で3人で相談が始まった。 漏れ聞こえて来た会話の断片によると彼女の行き先は伊予立川らしい。 予讃線はこの先の区間で海岸まわりの元々の線路と、通称内子線と呼ばれる後から内陸に出来たショートカット路線の二手に分かれている。 伊予立川はその内子線の方なので、想像するに別路線に誤乗してしまいここまで戻って来たのかも知れない。

その彼女を乗せた下りの気動車が発車した後、松山方面から私の乗る電車が到着した。 予讃線の電化区間はこの伊予市駅までだ。 JRは郡中線に比べて駅が少ないので乗ってしまえばあっという間、居眠りする暇もなく松山まで戻った。 小さな駅ビルの2階で一頻りお土産を漁り、夜食の買い出しも済ませて一旦ホテルへチェックイン。 まだ日暮れまでは少し間があるが、先に宿へ行った理由はこの日の宿泊プラン「道後温泉入浴券&1日乗車券クーポン」にある。 フロントで入浴券と市内電車のフリー切符を受け取り、部屋に荷物を置いて温泉へと繰り出す。 松山駅前電停から電車に乗り、お城の下をチンチンゴーと走って夕暮れの道後温泉へと着いた。

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宿で貰った入浴券と一日乗車券

道後温泉はさすが松山の一大観光スポットだけあり、駅前の広場には老若男女たくさんの観光客が集まっている。 近在の旅館から繰り出して来たのか浴衣姿でそぞろ歩く人達も多く、見ているだけでも温泉気分が盛り上がる。 駅前の引上げ線には坊ちゃん列車が待機していたが、ちゃんと観光客が記念写真を撮れるような位置に停車しており、動いていない時もおもてなしを意識した運行者の配慮が感じられた。 うきうきした気分で土産屋のアーケードの中を進み右折すると、目の前に現れるのは有名な道後温泉本館の建物。 これは少なからず感動する光景だ。

もらって来た入浴券「神の湯階下」は汽車で言うところの三等車で、入浴のみ出来るいわば銭湯コース。 二等車の「神の湯二階」はこれに浴衣が付き二階の大広間に上がって休憩が可能。 他に一等・特等の霊の湯コースもあるが、まぁ私のような庶民にはあまり縁が無いだろう。 玄関で靴をロッカーに入れ、入口で券を見せると係りの人がそれぞれのコース毎に客の行き先を教えてくれる。 神の湯階下の男湯は入ってすぐ廊下を左折した奥に脱衣場がある。 館内は高い天井や二階から降りて来る急な木の階段があったりして、千と千尋…の世界を想起させてくれる。 湯船に浸かってふと見上げると、壁の高い位置に「坊ちゃん泳ぐべからず」という札がかかっていて、思わず笑ってしまった。

神の湯階下でも館内で入浴後の休憩を楽しむ事は出来るが、但し場所は玄関の中にある木のベンチだ。 目の前の自販機には、私の好みを見透かしたように瓶入りの牛乳が売られている。 もちろん、お湯で火照った体を冷ましつつ、ここで珈琲牛乳を飲みながら一休みしたのは言うまでもない。 ちなみに休憩後の宿までの帰り道は上一万の電停で城北線に乗り換えてお城の北側を回り、さらに一旦松山市駅前まで往復してから戻った。 この日の宿の窓下は電車通りだったが、結構夜遅くまで手軽な市民の足として電車が往来しているのには感心した。 やがてその窓をポツポツと雨の雫が濡らし、瞬く間に土砂降りとなった松山の夜に雷鳴が轟いた。

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