「海岸通り」に出て、線路を目指し歩き出す。特にこのあたりは海岸の埋立地帯、遮るものがあまりない分、風が余計に強く感じられます。 実は今回はちょっとした決意を持ってやって来ているんですが、それは例の工場の事。あそこに行けば、いゃ、あの社長さんに話をすれば、きっと貨物の運行について何かわかるはず。そう、事務所に突進する覚悟を決めてやって来ているのです。

やがて見慣れた景色が彼方から近づいて来ます。道路上に鈍い光を放つ細い線路、その奥のうらぶれた会館、そして件の工場が続きます。その工場の前に白い車がやって来て、ちょうどバックで駐車しようとしているところでした。近くまで行くと、車から作業服を着た見覚えのある男性がドアを開けて降りて来ます。 彼は訝しげに私を見ると、一瞬の間をおき、帽子の下の目を細めてニヤリと笑いました。初回の訪問以降この社長さんには会っていないものの、ホームで色々と話してくれた事を覚えているみたいです。

「君に見せたいものがあるんだよ。さ、どうぞ。」　そう言って彼は事務所の方へ歩いて行きます。いきなりの展開に動揺しながらも、その後をついて行く私。 ガラリと引戸を開けて中に入ると、何人か事務服の男女が机に向かって仕事をしていました。近くの一人はチラとこちらを見て会釈をしましたが、あまり気にする風でもなくすぐに元の体勢に。会社帰りのスーツ姿なので、どこかの業者とでも思われたのかな。事務所の奥の別室に招き入れられた私は、深々としたソファーの片隅に腰掛け、社長が引き出しの中を何やらごそごそとやっているのを眺めていました。

「おぉ、これこれ」　そう言いながら戻って来た彼は私の正面に腰をおろすと、一枚の古ぼけた写真をテーブルの上に。かなり変色した白黒の写真ですが、そこに写っているものに私の目は釘付けになったのです。見た事もない小さな可愛い電車、そしてその後方に写っている特徴的な屋根は、紛れも無くこの工場のすぐ裏手にあるホーム上の物です。

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自分：「この線がまだお客さんを運んでいた頃の写真ですか。」
社長：「そう。ここの背景のあたりを見て。」
自分：「これは... 水平線ですか。この向こうは海だったのですね！」

このあたり埋め立てられたとは知っていましたが、改めて当時の写真を見せられると実感として沸いてきます。彼はさらに、ここは「海岸前」という駅だった事、昔は夏の間海水浴客でごった返した事、近くに電鉄経営の小さな遊園地まであった事等を教えてくれました。