高架下の薄暗い改札を抜け、電気街の買物客の雑踏をかき分けながら歩を進めると、ビルが切れて空の広い万世橋の交差点へ出る。
長い横断歩道を渡り、水の淀んだ神田川に架かる万世橋を渡れば、すぐに目指す建物、そう交通博物館がその向うに見えて来る。
昨今は新線の開通等で秋葉原駅もだいぶ明るく様変わりし、街も電気街と言うよりパソコン、アニメの方が台頭してきているが、多くの方々にとって交通博物館へのアプローチは、冒頭に記したようなイメージで記憶に残っているのではないかと思う。
私も幼い頃から何度も親に連れて行ってもらった事があるし、その後も一人で訪れたり友達と行ったり、あるいは遠足や社会見学で入館した経験のある人も多いかも知れない。
その交通博物館が70年に渡る歴史の幕を閉じると言う。
とても残念な事だが、この思い出深い博物館に感謝の意も込め、あらためて館内を一通りこの目に焼き付けておこうと考え、秋の一日、久々の訪問を果たした。
中央線のガード下を潜ると右手に新幹線と蒸気機関車のカットされた先頭部が鎮座している。
通勤電車からも見下ろせるこの車両達は、ここがまさに交通博物館である事を明確に主張する良きシンボルとなっている。
玄関脇にある自動券売機で切符を購入し、中へ入る。
駅への入場を模したこのシステムも昔からのもので、何やら懐かしい。
係りの人へ切符を渡すと替わりに入場記念券をもらえるのも、ここへやって来る人々の気持ちを察した粋な計らいで嬉しいものだ。
入って行くと右手に売店、そして目の前にはいきなり鉄道模型の大レイアウト風景がお出迎えしてくれる。これは圧巻である。
ここでおそらく99%の子供達が足を止めるであろう。各地の展示場にこの手のレイアウトは存在するが、ここまで大規模な物を私は未だかつて見た事がない。
これだけのものを毎日スムーズに動くよう維持管理するのは、並大抵な努力では済まない筈だ。
このレイアウトの右手が吹き抜けの大ホールになっていて、ここに館内のメイン展示となる9850形マレー式蒸気機関車、そして旧国鉄のC57形式135号機が堂々と陳列されている。
マレーの方は一部がカットボディとなっており、そこから覗くと機関の仕組みが良く分かる按配だ。
しかしこの機関車は大きい。幼い頃初めてここに連れて来てもらった時、そのあまりの巨大さに思わず恐怖心を抱き、泣きそうになったのを憶えている。
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