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2014/03

■えちぜん鉄道 勝山永平寺線

次は勝山永平寺線で東へ、私の年代にとっては京福時代の越前本線という呼称の方がしっくり来る。 13分後の電車で勝山へと向かうべく、トイレを済ませて再びホームへ。 待っていた電車は先ほど三国港まで乗って往復して来た6104だ。 今朝は早朝のためか運転士一人だけだったが、今度の勝山行きはアテンダントさんも乗務している。 発車間際に三国方面からの電車がホームに入って来たが、そちらからお婆さんを介添えしてアテンダント同士で何やら引き継ぎをしている。 福井口から西別院がどうとか言っていたので、どうやら福井口で逆方向の電車に誤乗してしまったらしい。

時間が来て発車、すぐに新福井に停車するが今朝の列車と違ってここから多くの人達が乗って来た。 駅としては福井よりこちらの方が繁華街に近くて便利なのかも知れない。 福井口までは三国芦原線の列車も走るので複線かと思っていたが、実際は福井~新福井の一区間だけでこの先は単線となっていた。 お婆さんはアテンダントさんに手を引かれて福井口で下車、「こちらでしばらく待っていてね」とやさしく声をかけられている。 福井口で三国芦原線を左手に分け、永平寺線は右にカーブして東へと進む。 このまま単線なのかと思いきや、次の越前開発(えちぜんかいほつ)駅までは再び一区間だけ複線になっていた。


福井駅 勝山方面ホーム

電車はだんだんと郊外へ、北陸自動車道の下を潜ってしばらく走るとまもなく永平寺口駅に到着。 アテンダントさんは乗り継ぎのバスの案内などに忙しい。 車内にはチラホラと観光客らしき人達も乗っていたが、ここで大勢が降りていった。 芦原温泉と並んで永平寺詣での観光客も、この鉄道にとっては貴重な収入源なのだろう。 かつてはここで永平寺線に乗り換えれば寺の門前まで行けたが、それも廃止されてから久しく経っている。

永平寺口を出ると線路はしばらく田園の中を一直線に進む。 私は車内最後部のボックスに一人で座っているが、ここから前方を見渡す限り人の頭が全く見えない。 アテンダントさんは運転室の前に立ち、先程から沿線の観光アナウンスをしてくれている。 むろん車内に誰も客がいなければ行わないだろうが、私たった一人の為だけだったら何だか申し訳ない気もしてきた。


九頭竜川に沿って進む

途中に轟という駅があって「どめき」と読むそうだが、むかし上州方面を自転車で走った時に同じ字で「とどろく」という地名があったっけ。 越前竹原を出ると、ようやく左手には九頭竜川が寄り添うようになる。 車窓としては一番の見せ場だろう、マイクを通して車内に流れるガイドの声にも力が入っているのが分かる。 アナウンスが終わったところで私は思い切って手を挙げ、アテンダントさんを呼んでみた。 にこやかな笑顔と共にやって来た彼女に、「テキ」の事を訪ねてみる。 そう、この線を訪れた目的の一つに、勝山駅に展示されている「テキ6」に会う事があったのだ。

テキ6は小型の電気機関車で、貨物輸送や構内の入れ替えなどにも使われていたが、今は一線を退いて勝山駅に動態保存されているらしいのだ。 「はい、ご覧になれます。改札を出て左手すぐの所ですので」 「他に駅付近で何か見所はあります?」 「あ、ではマップをお持ちしますね。サイクリングなんかもいいですよ。今日は…」 と言いつつ、座っている私の脇の通路に腰をかがめて窓越しにどんよりとした弥生の空を仰ぐ。 「…ちょっとお天気があれですけど」「ハハハ、まぁ雨は大丈夫そうですね」


勝山駅 駅舎

マップを持って来た去り際に乗客の事を聞いてみたら、前方にもう一名、恐竜博物館へ行く観光客が乗っているとの事。 そう言えば、福井県内で恐竜の全身骨格が発掘されたという新聞記事をだいぶ昔に読んだ記憶があるが、それがこの勝山近辺だったのか。 唐突に福井駅のベンチに座っていた恐竜の人形の意味が、ようやく頭の中で理解できた。 車内にもう一人客がいると分かったので、その後のアナウンスを聞くのは少々気が楽になった。 電車は高台に登ったり、また平地に降りて来たりしながらしばらく九頭竜川を見つつ走る。 空を覆っていた雲が切れて青空が見えだした頃、終点の勝山駅に着いた。

ホームに降りると駅舎へつながる構内踏切が閉まり、向かいホームにいた福井行きの電車が発車する所だ。 到着1分後に発車のダイヤだったので、乗って来た電車が大急ぎで折り返すのかと思ったがそうではなかった。 改札を抜け駅舎を出て、さっそくテキを見にゆく。 駅前広場の一角、線路に面した部分に屋根が組まれており、その下にお目当ての黒い車体が置かれていた。 小さなそのボディはワフを動力化したような簡素なもので、対照的に連結器がやけに大きく重そうに見える。 見学者用にホームが誂えてあり、その上のベンチで一休み。 どこからかミャーミャーと鳴き声が聞こえ、線路からホームによじ登って来た猫が目の前を横切っていった。


勝山駅のテキ6(ML6形ML6)

次の福井行きまで30分位間があるので、駅前を離れて九頭竜川を渡る道路橋の方へ行ってみよう。 ここまで、えちぜん鉄道の線路は山裾と川に挟まれた狭い平地を走って来たが、街の中心部はみな対岸の勝山街道沿いの方だ。 橋の途中まで行ってみたが、渡った先には多くの建物があり、商店などもそちらに集中して賑やかなようだった。

帰りの電車は来た時と同車両、やはり同じアテンダントが乗務していた。 発車すると丁重にも、一通り乗っている客の所へ挨拶にまわる。 「写真撮れました?」と聴かれたので、猫の写り込んだテキを見せると「猫多いんですよねぇ」と微笑んでいた。 名札が見えたので後で調べてみると、地域のコミュニティサイトに新人アテンダントの記事が載っていた。 なんでも、えちぜん鉄道発足時に彼女は小学生だったとの事で、まだそんなに経っていないと思っていたが知らぬ間に時代は過ぎるものだ。

発車間際にバスが運んで来た乗客で、帰りの車内はそこそこ混んでいる。 その人々の間を大きなカメラを抱えた老年のご夫婦が、先程からバラバラに行ったり来たりしつつ沿線の様子を撮っている。 停車する毎に忙しく動きまわり、全駅の写真を欠かさず写真に収めているようだ。 そんな事してて楽しいのかな?と思ったが、ただ電車に乗るだけで満足してる私に言われたくはないだろう。

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