四国のローカル私鉄を求めて、松山と高松を乗り歩き [ 2009/08 ] |
1. 四国へ目には車窓を流れ行く景色が映っている。 いったい私は今ここで何をしているんだろう…。 ほんとうは電車の中じゃなく家にいて、ただ布団の上で夢をみているだけなんじゃないか? そんな事をボーっとした頭の中で考えるともなしに考えている。 旅に出て普段と違う環境に身を置くと、時々こんな感覚に襲われる事がある。 でも、ふと我に返るとやっぱりそこには旅に出ている自分がおり、列車のゴトゴトと走る音が急にはっきりと耳から入って来る。 そして、これは現実なんだとあらためて思い直す。 私はどこかのバーのカウンターでママさんと話をしてるんだろうか? 普段そんな場所には行きつけない自分なのに、この時は真っ白になった頭の奥でそう思った。 それは入っていったビジネスホテルのフロントでの事だ。 予想外にこじんまりしたカウンターを挟み、黒い壁を背にした小柄な年配の女性が台帳のページをめくっている。 「予約入って無いですね…」こう言われて少々パニックになった。 「え?ネットで予約したんですけど」「おいくらの部屋?」「6千いくらだったかな…」「高いわネ、うちは大体5千円台よ」 そう言われてようやくハッと気がつく。 またやってしまった。 リュックから予約時のメモを取り出すと明らかに違うホテル。 列車に乗るのを好む人間の習性として、観光地よりも駅前に宿をとる。 それは、最短で15分くらいあれば朝起きて身づくろいしてチェックアウトもして改札に駆け込める便利さがあるからだ。 駅前の宿はどこも似たような名前を冠している場合が多い。 ××ターミナルホテル、××ステーションホテル… それで間違えた。 「失礼しましたー。今度来る時はこちらに泊まりますね」 そそくさと荷物をまとめて玄関を出る私を、きっとこの宿の名物おばちゃんだろうフロントのママさんは薄笑いでお見送り。 実は東北を行脚した時もこれと似た経験をしている。 入っていったホテルのロビーが明らかに格調高く、すぐ間違いに気づいた。 でも進み行くフロントでううやうやしくこちらに礼をしているホテルマンの視線から、私は逃れてUターンする勇気がなかった。 「ここは××ホテル… じゃないですよね」「あ、それでしたらこの先でごさいます」「失礼、間違えました」「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」 良く出来た応対にかえって心が折れた。 |
失敗談で長くなったが、それは四国の旅最終夜の出来事であった。 そう言えば今回は出発時から多少の波乱を含んでいた。 そもそもこの旅の目的の一つに、今となっては唯一東京口で残された夜行寝台特急に乗る事があった。 それで一ヶ月前の発売日に地元の駅でサンライズの切符を購入したのだが、端末を扱う彼の手付きがどう見ても不慣れだ。 こちらの出した購入メモとモニター、そして引き出しから取り出した操作解説書のような冊子をとっかえひっかえ眺めつつ格闘する事10分あまり。 ようやく出て来た券片を手にして私は家へ帰った。 それから旅行の準備やら宿の手配やらでしばらく切符の方は放っておいたのだが、ある日ネット上で見つけた列車編成表を確認して愕然とした。 指定したBシングルにもちろん間違いは無かった。 希望として書いた2階部屋もとれている。 問題は6号車だ。 編成全体に渡ってズラリと並んでいる「禁煙」マークのアイコンが、この車両だけブランクになっていたのだ。 もう一つ、部屋が山側だった事もあるのだがこれはまぁ許すとして、何でよりによって喫煙車にあたってしまったのか。 どうも納得がいかないが、いゃまてよ…、と思い返す。 購入時に窓口へ渡したメモには確かに喫煙/禁煙のマーク欄があった。 でも、その禁煙の方に丸を付けたはっきりとした記憶がない。 どうやら指定しないで出してしまったか? いや、だったら普通は禁煙車がデフォルトだろう。 ひょっとして禁煙と間違えて喫煙の方にマークをしてしまったかも知れない。 字づらが似ているのでこいつは間違いやすい。 しかし今となってはもう代替えの部屋も売り切れている筈である。 喫煙車とは言っても個室なんだし、熊本へ行った時のように目の前の廊下で吸われるよりはまだマシだ。 きっと煙草臭が部屋に残っているだろうが、消臭スプレーでも持って乗れば何とかなるか。 というような思考回路で、この件は成り行き任せで当日の乗車まで捨て置いた。 捨て置きついでに消臭剤を買うのまで忘れて乗ってしまったが、結論から言うと臭いはやはり少々気になった。 車齢がまだ若いからか部屋は汚れていなかったが、寝ていてトンネル通過時に空気圧の変動で煙草の臭いが換気扇の奥から漂って来る。 まぁ気分が悪くなるほどではなかったが、これすらも気にする人には耐えられないのかも知れない。 |
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また長くなってしまった。 とりあえず当日になり会社を終えてから東京駅に駆けつけ、無事「サンライズ瀬戸」車中の人となってしまえば後は翌朝の高松まで、当たり前だが寝ていてもこの電車が連れていってくれる。 その間この占有スペースを満喫しなくちゃ損だ。 部屋はオロネのA個室寝台の時と比べてしまえばさすがに天井は低いが、進行方向の奥行きがあるので意外と圧迫感が無い。 ただBタイプは部屋じゅうほぼベッドなので、窓際に腰掛けるという事が出来ないのが難か。 ま、出発が22:00だから車窓を楽しむも何もないのだが、翌朝日が昇ってからの走行距離が長い出雲の方は少々苦しいかも知れない。 サンライズは東京駅を3分程送れて発車した。 この日は京葉線の停電などがあって、その影響も多少あったのかも知れない。 駅弁を食べて一息つけばもう時刻は11時をまわっている。 車内を満喫したいのはやまやまだが、見るべき景色もなく、お腹も満腹とあらば睡魔に襲われるのは避けようもない。 まだ寝ないけどちょっと横になるかとベッドに体を横たえたら、それからしばらくの意識が見事に飛んだ。 ゴーという音で次に目を覚ませば、列車はトンネルを通過中。 大窓のシェードを全開にすると、曲面ガラスの外を室内灯に照らされた丹那トンネルの上部壁が高速で流れてゆく。 これを寝ながらにして眺める事が出来るのはとても愉快だ。 翌朝は岡山着のアナウンスで目を覚ます。 理由はわからないが遅れは10分程になっている。 平日なので朝のダイヤに引っかかったか、宇野線に入ってからはノロノロ運転が続き、さらに遅れは拡大したようだ。 児島を発車するといよいよ瀬戸大橋を渡りにかかる。 山側の部屋で不遇をかこって来たが、朝の瀬戸内海を見渡せるこの区間に関しては景色が順光になるメリットがある。 とは言え両側を眺めたいのは心理で、岡山下車客の空き部屋ドアが開いていたので、そこから覗いて朝日に照り映える景色をも堪能させてもらった。 いい気分になったところで対岸の四国も近い。 スピーカーからお乗換えの案内が流れ出すが、サンライズ遅延により、接続する特急「いしづち」のお客様は坂出で乗り継いでくれと来た。 一旦高松まで行って折り返しの普通電車に始発駅から乗ろうと計画していたが、特急がこの状態では三等客の私にはさらに無理がありそうだ。 仕方なく荷物をまとめて坂出のホームに降り、一夜の宿となったサンライズを見送った。 どうも先年のはやぶさにしろ、私には寝台特急に終着駅まで乗れない宿命があるようだ。 |
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