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2. 灼熱の松山

予定外の坂出駅ホームで四国への第一歩を踏み出す事になったが、今日は予讃線を乗り継いで松山まで行く予定だ。 一旦改札へ行き18切符の日付印を押してもらい、しばらく待って当初計画通りの高松からやって来た観音寺行き電車に乗った。 予讃線は四国の北半分を海岸線沿いにグルリと走っているが、意外に海の見える区間はそう多くない。 その最初の機会は多度津を出て海岸寺から津島ノ宮にかけてのあたり。 ここは瀬戸内海の小島が浮かぶ海岸風景が続く、四国らしい車窓の展開する珠玉の区間だ。 その津島ノ宮駅だが、駅近くの海上にある津嶋神社のお祭りに合わせ、年に二日しか営業を行なわない日本一営業日数の少ない臨時駅だそうだ。 列車の窓からも一瞬その津嶋神社が見えるが、海上の小島に小さな社があり、そこへ向かって海岸から一直線に長い橋が架かるという奇景を拝む事が出来る。

予讃線はその後内陸に入り観音寺(かんおんじ)で乗り換えてから少しの間また海岸に出るが、あとは伊予西条まで四国北岸中央部のへこみを海から距離を隔てつつ進む。 途中、嗅いだ事のある臭いがするなと思ったら外に大王製紙の高い煙突、静岡の富士駅周辺で経験したのと同じ臭いだ。 本線に沿った長い側線には入れ替えのスイッチャーや多くの貨車が並んでいた。 伊予西条では乗り換えに30分弱の時間があったので、一旦駅の外に出てみた。 線路脇に展示館のようなものを発見して覗いてみると「四国鉄道文化館」との事で、四国で最後の活躍をしたDF50が展示されていた。 併設してここには地元出身で新幹線の父と呼ばれた十河信二元国鉄総裁の記念館もある。

発車時間が近づき、ホームで次の列車を待つ。 私が乗る電車の入るホームには逆方向の観音寺行きが発車を待っている。 そこへ、留置線から転線して伊予市行き単行の電車が入って来たが、あわや連結してしまうんではないかという距離までギリギリに接近して停車した。 感心して見ていたが、これが日常繰り返される風景なのだろう、なかなかの離れ業である。 時間が来て瀬戸の花嫁の曲に送られて発車、予讃線の駅では定番の発車メロディだ。 ここから松山までは大きく北に突き出た高縄半島を回り込んで進む。 直線でショートカットすればかなりの時間短縮になりそうだが、沿線には一大工業都市の今治があるのでそうも行かないのだろう。 だがそのおかげで、今治を出てからの海岸線区間を堪能出来るのは嬉しい。 見晴るかす海上の緑の山はこれから進み行く岬か瀬戸内海の小島か、はたまた対岸の本州が見えているのか。 そんな茫洋とした景色を眺めつつ、崖上をうねうねと回り込みながら眼下の海を存分に楽しみ、お昼ごろに松山駅へ着いた。

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讃岐富士がお出迎え

熱風が封印されたようなムっとする跨線橋を渡り炎天下の駅前広場に一歩出ると、「アチっ」と思わず声が出た。 さすがに夏真っ盛りの四国の昼下がりはチリチリと暑い、いや空気が「熱い」と感じられる位だ。 大通りを往来する市内電車を目で追いながら、少し離れた伊予鉄の駅までビル影を伝いつつトボトボと歩く。 私を追い抜いていった路面電車がその向うで一旦停車した後、パンタグラフを軽くスパークさせながら踏切を渡った。 そう、ここ伊予鉄の大手町駅前は鉄道線と軌道線が平面交差する、今となっては全国でも稀有な場所なのだ。 線路と共に架線の方もどんな風になっているのか興味があったが、カメラをズームにして覗いてみてもなかなかその構造は理解し難かった。

大手町駅で切符を買い、ここから高浜線を終点まで往復して来ようと思う。 駅はビルの谷間にある対向式の細長いホームで、何となく昔の京成船橋駅のイメージに似ている。 上下線の間を結ぶ地下道を抜けて向かい側のホームへ登って行くと、ちょうど高浜行きの電車がやって来た。 その面構えは一目見れば生い立ちがわかるというもの、流麗なパノラミックウィンドウは紛れも無く京王5000系のもの…  いゃ違う!これは裾絞りが無いから元京王の2010系に新製の運転室を乗せたやつだ。 ひんやりとした車内に腰を落ち着けると汗も引いて人心地がした。 さすがに昨今は地方私鉄と言えども冷房化率は高くて有難い。 ゴトゴトと少し走るとすぐに車庫も併設している古町駅、そこを発車すると電車はやおら左カーブを切って高架上に駆け上る。 道路と立体交差するだけかと思ったらしばらくそのまま高架線、しかも複線のままだったので驚いた。

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大手町駅前の平面クロス

その先線路はしばらく切り通し状の中を進み、予讃線をアンダークロスした後もまだ複線は続いた。 終点高浜の一つ手前、梅津寺駅はホーム裏手がすぐ海でなかなかの景色。 聞けばドラマのロケ等でも使われたとの事で頷けるものがある。 駅最寄で伊予鉄直営の梅津寺パークは残念ながら今年の春に閉園となったそうで、既に海岸の跡地は何も無い更地となっていた。 ここでようやく単線となり、山の麓を掠めながら一区間走って高浜へ着いた。 改札で駅員さんに切符を渡し、暗い待合室を抜けて駅前に一歩進み出ると、車道を挟んで向こう側には高浜港の明るい景色が広がる。 ここは目の前に浮かぶ輿居島へのフェリー乗り場となっており、ちょうど島から渡って来た船がゲートを下ろし乗客が三々五々下船して来た所だった。

道路のあたりから振り返って眺めると、背後に山を背負った駅の外観は大変味わいがある。 昭和初期に建てられたものらしく、それなりの年月が経っているようで歴史を感じさせる作りだ。 一頻り賑わった駅前も、折り返しの電車が数名の客を拾って行ってしまうと私一人が取り残される形になった。 お昼をまわっていたので売店でお握りを調達し、駅前の屋根下にあるベンチに腰掛けて一人海の方を眺めながら食した。 ここから少し足を延ばせば坊ちゃんに出て来る「ターナー島」が拝める筈であるが、今回は暑いのでやめにしよう。 といいつつ、次回があるかどうかは全くもってわからないのであるが…。

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梅津寺駅ホームの向うは海

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