モハ107のこと
[ 2019/03 ]

「夕陽の疾走」というタイトルで、弊社、下総快速鉄道の拙い車輌100形モハ107号が鉄道模型趣味(TMS)誌No.384の巻頭カラーページを飾ったのは、1980年2月の事だ。 TMSへの掲載は前年のレイアウトコンテストでの佳作が初めてであったが、そちらは大学鉄研を代表しての事なので、私個人としてはこの作品が初掲載となった。

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その際の投稿用に撮影したカラースライドが戸棚の奥にしまってあったので、今回フィルムスキャナ購入を機に久しぶりに引っ張り出し、スキャンしてみた。 当時の原稿募集は写真がカラーの場合スライドでの受付となっていたので、友人から一眼レフを借り、マクロレンズとリバーサルフィルムのみ自分で調達して慣れない撮影に臨んだものだ。 今回はそんな写真をアップしつつ、撮影の舞台裏を思い出しながら少々書いてみたい。

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最初の一枚は鮮やかな夕焼けの中を走る電車。 もちろん当時はデジタルカメラもPCも世の中には無い時代なので、加工は一切していない。 実際に撮影場所の室内をこんな真っ赤な状態にして、フィルムカメラで撮影したものだ。 今ならデジカメの機能や画像ソフトで後からの編集も自由に出来るが、この頃はその場でこの夕焼けを作るしか無かったわけである。 確か青空のポスターを背景にし、白熱球の電気スタンドに赤いセロファンか何かの覆いを被せて撮影した様に記憶している。 あらためて見ると色味が鮮やか過ぎて不自然だが、夕暮れの空気感はそこそこ出ていると思う。

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夕暮れの電車(クリックで拡大)

次はノーマルな照明で撮った土手下を行く107号。 一連の撮影に先だっては、簡単なお立ち台を制作。 手持ちのレールはエンドウの金属道床付しか無かったので、フレキの線路を購入しバラストも散布したものだ。 架線柱は一本だけ作り、真鍮線を半田付けして自作した架線をぶら下げてある。 だから両サイドは宙ぶらりんの筈である。 見た目は土手下の様なシーナリィとなっているが、実は市販の芝生シートをボードに貼り付けたものを線路脇に立て掛けているだけ。 色々なシチュエーションで撮影出来る様にとの考慮から、このような構造にしたものだ。

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土手下を行く107号(クリックで拡大)

そしてお気に入りのワンショットは、夕陽の疾走を流し撮りしたこの写真。 既にお気づきかと思うが、実際には流し撮りでなく、流し撮り風に写しただけのなんちゃって写真なのだ。 背景は蒸気機関車を流し撮りしたポスターの端っこの方を使い、その手前に線路と電車を置いているだけ。 カメラを三脚に固定してタイマー撮影モードでスタンバイ、ヨーイ・ドンでレリーズボタンを押し、シャッターの切れるタイミングで線路手前の芝生ボードを手で横スクロール、という荒ワザである。

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夕陽の疾走(クリックで拡大)

なので別のカットで線路際を拡大して良く見ると、枕木やバラストが流れていないのが露呈するが、今にして思えば、当時の限られた条件の中で工夫して良くやったものだと言えよう。 もちろんデジカメではないのでその場で結果の確認なんて出来ず、うまく流れたかどうかは現像に出してフィルムが戻って来るまで分からない。 フィルムの枚数も限られているので、シャッタースピードや露出を変えて数ショット撮っただけだが、その中で成功した何枚かを編集部へ送ったというわけである。

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そして本文を執筆し自分で描いた下図も添えて送った原稿が目出度く掲載となり、献本が届いて大喜びしたのを覚えている。 原稿料として思いがけず金一封もいただけた様な記憶があるが、果たしてどうだったろうか?
ちなみに巻頭グラビアのタイトルが「夕陽の疾走」となっているが、無論狙って撮ったわけでなく、撮影時の照明が専用機材を用意出来ず学習用の白熱スタンドであったため、写真が全体に黄味がかった色合いになってしまったという事情からである。

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以下、原稿に使用したモノクロのネガフィルムも探し出したので、スキャンしてここに掲載しておきたい。 車体は「現有車両ガイド」「16番のこと」の記事にも書いているが、ペーパーキットにプラ板継ぎ足しのハイブリッド構造だ。 当時最先端のパワートラックを動力に使用し、つり革に至るまで室内も作り込んでいる。 運転室のブロックは取り外し式にしてあり、仕込んだ電球の通電は突き出した真鍮線を本体側屋根と床板のリード線に接触させて行なうという構造となっている。

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車内に配した乗客や乗務員は人数も必要なのでHO用のものは高価で買えず、ミリタリーのプラモデル用兵士を加工して使っている。 なのでスケールが微妙に合わなく、体格がいいのも相まってかなり大きめである。 その室内を覗いた写真は誌面では鏡を使用というキャプションが付いているが、実際はご覧の様にちょうど車幅に収まるプリズムがあったので、それを運転室部分に落とし込み、光軸を90度曲げて撮影した。 こうして見るとかなりゴチャゴチャしていて、まるで軽便鉄道の室内の様相である。

そんな異色の電車、下総快速鉄道モハ107号。 当時読んでいただいた方々には、記事として少なからずインパクトがあったようだ。 設定があちこちデタラメで工作も稚拙だが、今も思い出して下さる方が時々おられるのはまことに有り難く、作者冥利に尽きるのである。