上武鉄道跡.1(2021/12)

八高線に乗って北へと向かっている。 高麗川で乗り換え、小川町、寄居も過ぎて、2両編成のワンマンディーゼルカーは真っ直ぐな線路をひた走る。 前方遥か遠くには、雪で頭を真っ白にした浅間がその秀麗な姿を見せている。 輪行でゆく今回の走りもリハビリモードである。 という言い訳をもう何回もしているような気がするが、何せ鉄道にすらここ2年近く乗っていないし、こと輪行に至っては2019年春の筑波鉄道以来というご無沙汰状態なのだ。

降り立った駅は丹荘(たんしょう)、本日はこれから上武鉄道の廃線跡を辿ろうという魂胆である。 以前、ニフティFCYCLOフォーラムのランドナーOFF会で走った事があるが、その際は集団行動だった為、あまりゆっくりと探索する事が出来なかった。 今回はソロなので、改めてジックリ丁寧に巡ってみようというわけだ。

八高線車中より

児玉駅近くの直線区間では、前方遥か遠くに浅間山の姿が望めた。きょうは気持ち良い冬晴れだ

丹荘駅

八高線最寄りの金子駅から約1時間半の輪行。丹荘駅にて乗車して来た列車を見送る

列車が行ってしまうのを待ち、まずは駅ホーム上から構内の様子を観察する。 しばらく来ないうちにJR丹荘駅自体もだいぶ様変わりしたようで、交換設備を持った対向式ホームだったのが、今は棒線化されている。 向こうにホームは残っているが、跨線橋も取り払われてそちらへ渡る事は出来ない。 その裏手にあった上武鉄道のホーム跡も既に姿は消えていた。簡易改札に Suicaでタッチして駅舎を出る。 改築されてしまったというのは聞いていたが、振り返って見ると昔の国鉄然とした木造駅舎はどこへやらだ。

広くて何も無い駅前広場で一人自転車を組み立てる。 いつもならタクシーの運ちゃんに見つめられながらの作業だが、車一台いない寂しい駅頭風景が広がっている。 久し振りの輪行だったが、分解も組立もあまり手間取らずに出来たのは、体が無意識に覚えているからか。 トイレを済ませ、よっこらしょとサドルに跨って走り始める。

丹荘駅

使われなくなった2番線ホームに跨線橋跡と駅名標の骨組みが残る。線路は本線から分断されている

丹荘駅舎

小奇麗でコンパクトな駅舎だが、以前の国鉄時代からの風情は失われてしまった。駅前もガランとしている

駅前から県道に出て構内外れの踏切を渡ると、その先はいきなり道路工事中で片側通行。 交通整理のおじさんに一瞬停められたが、車に先行して通してくれた。 すぐ先で県道から左折し、JRの裏手側にある上武鉄道丹荘駅構内を覗きに行く。 駅跡はすっかり整地されてしまって何も無いが、片隅に錆び付いた継電箱がひっそりと佇んでいた。 ホーム跡も近くから再度確認してみたが、やはり撤去されてしまったようで何も見えなかった。

県道に戻り、(交通整理のおじさんに怪しまれるのでw)工事個所を避けるように迂回して上武鉄道跡の道路へと取り付く。 丹荘駅から出て来た線路が八高線と分かれてゆく「怪しい」カーブのあたりである。 この付近の線路跡は舗装された道路となっているが、地図を見ると「健康緑道」と命名されているようだ。

上武鉄道丹荘駅跡

構内の片隅に錆び付いた継電箱が残されていた。廃止後35年、ずっとここで佇んでいたのだろうか

上武鉄道丹荘駅跡

前回訪れた当時まだホーム跡のあったあたりも、今はすっかり雑草に覆われた更地となっている

健康緑道

このあたりの上武鉄道跡は現在、「健康緑道」と命名された道路となっている。八高線と分かれて行くカーブ付近

健康緑道

カーブを抜けると一直線の道路となって終点「西武化学前」駅へと向かう。ここまではずっとアスファルトの舗装だ

カーブが終わると道路は一直線に山の方へと向かって進んでゆく。 その先は普通の車道でなく、歩道のようなタイル貼りの道となるが、それでも車の通行は規制されていない。 付近の民家が持つ自家用車の出入りに配慮されている様子である。 しばらく行くと用水路と斜めに交差。 ここは確か道が途切れて橋台の残っていた箇所だが、緑道として立派に整備された代償として、貴重な遺構は失われてしまったらしく、残念無念だ。

走って行くうち、右手奥に大きな銀杏の樹に囲まれたお社が見えて来た。 黄色い落ち葉でフカフカの境内、気持ち良さそうだから帰りにここでお昼もいいな。 そこを過ぎると風景が開け、冬晴れの空の彼方に浅間山の白い頂が姿を現す。 自転車を停め写真を撮っていると、足元の草むらで何か動いた。 廃線跡に猫である。 すぐそばにいて近づいても逃げないが、私と目を合わせようとしない。 が、しゃがみ込んで無理やり顔を覗いたら、プイっと走り去ってしまった。

用水路と交差

危うく見逃すところだったが、前回訪問時に道の切れていた用水路を跨ぐ部分も道路が出来ていた。このあたりはタイル舗装である

用水路架橋部

横の道から橋の下を覗いてみたが、橋台は撤去されたか、そのままコンクリートに埋められてしまったのか

風景が開ける

用水路交差部を過ぎしばらく進むと、家並みが切れて風景が開ける。遠く上州の山並みの向こうに浅間山が見えた

廃線跡に猫

暖かい日溜まりの叢の中にノラが居た。人慣れしているのかいないのか、近寄ってもこちらの存在は無視

やがて、前方左手にコンクリートの擁壁で囲まれた小さな構造物が見えて来る。 ここが神川中学校前の駅跡で、ホームのその上には駅名標も立てられている。 ホームは縁石は古いものの擁壁が新しく見えるから、後から補強されたのか? あるいは、ホーム自体からして当時を模して作られた物なのかも知れない。

さらにそこから2~3分走ると、ベンチ脇に立つ信号機が見えて来る。 前回(1997年)来た時からもう24年、よくぞ残っていてくれたという思いだ。 しかしこの信号機、光る部分が一灯しかなく、これでどのように現示するのか疑問だった。 調べてみると、中で異なる色のフィルターを使い発色を変化させる構造になっている物だそうだ。

神川中学校前

ホームは列車用としてはかなり高さがあるが、バラストの厚み分切り下がった為か?駅名標は後から作られたものだろう

残された信号機

今となっては非常に珍しい単灯式信号機。灯具内部のリレーによって色ガラス眼鏡を動かし現示を変える仕組みらしい

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