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[ 2017/11 ]

■旅のプラン

お祝いの品として頂いておきながら失敬な話だが、旅行券というものは全く以って使いづらい事この上ない。 消化するには、ツーリストに行って旅行を手配してもらうしかないので、近くに店舗がない場合はどうしても億劫になり、使わずじまいになってしまうのである。 手元にあった旅行券も8年ほど前に勤続30年で会社から贈呈されたものだが、一年以内に旅行する事という特例も逃してしまい、しっかり課税対象となった厄介者ではある。

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いよいよそれを使う気持ちになって重い腰を持ち上げたのは、今年8月に定年となった(退職はしてない)のを記念として、一つ夫婦旅でもしてみるかと思い立ったから。 思えば、20周年の旅行券は北海道に自転車を持ち込む一人旅に使ったので、今回は長年サポートしてくれた感謝の意も込めて、二人で近場に温泉旅行でもと誘ってみた次第である。 夫婦一泊で予算枠一杯使い切れる温泉場…さてどこがいいだろう、と考えた時に、鉄分の多いワタクシとしては箱根という目的地が浮かんで来るのはある意味自然な事と言えるかも知れない。

もちろん箱根は過去に何度も足を運んでいるし、子供が小さい頃に家族で泊まりに行った経験もある。 その時は民宿に車を置き、現地でフリーパスを活用してあちこち乗って回ったのだが、今回は往路にも楽しみを持たせたいと考えロマンスカーの展望席を所望してみた。 申し込んだのは宿と小田急ロマンスカーがセットのツアーだったが、展望席という希望を出す客はこれまでこの店にはいなかったらしく、最初のうちツーリストの担当者はちょっと首を傾げていた。 が、その場で本部と連絡をとってくれた結果「ご要望は承れます」との回答を得、その後、発売日に無事切符もとれたのである。

■ロマンスカーVSE

Photo 小田急 新宿駅 ロマンスカーカフェ

当日は朝8時頃に家を出て、青梅線の東京行きで新宿へと向かう。 平日に休みを取って出かけて来たので、ピークは過ぎているが通勤の時間帯である。 当然座れるわけもなく、通勤ラッシュ慣れしていない二人は新宿駅に着いた時点で既に疲労感に打ちひしがれていた。 人混みを掻き分けて小田急線のホームへと向かう。 ツーリスト発行の切符は裏白なので、有人改札でスタンプを押してもらってホームへと入ったが、万が一を考え余裕を持って来たので発車まではまだ大分間がある。 そこにあった「ロマンスカーカフェ」に入り、珈琲を飲みながら時間をつぶした後に乗車位置のホーム先端へと向かった。

ロマンスカーが発車するのは地上ホームの2番、3番線である。 特に我々の乗る2番線はJRの線路と隣り合っており、向かいに停車した通勤電車からの視線を受けながら歩くホームは、普段とは逆の立場でちょっとした快感だ。 入線して来たのは白いボディのVSE50000形、途中小田原以外は無停車の箱根湯本行き「スーパー箱根」号である。 清掃が終わりドアが開くと、早速車内に乗り込む。 さすが第一級の観光地へ向かう列車だけあり平日でもほぼ満席、昨今の世相を反映してか外国人客も多くみられる。

Photo 小田急ロマンスカーVSE(50000形)

隣の3番線からMSEが発車して行ったのに続き、しばらくしてVSEも発車、列車は右にカーブを切って初冬の青空の下へと躍り出る。 我々の指定席は前から3列目、走り出して気づいたが、前席の背もたれが意外と高く前方の展望はあまり良くない。 私は内側席に掛けたので、通路から覗き込むようにすればかろうじて見えるのだが。 それに、進行左側の席だった為、午前中は直射日光がもろに横から射す。 3列目以降は窓に付いたブラインドを降ろせるが、2列目より前は三角の展望窓で何も付いていないので、夏場はキツイかも知れない。 そう考えると条件的に一番いいのは1列目右側で、案の定そこにはマニアと思しき青年のコンビが席を占めていたのである。

列車は複々線区間を小気味よく飛ばした後、登戸、町田、相模大野と普段使いの駅を通過して徐々に郊外へと進んで行く。 前方を見ているためかスピード感はあまりなく、むしろユッタリ余裕の走りと言った感じだ。 VSEには車内販売のサービスがあるが、既に乗る前から珈琲を飲んでしまったので今回は特に何も注文しなかった。 見ていると研修中の新人販売員らしく、客から何か問いかけられた時に、後方にいる先輩女性の方を助けを求めるような顔で振り向くのが初々しい仕草だった。

Photo ロマンスカー展望席

海老名や本厚木あたりまでは割りと馴染みのある駅だが、そこから先はいよいよ田園風景も開け、ようやく旅に出たなという感じになって来る。 御殿場連絡線の危うい線路を右手に分けて新松田を過ぎると、ロマンスカーは足柄平野へと降りて進路を南に向ける。 足柄駅を高速で通過すれば、次はもう最初で最後の中間停車駅、小田原である。 小田原ではかなり長時間の停車となるが、ここから先は箱根登山鉄道の線路で単線なので、その為の時間調整なのだろう。

しばらくして発車、小田原で展望席客の出入りは殆どなかったが、唯一、先頭に陣取っていたマニアらしき二人だけが降りて行った。 走り出して少しすると、後ろの方の車両から展望席を見学に来た孫とおばあさんと思しき二人、暫し通路に立って前方を見ていたが、客の一人から「先頭空いてるから、座っても大丈夫ですよ」と声がかかる。 嬉しそうに席に着く二人、何となく穏やかでアットホームな空気が流れ、とても良い気分になれた。 そういえば乗ってから「切符を拝見」が無かったが、発券済の指定席に客が座っているかどうかだけを車掌がチェックする運用方式のようだ。

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