熊本から鹿児島へ向かうこの区間は、やはりどうしても新幹線という性格上、それも新しい路線という事もありトンネルが多くなる。 トンネルとトンネルの間で時々遠くにチラリと海が見えたりするのが、車窓としては唯一の救いである。 終着の鹿児島中央駅もトンネルを出て直後に高架となり、すぐ下の在来線と直行するホームに入る形態。 これは規模が違うものの、何だか武蔵野線は西国分寺駅の雰囲気にも通じるものがある。 しかしながらせっかく高架なのだから、車窓からドドーンと目の前に桜島の雄姿でも拝める様な向きだったら感動するだろうに、ロケーションの割りにちょっと勿体無い気がした。
電車を降りて改札口を出たところで、観光案内所で市電の一日乗車券を買う…、ここまでは熊本と全く同じ展開だが、こちらの値段は600円。 鹿児島市電も駅前に乗り入れているが、熊本駅前と違ってモータープールの向こう側なので、駅前広場をやや歩く事になる。 電停に着き振り返って見ると、鹿児島中央駅の賑やかな光景が目に入る。 それは学生時代に初めてこの地に来た際、当然まだ「西鹿児島」という駅名であったが、その頃から各本線の基終点である鹿児島駅よりもこちらの方が開けていたのは実際の所である。
ここから市電に乗って、まず向かうのは一番遠隔のターミナルである谷山だ。 ホームで待っていると、やって来たのは京急コラボカラーの赤い電車。 遥々南国鹿児島まで来て、この地で京急車(笑)に乗る事になるとは思わなかった。 座席がほぼ100%埋まった状態で発車、車内は冷房はかかっているものの蒸し暑く、なかなか汗が引かない。 この後一日乗り歩いた感じでは、鹿児島は熊本市電と比べて、全車に渡って温度設定が控えめになっている様に思った。
鹿児島中央駅前を通る2系統の電車は谷山へ直通しないので、途中の郡元で1系統に乗り換えとなる。 そして交差点の手前にある「郡元」電停を発車してすぐ、交差点を渡ってその向かい側のホームに停車。 そこは「郡元(南側)」という名の停留所であった。 あるいは同じ電停扱いなのかも知れないが、これだけ近接しているホームというのも路面電車ならではだろう。
次の涙橋を発車すると専用軌道となり、道路下を立体交差で潜ればすぐに右手から指宿枕崎線のレールが寄り添って来る。 走りもインターアーバン的になってスピードも上がるが、広電の宮島線ほど車両も線路状態も良くなさそうで、上下左右の揺れがなかなか愉快である。 電車は南鹿児島駅前を過ぎていくつか停留所に停車しつつ、ひとしきり走って終点の谷山に着いた。 どういった経緯でここが終点なのか良く分からないが、もう少し延ばせば指宿枕崎線の谷山駅に接続出来る、という中途半端なロケーション。 いや、その手前に川があるので、それがネックになったのかも知れないな。
谷山は終端駅なので3面2線の櫛形ホームだが、中央の乗場が極端に狭く、そこで電車を待つのは危険だし、また両側に電車が停まった場合客の通行は困難に思われる。 地元の人は皆ドアが開くまで、両サイドのホームか駅舎入口あたりで待っている。 私は櫛歯の根元からホームへ進んだが、他の乗客は皆、そのまま線路を渡って電車へと乗り込んでいた。 折り返す同じ電車で次は鹿児島駅へ。 車内から見ていると、郡元から先の併用軌道はほぼセンターポール化されており、また軌道の緑化率もかなり高いようだ。
途中、武之橋という停留所で私は電車を降りる。 その理由はかつてここに車庫があったからだ。 現在は1系統の神田(交通局前)に移転しているが、それ以前は「武之橋」とその手前の「二中通り」が電車基地最寄りであった。 そして武之橋には石造りの立派な建物、鹿児島市交通局新武之橋変電所が移築再建されている。 これは躯体をRC造とし、外壁材には解体された旧変電所の石材を再利用しているとの事である。 その手前の道路上には車庫へと分岐する線路もまだ残っていた。
しばらく路上で撮影をしているうち、熱波で頭がクラクラして来た。 こりゃいかんと程々に切り上げ、次の電車に再び乗車して鹿児島駅へと向かう。 やって来たのはオリジナル塗装の500形、これは鹿児島市電最古参の形式だ。 電車は高見馬場電停の先で1系統と合流し、鹿児島市内で一番繁華な「天文館通」電停に停車。 さすがに乗降共に多くの客の出入りがあった。 ここは名物のしろくま元祖のお店もあり、また俄かアーケード研究家(笑)としてはぜひとも観察に降りたい所だったが、外の暑さにやられてもはや席を立つ気力が沸かず。 そのまま乗り通して、鹿児島駅前の立派な屋根のある電停に到着した。
この終端駅は電車が並ぶとなかなかの眺めで、立派な庫に小さな機関車が仲良く3台収まっている様にも見える。 乗降客も多く活気があるが、その一方で、すぐ目の前に佇むJR鹿児島駅は非常に素っ気無い造りで人影も見えず。 駅前も古びた看板建築の建物が並んでおり、おそらく私が学生時代に訪れた当時と、何も変わっていないんじゃないかとさえ思わせる。 新幹線が乗り入れて大発展を遂げた鹿児島中央駅とは好対照だが、模型目線の私としては、この雰囲気も捨てがたい魅力に溢れていると感じてしまうのだ。
鹿児島駅前からまた2系統に乗り、中央駅前まで戻って来て鹿児島市電の全線完乗となった。 これだけだと一日乗車券の元がとれてないような気もするが、記念として手元に券片も残るし、まぁいいだろう。 駅近くのホテルに一旦チェックインした後、お土産など物色する為に夕暮れの駅前に出た。 次々やって来るバスや電車、在来線と新幹線駅の上にはショッピングモール、その屋上には観覧車まで回っているというお祭り状態が笑えて来る。 宿は川沿いのホテルだったが、車と並んで橋を渡る市電が窓から良く見えるという、トラムビューの当たり部屋であった。