朝の散歩

一日乗り疲れて昨夜は早く寝てしまった。 そのせいか早朝に目覚めて、二度寝しようにも目がさえて寝付かれない。 せっかく起きたから早めに宿を出て、暑くならないうちにどこか散歩でもしようか? ホテルは連泊でとってあるので、重い荷物は部屋に置き、手持ちは最小限にして身軽に出掛けられる。 さてどこがいいかな?…  サンドイッチの軽い朝食をとりながら頭をフル回転させているうち、近くに絶好の物件がある事を思い出した。 それはお堀を走っていた瀬戸電の旧線跡である。 今では名鉄の瀬戸線として地下線化され、テレビ塔のある大通りの下を走っているが、以前は名古屋城の外濠の中に線路を敷いて走っていたのだ。

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本町橋西側
かの有名なガントレット区間だが、夏草に覆われて見通し悪し
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大津町駅跡
堀の中の駅へと降りてゆく階段が残っている

宿を出て通りをテクテクと歩いてゆく。 早朝の涼しいうちにと思ったが、都会の朝はビル壁や道路からの照り返しでなかなかに暑い。 広い桜通を横断してさらに進むと目の前に高速道路の高架が見えて来て、その下を潜るとお堀端へ出た。 まずは本町橋あたりから観察を始めるが、この時期のお堀の中は緑が濃く茂っていてちょっとしたジャングルの様相を呈している。 ちょうど橋の下が、複線を重ねながら通すというガントレット区間だった場所だが、蔦に覆われて煉瓦アーチの部分は良く見えなかった。 その後、西端の堀川駅のあたりまで行って折り返し、大津町駅跡や、掘割の中を90度曲がっていた”サンチャインカーブ”付近まで見に行った。 少しゆっくりし過ぎて時計も9時近くなり、気温もあがってこの時点でもう背中はグショグショである。 大通公園に出たので手近な場所から階段を下りて地下街に逃げ、熱気から開放されて人心地ついた。

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栄町駅
地下街にある瀬戸線の栄町駅改札口

瀬戸線

さて、瀬戸電の面影に触れたところで、今から乗るのは現在の瀬戸線である。 地下街を歩いて行くと小広場状のブロックがあり、その前に瀬戸線栄町駅の改札口があった。 改札を通って階段を下りて行くと、島式ホームには急行の尾張瀬戸行きが待っていた。 車両はステンレス車体にスカーレットの帯を巻いた4000系。 瀬戸線は他の名鉄線と線路が繋がっていないのもあってか、車両も独自色が強いようだ。 別会社が合併により吸収された形なので、関東で言うと東武東上線的な匂いも感じる。 しかしここまで乗り入れていながら地下鉄と連絡していないのが不思議だが、歴史を紐解けば名古屋市との色々な駆け引きがあったようで興味深い。

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栄町駅
急行の尾張瀬戸行き4000系4連が発車を待つ

瀬戸線の電車は栄町を発車すると続いて地下の東大手駅に停車、そこを発車すると右にカーブしながら地上へと顔を出す。 ここからは3駅飛ばして大曽根まで急行運転だが、どうも高架上を至ってノンビリと走っていてあまりスピード感は無い。 JRと連絡する大曽根を過ぎると地上へと降り、矢田川を鉄橋で渡ってしばらく行けば市営ガイドウェイバスの「ゆとりーとライン」と交差する。 喜多山駅のあたりは工事が行われているようだったが、待避線を持った高架駅になるらしく、完成すればようやく急行の追い抜き運転が実現するのだろうか。 そう、現在の瀬戸線は待避線がどこにもなく、今乗っているこの急行電車は終点まで追い抜きが出来ないのである。 周囲に水田の目立ち始める尾張旭駅の手前あたりから急にスピードがあがり、急行電車らしくなって来た。 と思う間もなく新瀬戸に着いて、乗っていた人達はほぼ降りて行ってしまう。 ここは愛知環状鉄道との乗換駅だ。

ガラガラになった電車は直交する愛環線の高架下を抜け、瀬戸市役所前駅を通過する。 右手から再び矢田川が寄り添って来ると終点の尾張瀬戸に到着。 ぞろぞろと他の客に続いて、ホーム前端の改札口を抜ける。 駅前はどことなく観光地の趣が漂っているが、全国的に有名な瀬戸物の街であるからそれも頷ける。 登り窯をイメージした意匠になっている駅舎は2001年に建て替えられたもので、近くのミュージアムでは大正期から使われていた旧駅舎が一部再現展示されているそうだ。 現役当時の写真をネットで探して見てみたが、大正ロマンの香り漂う大変趣のある造作であった。

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尾張瀬戸駅
頭端式ホームの先にある駅舎は、登り窯の形を模している

移動

写真撮影もそこそこに、到着6分後の折り返しで戻る。 まぁ、瀬戸線は割と頻繁運転でほぼ10分毎に発車して行くから、乗り遅れたとしても大した影響は無いのだが…。 復路は新瀬戸駅で途中下車、橋上駅舎から通路を渡って行くと、地上に降りた所が愛環線の瀬戸市駅前広場である。 ここでの乗り継ぎ時間は13分と、徒歩連絡の時間を入れるとなかなかコンビニエンスであった。 愛知環状鉄道は瀬戸線ほど本数が多くないので、ちょっと運が良かったのか? だが残念ながらICカードが使えないので、ここは仕方なく券売機で切符を買って入場。

夏のムッとする熱い風吹き抜ける高架ホームで待っていると、緑のスプラッシュ模様を前面に纏ったスマートな電車がやって来た。 土地勘がなくここらは通勤電車が走るエリアと思っていたが、乗り込んでみるとセミクロスシートでトイレも付いている近郊型である。 しかしあの顔はどこかで見たぞと思って調べたら、JR東海の313系がベースになっているらしい。 走り出すとかなり長いトンネルがいくつも続き、終点まで郊外の丘陵地帯を貫いて行くのが分かる。 JRとの乗り換えになる終点の高蔵寺駅では中間改札が無いので、一旦改札を出てSuicaで入り直す。 ここから中央本線の快速に乗って多治見まで移動し、太多線に乗り換えだ。 太多線は乗る寸前まで「おおたせん」かと思っていたが、アナウンスで初めて「たいたせん」と読むのを知った。

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瀬戸市駅
愛環線の2000系は、JR東海の313系ベース
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多治見駅
非電化の太多線はキハ75形
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