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〜 三日目:大船渡,気仙沼,石巻線 〜昨夜一ノ関に宿をとったのは、大船渡線の始発に乗るためである。 早起きして5時半頃に宿を出て、早朝の大通りを歩き駅へと向かう。 まだお日様は充分昇っていないが、空模様からすると今日もお天気は良さそうで、これで3日間共に晴れが続いている。 私は雨男ではない。 リフレッシュ休暇で北海道へ渡った時のあの大荒れは、ただ単に運が悪かっただけだ…と思っているが、さて真相はいかに。 駅に着き跨線橋を渡って行くと、3番線ホームには既に盛行き普通列車が待っていた。 相変わらずのキハ100系だが、本日は110形でなくショートボディの100形の方で、単行という事も相まってその姿は一段とコンパクトに見える。 車体側面にドラゴンマークのシールが貼ってあるが、別に沿線に竜の民話伝承があるとか、そういう理由が存在するわけではない。 6時2分、定刻発車。 駅を離れ、東北本線から左手に分かれて、エンジン音も軽やかに加速して行く。 日曜の始発列車は乗客もまばらで、車内はまだ夜の帳を引きずる空気が流れており、あちこちのシートに散らばった人々は皆一様にボンヤリとした時間を過ごしている。 私も進行左手に席をとり、窓にほおづえを付いてぼんやりと流れ行く景色を眺めていた。 ところが、単調なジョイント音と共に国道沿いのゆるいカーブをしばらく進んでいた列車は、次の瞬間、突然の長警笛と共に急制動をかけてつんのめるように停止。 立ち上がった運転士が急いで右側の乗務員ドアを開け身を乗り出すと、外から踏切警報機の音が間断なく聞こえて来る。 客室の窓越しに前方を見ると、どうやら宅配便のトラックが停止線を越えてしまい、ミラーか何かが踏切の遮断棒に引っかかっているようだ。 車内に緊張の空気が走ったが、トラックの位置は列車と接触する程でもなく、運ちゃんと話を終えた運転士は何やら無線で指令に状況報告を行なっていた。 近所の民家から何事かと出て来た寝巻き姿のお爺ちゃんが見守る中、「失礼しました、では発車します」と客席に向かって肉声で案内し一礼した運転士は、着座して運行を再開。 あぁ、事故じゃなくて良かった、と胸をなで下ろした出来事ではあった。 でも、やっぱ何かしら起きる事になってるんだな、私の旅は。 段々と山懐に分け入って行くが、あまり勾配を登っている風でもない。 太陽もだいぶ高度を増し、色のコントラストが深くなってきた景色は山の緑が美しい。 山ひだを抜けて北上川を渡るとトンネルに入り、その先が陸中門崎駅。 停車するもシンとして人の乗り降りは全く無く、すぐに発車する。 ここからがこの大船渡線のハイライト区間であるが、これは車窓をただ眺めていても気がつくものでもない。 いわゆる我田引鉄の鍋弦路線がこの先に展開するのだ。 先ほど北上川を渡るまで列車は概ね東向きで、登って来た太陽に向かって進行していたが、この駅を出た時点で既にお日様は車窓の右手真横に来ている。 線路がほぼ90度左に曲がって現在は北向きに進んでいる事が、そこからわかる。 岩ノ下、陸中松川と停車して、猊鼻渓のあたりまではそのままだが、次の柴宿では頂点に達して再び東へ進みだす。 摺沢では交換待ちでしばし停車したが、ここで一ノ関を出発してからようやく人の動きがあった(2名下車、1名乗車)。 摺沢を過ぎると今度は南へ向かい、進行左側の窓が眩しくなって来る。 こちらの区間には中間駅が一つもないので、列車はひたすら元のルートへ戻るべく淡々と走って行く。 大きく左カーブを切って千厩に到着、ここでようやく鍋弦を脱した。 このような迂回ルートになったいきさつに関してはあちこちに情報があるのであえて書かないが、それを「ドラゴンレール」と称して路線のニックネームにしてしまうのもなかなか凄いなと感じられる。 比較的単調な風景の続くこの線のなか、矢越のあたりでは左手に大きな山が見えたが、あれは室根山だったろうか。 徐々に下って行き、行く手の山の向こうに山でなく空が広がりだす。 その下はきっと海だろう。 ずっと線路に寄り添って流れて来た大川が鉄橋を渡った後離れてゆくと、交代で気仙沼線が右手から合流してきて、列車は一時間半ほどの旅を終え気仙沼駅構内へと滑り込んだ。 さて次はいよいよ最後の乗車区間になるが、ここから気仙沼線快速「南三陸」で仙台へと向かう。 接続時間が45分程あるので、一度駅前広場に出て大きく伸びをして深呼吸。 駅前はあまり繁華な場所でもないようで、中心街はむしろ南気仙沼の周辺なのだろうか。 少し観光でも出来そうな時間があるが、港までも結構距離があるようなので諦めて再び駅舎に入り、ベンチに腰掛けて大人しく発車を待つ事にした。 少しすると仙台方面からキハ40×2両の普通列車が到着した。 改札にいた駅員さんに聞くと、これが乗客を降ろした後に増結して、折り返しの快速となるようだ。 降車客が改札を通って駅から出て行くと、しばらくして仙台方から2両の気動車がゆっくりとやって来る。 連結作業がちょうど改札前で行なわれるので、何人かが興味深げに覗いている。 やがて改札が始まったので、先頭車のステップから誰も乗客のいない車内へ足を踏み込み、硬いボックス席へと陣取る。 ここ数日間ずっと新型気動車に乗って来たので、これはかなり古びた印象になってしまうのは仕方ないだろう。 発車寸前まで誰もこのハコには乗って来なかったが、走り出してすぐに通路のドアがガラリと開き、後部車両から奇抜なファッションの女の子が一人、入って来た。 列車は窓ガラスを振動させながら重々しく加速し、南北の市街地を分断している小山の裾を周ってすぐに南気仙沼駅に停車。 こちらの方が周囲は新しい住宅地が多いようだが、駅の方は至って簡素な造りで素っ気無い。 南気仙沼を出ると河口の近くで大川を渡り、トンネルを抜けると左手には気仙沼湾が眺められるようになる。 対岸は半島のようにも見えるが、陸続きではなく気仙沼大島だ。 そこから先しばらくは海岸線近くを進むので、車窓は大いに楽しめた。 しかしそれも本吉駅付近までで、ここから線路は少々内陸へと進路をとる。 本吉を過ぎると地図上では再び海沿いの線路となるが、このあたりはトンネルも多く若干海岸線からは奥まった所を走っているので、海の景色はあまり望めない。 気仙沼線から眺める志津川湾 最後の展望ポイントは志津川駅を過ぎて少しの間で、志津川湾を眼下に見て走るこの区間は気仙沼線のクライマックス。 そんな景色にも別れを告げ、線路は三陸海岸を離れて内陸部へと向かう。 柳津を過ぎ、長いトラス鉄橋で北上川を渡り、田んぼの中でひょろひょろとか細い線路が合流して来ると前谷地で、ここからは石巻線となって東北本線の小牛田はもうすぐだ。 小牛田から最後の東北本線区間に入ると、さすがに列車の速度が上がる。 エンジンもフル回転となるが、重たい車体は一旦スピードに乗ってしまえばこっちのもんだ。 バウンドしつつ豪快に後ろへ飛び去り行く車窓に、しばし松島海岸の風景を楽しむ事が出来る。 東北本線に乗っていて海の見えるのは、ここと青森駅近くの2箇所ぐらいではなかろうか。 右手から利府支線と新幹線高架が近づき、やがて左手に貨物線が分岐して行くと終着仙台の駅が近づく。 乗り換え案内の多さが、大規模な駅である事を象徴している。 新幹線の高架と一緒にぐるりとカーブした後、私の乗った快速「南三陸」は、静々と仙台駅ホームに到着した。 小牛田〜仙台間は快速のため無停車であった。 ホームへと降り、階段を登って行くと、橋上の構内コンコースは改札へと向かう人、新幹線に乗り換える客でごった返していた。 3日間に及んだあみだくじの旅は、仙台に到着して振出し点に戻った。 早朝から行動したおかげでまだお昼前だが、これから午後半日をかけて東京まで戻る旅程が控えている。 駅前で腹ごしらえをし、お土産を物色して買い込んだ後、さらにこの日8本の列車を乗り継いで夕方家に帰り着いた。 朝一の大船渡線アクシデントで本日の一件は落着かと思って安心していたら、大宮からの京浜東北線が線路支障によりしっかり遅れる、というオチが最後に待っていた。 どうも私は、あみだで外れくじを引き当ててしまったような気がする。
(おわり)
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