またまた朝の新潟駅。旅立ちの日も早起きだったので、これで3日連続の「若干寝足りない」状態だ。 もっとも、今朝は6時半起きだからまだ遅い方であるが。 宿をチェックアウトして少し歩けば、寝ぼけ眼のままでも駅前にはすぐ着く。 現在新潟駅は在来線立体化工事の最中で、構内は全体的に雑然としている。 近頃の大地方駅としては珍しい、いかにも国鉄時代に建てられたまま残る昭和のビルという風情の駅舎。 この建物もきっと、工事が完了したら見られなくなってしまうのであろう。
その駅ビル内の店で、昨夕は宿への帰りがけに「かんずり」という物を見付けてお土産に買った。 赤いペースト状の瓶詰めで、柚子胡椒の唐辛子バージョンとでも言ったら良いだろうか。 新潟地方の特産品らしいが、今まで知らなかったので興味津々で求めた次第。 新潟遠征旅は最終日を迎えたが、18きっぷなので時間的に本日の旅程はひたすら帰るだけ。 だがせっかくなのでここからの帰路は、まだ乗った事のない区間のある磐越西線を経由する事にした。
それで調べてみたところ、好都合にも新潟から会津若松まで直通する快速が朝に一本だけあるではないか。 比較的長距離を走る名前付きの快速は、かつての急行列車の名残りである場合が多いのだが、この快速「あがの」も調べてみると果たしてそうであった。 有人改札で3個目の日付印を押してもらう。 スタンプした後で「えーっと、本日の日付よし!(にこっ)」と指差喚呼の駅員さん、なかなかにお茶目だ。
発車時刻まで構内で撮影でもさせてもらおうと、立体化準備の為に仮設された頭端式ホームの方へ歩いて行く。 するとそこには、新車E120を先頭としたキハの3連が既に入線して私を待っていた。 ホームから一通り写真を撮り、ドアボタンを押して静かな車内へ。 夏休み中の朝8時台なので乗客は疎らだが、1両目ボックス席は既に誰かしら座っている状態。 2両目のE120も同様だったが最後尾のキハ110だけガラ空きで、私はそこのボックスに収まった。 出来れば新車が良かったけど、あちらは座席も硬そうなのでこれでいいや、と一人負け惜しみ。
快速「あがの」は新潟駅を出ると、しばらく緑の地平線を眺めつつ信越本線の架線下を走り、最初の停車駅新津に到着。 ここで大勢の人達がホームに列を作って待っていたが、何故か3両目には誰も乗って来ない。 普段乗り慣れている地元の人でも新車を好むのか? あるいは途中からワンマン運転にでもなって、無人駅は後部ドアから降車が出来なかったりするのだろうか。 新津からは非電化区間の磐越西線に入り、昨日訪れた五泉駅を発車すればもう新たな乗り込み客もいない。 停車のたびに何人か降りて行き、ボックスは相変わらず私一人のままだ。
馬下駅を過ぎると、左手には待望の阿賀野川が寄り添い始める。 右側の席にいる私は、今しばらくの辛抱だ。 三川駅の手前で鉄橋を渡ると、いよいよ我が車窓に阿賀野川がお出ましだ。 線路は複雑に蛇行した川に寄り添い、時にはショートカットでトンネルを一気に通り抜ける。 川面に映る山並みの濃い緑が美しい。 豊実が県境新潟側で最後の駅となるが分水界でなく、線路は引き続き阿賀野川に沿って遡上する。
山間の荻野駅では乗降客は誰もおらず、しかし委託だろうか?女性駅長が一人、遠くの改札口から礼をして列車を見送ってくれた。 山都駅を出てトンネルを抜けしばらく走ると、突然、一面の田園風景が広がり、列車は会津盆地へと駆け下りる。 電化区間となる喜多方からは大勢の観光客が乗り込んで来て、発車以来空いていた私のボックスも最後にようやく4人掛けの盛況を博した。
磐越西線は終点の会津若松でスイッチバック。 時間待ちの間に駅そばを啜って腹を見たし、ここからは交流電車の719系、赤べこマークの快速に乗って会津盆地から猪苗代湖畔へと勾配を登る。 磐越西線も会津若松から東の区間は過去に何度か乗っているから、車窓には多少の馴染みがある。 かつて沼尻鉄道跡の探索で訪れた川桁駅前の風景が、高速で窓の外を後方へと流れて行く。 上戸駅を通過すると郡山へ向かって徐々に下り勾配が急になる。
混雑して座れなかったので、私は最前部ドア付近でさり気なく「大人の」被り付きをしている。 ガッツリ張り付かず、周囲の人にそれを悟らせないのが「大人」たる所以だ。 運転室前には自分より年配と見受けられる二人の撮り鉄氏が陣取り、疾走する列車内からファインダー越しに必死で何かを狙っている。 二人カメラを下ろし苦笑いで顔を見合わせたのは、通過駅の中山宿を過ぎてすぐのタイミング。 ひょっとすると、スイッチバック跡でも撮ろうとしていたのかも知れない。
郡山で東北本線に乗り換え黒磯へ、さらに宇都宮から上野東京ラインの熱海行きに乗り継げば、もう今回の旅も終盤となる。 編成が長い分、室内の客はまばらで、私は占有したロングシートに一人浅く腰掛け、斜め後ろの窓外を眺めながら旅の余韻に浸っていた。 ふと網棚のリュックを見上げて思い出す、さてお土産にかった「かんずり」を今夜何と合わせて食してみようか…。 矢のように飛び去って行く景色、段々と日常世界へ戻りつつある車窓の向こうには、どことなく秋の気配を漂わせる白い雲が空高く筋を描いているのだった。