~ 二日目:山陰本線(京都 → 松江) ~

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京都~園部

翌朝は6時に起床し、軽く朝食を済ませて7時にはチェックアウト。 ホテルからは日陰のある裏小路を繋げて駅へと向かう。 既に日は昇って気温も高く、京都の夏はとても厳しい。 宿は九条通りに面していたので地下鉄で1区間、これぐらいは歩いたほうが早いとの判断だったが少々後悔の念が首をもたげる。
駅に着き有人改札で日付印をもらい、山陰本線の発車する31番乗り場を一旦確認。 その後、乗車前にトイレを済ませておこうと0番ホーム伝いにずっと歩いていったら、延々歩いて米原側の端っこまで来てしまった。 上階か地下へ行ったらもっと近くにあったのかも知れないが、この往復でだいぶ時間を食ってしまい、乗り場に戻ると既に乗る電車が入線していた。

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山陰本線列車は京都駅31~33番のりばから発車する

平日のこの時間帯はもちろん朝の通勤ラッシュであって、当然の事ながら座れない。 リュックは網棚に乗せて通勤客に擬態し、身軽な状態になって吊革にぶら下がる。 乗った電車は223系園部行き、前回は湘南色113系福知山行きだったが、その間に19年の時間差があるので当然だが隔世の感がある。 定刻発車、電車は高架から梅小路鉄道博物館を見下ろしながら右へカーブし、梅小路京都西駅に停車。 2019年開業の新駅だから私は初体験である。
普通列車なので市内の各駅に小まめに停車して行くが、花園駅を無事に発車してやっと不安が拭われた思いがする。 それは、前回この区間で人身事故があり、計画が大幅に狂ってしまったからである。 今日は特にアナウンスもなく、嵯峨嵐山を経て山岳区間へと駒を進める。 並河あたりまで来るとようやく通勤客の姿も少なくなり、転換クロスシートに着席する事が出来た。 こうなると単なる移動でなく、「旅」という気分になって来る。

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園部~城崎温泉

園部でホーム向かい側電車へ2分の乗り換え。 車両は引き続き223系だが、編成はグッと短くなり、2両のワンマン運転だ。 しかし乗り継ぐ人は少なく、余裕で座る事が出来た。 ここからは単線となるので、駅での列車交換待ちが増える。 次駅の船岡でも早速交換待ちのアナウンスが流れたが、しばらく停車した後、特に対向列車も来ないままに発車。 列車待ちというより時間調整なのかも知れない。
鍼灸大学前駅では多数の学生が乗降、名前から請願駅なのだろうと思う。 少し先へ行って安栖里(あせり)駅では上り特急の「きのさき」通過待ち、一陣の風を残して駆け抜けていった。 続いて次の立木駅では交換待ちとのアナウンスがあったが、ここでも特に列車が来ず、再びの空振りであった。 列車は1時間半ほど走って福知山に到着、次の列車まで20分程待ち時間があるので一旦改札を出てコンビニへ行き、車内用の昼食を確保して来た。
福知山からは国鉄時代の残党113系に乗車、黄色に太い青帯の塗装が際立つ。 これは初代福知山色との事で、5年程しか使われなかった幻のデザインを復刻し、この6月から運行されているとの事。 色の組み合わせに既視感があるが、ドクターイエローを想起させるからであろうか?
さすがに普通列車でこの先へ向かう人は少なくなり、車内はボックス席を独り占め状態である。 発車するとすぐに左手に分かれて行く高架が見え「はて?ここで分岐する路線があったかな?」と思ったが、これは車両基地へ向かう線路であった。 途中で「きのさき」と交換したりしつつ1時間20分で城崎温泉に着いた。 前回の初乗車では山陰本線の電化区間は豊岡までであったが、現在はここまで伸びている。

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城崎温泉~鳥取

城崎温泉でも次の列車まで20分強あるので、改札を出て駅舎を観察。 しかし残念ながら何かの工事をしており、アールデコ調の瀟洒な建物の半分程が足場に囲まれていた。 外から構内を眺めているうち、既に次の列車が入線しているのに気づき、すぐに改札を入って乗り場へ急ぐ。 2番線で待っていたのは山陰本線の主とも言うべきキハ40系、首都圏色(朱色5号)の2両編成だ。 一応座れたが既に進行右側は全て埋まっていて、左側座席に甘んじる。 さすがに車窓を知っている旅人が多いようである。 だが、次の竹野駅で奇跡的に右側のボックスが空いたので、急いでそちら側へ移動。 竹野を出るといよいよ日本海が望めるので、絶好のタイミングではあった。
走るうち眼下に切浜の集落が見えて来れば、目の前には夏の日本海の穏やかな海面が広がる。 これを待っていた、これぞ山陰本線という景観だ。 いくつか小さな入り江の集落にある駅に停車しつつ、香住まで来るとこの辺りでは大きな街中となる。 次は鎧(よろい)、ここもホームから日本海が望めるなかなか風光明媚な駅だが、次に待っているのは山陰本線のクライマックスとも言える景色の場所だから何となく気持ちがソワソワ、車内の人達も動きが多くなる。
トンネルを二つ三つ抜け、空中に躍り出るといよいよ余部鉄橋を渡り始める。 前回通った時はトレッスルの旧橋梁で、既に架け替えが決まっていたが、今回はPC桁に架け替え後の新橋梁だ。 安心感はあるが、やはり以前のような高揚感はあまり無い。 渡り終わって餘部駅のホームに滑り込むと、さすがに観光客が大挙して降りて行った。 浜坂を過ぎ、少し静かになった車内でその後もしばし海岸沿いを走り、福部で列車交換を済して榎峠トンネルを抜けると、鳥取へ向かって勾配を下る。 その途中で滝山信号場の分岐と信号機が現れるが、近年使われていないらしく、線路は草藪の中にすっかり埋もれていた。

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余部橋梁を渡る列車。新橋梁は透明アクリルの防風壁が設置されている

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鳥取~松江

鳥取へは定刻に着いたので、次の米子行きまで50分待ち。 少し時間を持て余し気味で、駅前をブラついたり駅内のお土産屋を物色したりして時間を潰した。 ここから乗るのは俊足気動車126系で女性運転士が乗務していた。 この気動車、加速は良いがミッション機構の関係か、変速の際の衝撃がガクンと大きく感じる。
途中の青谷駅で20分以上停車し、列車交換と特急の追い抜きがあった。 さらに倉吉も15分停車、淀江で特急交換と続き、なかなかに旅路は捗らない。 せっかくの高性能気動車だが、鳥取~米子間93kmに2時間50分も要しており、表定速度33kmといったところか。 米子は2分乗り継ぎで効率よく、ここからはキハ40系、電化された架線下を行く気動車の乗客となる。 黄昏て来た空の下、30分程走って18時14分ようやく松江に到着した。
このタイミングで、松江駅構内のショッピングフロアでお土産を買っておく。 毎度ギリギリの旅程を立ててしまっているので、店舗の開いている時間というと今日か明日の夕方ぐらいしかチャンスが無いのだ。

松江宿泊

宿へと向かうが、本日予約してあるホテルは松江駅からは徒歩18分と遠い。 これも前回泊まった宿なのだが、その時に何故ここを選んだかと言うと、JR松江駅と一畑電車の松江しんじ湖温泉駅のちょうど中間あたりに位置するから、というのがその理由。 つまりギリギリ両駅まで徒歩圏内といったロケーションを優先させた結果なのである。
その際は、山陰本線のダイヤが乱れて宿到着が夜遅くになってしまい、遅れる旨連絡は入れていたが、シングルは眺望も冷蔵庫も無い部屋しか残っておらず、しかも連泊だった為に部屋に関しては残念な結果となった。 しかし対応はとても良かったので、私的には好感度の高い宿であった。 宍道湖に沈む夕陽が作る豪奢な帯を眺めながら、松江新大橋を渡ってウキウキと宿へ向かった。 大橋川の畔を歩き、大橋通りに出れば目指すホテルは目の前だ。

私は普段の旅行記で宿の名を出す事は基本的に無いが、今夜泊まる 松江シティホテル本館 はお気に入りで、百閒先生が溺愛する所の松浜軒の様な存在と思ってもらえると分かりやすい。 だが、先に記した顛末で部屋だけは前回外れを引いてしまったので、本日はそこを踏まえ「6室限定 宍道湖展望風呂付 DXクイーン」という豪華な響きのプランを抑えておいた。
建物のちょっと奥まった所にあるフロントへ行きチェックインを行なう。 昨日失敗したので、アメニティが部屋置きである事を係りの人に確認。 あと、サービスで翌朝に簡易朝食の提供があるとの説明が嬉しい。 これは、朝の時間帯にフロントに積んであるお握りとおかずのパックを各自で持って行く形式で、前回も重宝した。
部屋のキーをもらい6階に上がると、文字通り展望風呂付きの広い部屋が待っていた。 ひと風呂浴びて食事も済ませ、今日は長距離の移動で疲れたから早く寝たいところだが、その前に旅先での読書はかかせない。 今回のお供はもちろん「第三阿房列車」、その中の「菅田庵の狐」で百閒は山陰本線に乗って松江を訪れているのだから。 さて今夜の夢に狐は化けて出るだろうか?

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毎度お馴染みの「第三阿房列車」、もう何度読み返したことか

駅名時刻列車
京都0734229M
園部0820
08221123M
福知山0948
1012429M
城崎温泉1132
1156531D
鳥取1400
1450249D
米子1739
1741149D
松江1814