広見線

太多線のディーゼルに乗って20分ほど走ると可児駅に着く。 可児を「かに」と読むのも、これまた今回乗りに来て初めて知った。 屋根のない跨線橋を渡って旧国鉄然とした駅舎を出ると、目の前には見事に何もない風景が広がった。 え?そんな田舎なの?ここは本当に乗換駅なのかと一瞬不安になったが、広場の左手に面して名鉄の新可児駅があった。 これから乗る名鉄の広見線は、犬山方面から来てここ新可児駅でスイッチバックしている。 例によってこれは何か訳ありだな?と調べたら、果たしてそうであった。 広見線のここから御嵩駅へかけての間は、かつては太多線の多治見からここまでの区間と一体で、東濃鉄道という私鉄が運行を行っていたそうだ。 その後、多治見~可児(当初は広見駅)の間は国有化されたが、可児~御嵩間は私鉄のまま残り、そこへ犬山方面から路線を伸ばして来た名鉄が接続し、一体化したというわけだ。

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可児駅・新可児駅
JRの可児駅舎、名鉄の新可児駅舎が広場に直角に面している

まずはその御嵩駅を目指して広見線の末端区間に乗ろうと思うが、さすが閑散区間で次の電車まで30分程待たねばならない。 駅舎入口の改札前にベンチがあったので、そこへ腰かけ、しばし休憩。 外は熱気がひどいが、ここは一応屋根があるので暑さは凌げる。 目の前にはちょっとした売店があってお菓子を売っている他、麺類などの軽食コーナーもある。 母親と小さな子供が何か買いに来た。 お店のおばさん「あらー、バイキンマン好きなのぉ?」 その子供は嬉しそうに、被っているバイキンマンの帽子をおばさんに見せている。 アンパンマンに負けず劣らず、この愛すべき悪役は子供達に人気があるようだ。 そんな駅前の日常を眺めているうちに電車の時間が近くなり、構内へ入る。 広見線の末端区間はICカード未対応で、それがゆえに昨日の吉良吉田駅の様に中間改札がある。 駅入口の本改札と、その奥に控える末端区間専用のホームへ行く中間改札が、前後に並んでいて奇妙な光景だ。

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新可児駅
正面中間改札の奥が御嵩方面ホーム、左手が犬山方面ホーム

改札を2つ通り抜け、御嵩方面の専用ホームへ。 やって来たのは蒲郡線と同じく、ワンマン対応の6000系2両編成だ。 電車は新可児を発車すると右へ右へとカーブを切り、可児川を渡れば一面の田園地帯が広がる。 明智、顔戸と停車するうち、2両目は私を残して無人状態になった。 ワンマンカーだし、終点の御嵩駅も前方が改札口の様だから無理もない。 再び可児川を渡り民家が多くなって来ると御嵩口、次はもう終着駅の御嵩となる。 きっぷを見せて電車を降り、無人の改札を抜けて駅舎を振り返る。 1面1線の小さな終端駅だが、駅舎は小さいながらなかなか立派で、建物に寄り添う自販機は景観に配慮した木目調。 ここは中山道49番目の宿場町「御嶽宿」である。

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明智~顔戸間の車内
誰もいなくなった2両目車内。大窓から望む緑の絨毯に癒される
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御嵩駅
1面1線のシンプルな終端駅。電車は方向幕を使用せず、ドア部の行先表示板のみ

駅は「御嵩」で宿場町名は「御嶽」、そういえば私の地元青梅には「御嶽駅」が存在するが地名は「御岳」である。 漢字は違うものの同じ「みたけえき」で何となく親近感が湧く。 おまけに駅名と地名の漢字が異なるという共通点もあり、何だか不思議な縁を感じる。 ちなみにこの駅舎、無人化された翌年の2009年に、町民有志や日本福祉大学の学生の手により御嶽宿の玄関に相応しい形で修景されたという。 新可児~御嵩駅の区間には存続問題も出ているようだが、観光で訪れる客が少しでも増えてくれる事に期待したい。

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御嵩駅舎
傷んでいた駅舎は、町民有志や学生の手により修景された

滞在4分で折り返し新可児まで戻り、スイッチバックして今度は広見線の犬山方面へ向かう。 やって来た電車の行先表示を見て驚いた、なんと「中部国際空港」となっている。 これは会津田島駅で浅草行きを見た時に抱いた衝撃に近い。 聞けば、かのミュースカイもここまでやって来るというから、最初に抱いた片田舎の小駅という感想は改めないといけないようだ。 発車して10分ほど走ると学生っぽい多くの若者が乗り込んで来る駅があった。 駅名標を見ると「西可児」となっていて、新可児から何駅か過ぎている筈なのにまだ「西可児」なのかと思った。 列車は郊外の住宅地の中を疾走し、20分ほどで犬山駅のホームへと滑り込む。

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新可児駅
犬山方面へは、3500系4両編成の中部国際空港行きで

小牧線

犬山駅はいつ来ても活気に満ちている。 犬山線、広見線、小牧線、そして乗り入れて来る各務原線や地下鉄の電車も入り交じり、3面6線あるホームは常に電車が絶え間なく出入りしている。 広見線の電車を降り、さて小牧線に乗り換えだと階段を登ったが、案内板を見ると下車したのと同じホームから発車になっていて何となく損した気分。 1,2番線は犬山線専用の様だが、それ以降のホームの使い分けが頭の中に入っておらず、良く分からない。 そのままでは悔しいので、登った階段脇にあるトイレに入って用を足しておいた。

ホームで待っていると、入線して来た小牧線の電車は300系4両編成、名鉄初のステンレス車だそうだ。 この線は地下鉄上飯田線に直通している為か、ピンクのラインカラーを帯として纏っているが、申し訳程度に名鉄スカーレットの細帯も添えられている。 この車両、乗ってみて驚いたのは、何とクロスシートが配されているのである。 外観は片側4扉の純然たる通勤車、かつ地下鉄乗り入れ車両なのにである。 残念ながら混んでいて座れなかったので、つり革につかまりながら窓外の沿線を観察する。

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犬山駅
小牧線300系。地下鉄と共通設計なのか、名鉄っぽくない
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上飯田駅
1面2線のシンプルな駅だが、ホームドアが付いている。

小牧線は名鉄の中では準幹線的な位置づけかと想像していたが、発車してみるといきなり単線で驚いた。 だが線路状態は良く、かなりのスピードで飛ばしてゆく。 途中の信号所らしき場所で徐に停車し、逆方向からの列車と交換した。 ここは五郎丸信号場と言い、かつて近くには五郎丸駅もあったという。 景色は右手には新興住宅地が押し寄せているが、左手は一面の田園地帯で、ちょうどその境目を走っているようだ。 主要駅である小牧の前後は地下線になっており、そこから先は複線である。 地図で見るともうすぐ庄内川を渡るはずと思っていたが、その手前で地下に入ってしまった。 次の上飯田で小牧線は終わり、その先は日本最短の公営地下鉄、上飯田線である。 フリーきっぷでは乗り越し精算が面倒そうなので、駅構内の観察がてら一度下車する。 地下化されたのが2003年なので割と新しく、ホームドアのある近代的な駅であった。

改札を入り直し、次の電車をベンチで待っている間、隣に座った品の良い老婦人二人の会話が耳に入る。 歌会か何か?それともお稽古事の帰りだろうか。 一人が「○○さん、最近いらっしゃらなくなりましたねぇ」 もう一人のご婦人、「あら、あの方亡くなられたそうですよ…」 シュンとなるのかと思ったが、その後も二人で明るい会話が弾み、聞いているこちらも救われた気持ちになった。 一人は逆方向のようで、「ではお元気で」と到着した電車のドアを挟み、見送られながら私も車中の人となる。 発車して800m、一駅であっけなく終点の平安通に到着し、小牧線+上飯田線完乗は果たした。 ここから地下鉄名城線に乗り換えて、次のターゲットへと向かう。

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