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2014/03

■ 北陸鉄道 石川線

さて最後は北陸鉄道の石川線に乗るべく、JRで西金沢へ向かう。 前回の北陸行脚で浅野川線には乗っているが、石川線の方はアクセスが悪く時間的に無理があり、乗れなかったのだ。 今日は移動中にお昼を回りそうだが、例によって昼食時間を全く考慮していないので福井駅で携行食を見繕う。 毎度コンビニお握りでは味気ないと思い、駅構内のおむすび専門店「桜むすび」で売っていたふっくらおむすびの越前&へしこ鯖を購入した。

福井からは昨日も乗った新車の匂いのする北陸本線521系に1時間半弱揺られ、西金沢駅に到着。 ここに北陸新幹線は停車しないが、駅の目の前を高架が貫いており、それに連携して駅前も整備されるようだ。 その工事のため、広場にはあちこちバリケードや仮フェンスが並んでいて何だか物々しい。 駅前広場の奥手に緑の多い公園があったのでそちらに避難し、買って来たおむすびで遅いお昼を済ませた。


西金沢駅前 左に進むとJR入口、中央奥が新西金沢駅

一休みしたら腰を上げ、JRに隣接している北陸鉄道の新西金沢駅へと歩を進める。 金沢に西が付いた西金沢駅、そこにさらに新を被せた孫請けのような駅名ではある。 ところがホームへ向かおうとしたところ、駅入口への行き方が分からず右往左往してしまった。 駅前広場を長い踏切で横切る線路は見えているのだが、工事で通路があさっての方向へ曲げられたりして分かりにくい事この上ないのだ。

当初ここからまずは野町駅へ向かうつもりでいたが、鶴来行きの方が20分ほど早く来るので計画を変更。 狭い島式のホームで5~6人の客と待つことしばし、やって来た下り電車は東急流れの7200形だった。 中間車から改造した潔い先頭部を持つこの電車、あっさりとした…いや、あっさりとし過ぎた外観を呈している。 無人駅なのでドア入口で整理券を取って乗車、例によってワンマン運転だから下車する際の精算だ。 今日は乗り放題の「石川線エコきっぷ」を使おうと思うが、有人駅で降りる時にそれを購入すれば事前の乗車分も含めて有効になるという。

車内には部活の対外試合なのか、大きなカバンを抱えたジャージ姿の高校生達が乗っていた。 自動で流れる音声アナウンスで「ほくてつ」と繰り返されるのが、何だか「こくてつ」に聞こえて懐かしい響きに感じる。 電車は街中を抜けてほぼ南へと向かって走る。 徐々に周囲の風景が開けだし、車窓左手には雪を頂いた山稜が見えて来た。 途中で大挙して降りる客もなく、電車はそこそこの乗車率のまま25分程走って終点の鶴来駅に着いた。


鶴来駅構内

いつもならすぐ折り返しに乗る所だが、今日は1時間強余裕を持たせた帰りの電車を選ぶ事にした。 幸い天気も回復してポカポカと良い日和なので、ここから少し廃線散策をしようとの魂胆だ。 石川線の末端区間である鶴来~加賀一の宮駅間はつい最近の2009年11月に廃止されてしまった。 前回私が北陸地方を訪れた翌年だったので悔しい思いをしたが、今日はそのお名残り乗車代わりというわけだ。

駅前から線路跡に沿って、加賀一の宮駅を目指して歩き出す。 線路敷は既に枯草で覆われているが、まだレールも架線もしっかりと残っている。 途中の踏切も閉鎖はされているものの、道路にはレールが埋め込まれたままだ。 水路を渡るガーダー橋や、中間駅「中鶴来」の小さな単式ホームもそのまま残っていた。 それらをカメラに収めながら、電車に乗った気持ちで沿線の風景も味わいつつゆっくりと歩く。 今日は廃線散歩には絶好の日和で、青空の下には遠く白山方面の峰々が白雪を被った稜線を見せている。


右手から手取川が近づいて来るころ、小さな踏切を渡って鶴来街道へ出ると、それに沿って建つ加賀一の宮駅舎の前に出た。 瀟洒な寺社風屋根を持つ外観は、なかなか古風で立派な建造物である。 駅入口は封鎖されているが、その前に「一の宮」と書かれたバス停留所の標識が立っていた。 花壇のある駅舎横から裏手を覗くと、ホームの上屋は取り払われて、そこに柔らかな午後の日差しが降り注いでいた。


加賀一の宮へ向かう廃線跡

加賀一の宮駅舎

この駅、末期は無人だったそうだが、年末年始は至近にある白山比咩(しらやまひめ)神社の初詣で賑わったようだ。 またここから山深く白山下まで、あの金沢と名古屋を結ぶという壮大な構想の金名線が接続していたのである。 金名線が運行されていた当時は、加賀一の宮も2面2線の駅だったとの事。 そんな昔の姿を偲びつつ駅跡で感慨にふけっているうち、ふと時計を見ると、いけないもう電車の時間が迫ってる。 ここまで沿線の写真を撮りつつ散歩気分で歩いて来たので、1時間15分のうちの45分を費やしてしまった。

帰りの電車まで残り30分という事で、復路は競歩なみのストロークで来た道をひたすら歩いた。 道の途中で散歩をしているおじいちゃんを追い越したが、じっと山に向かって手を合わせていたのが印象に残る。 競歩のおかげで発車10分前には駅舎に飛び込めたが、汗が吹き出し、膝はガクガクと笑っていた。 呼吸を整えた所で待合室を見ると、戸棚に金名線他で使われた鉄道備品類が展示されている。 在りし日の鉄道風景なども写真パネルが掲示されていて、改札待ちのひととき、それらを興味深く見させてもらった。

帰りはそのまま終点の野町まで乗り通したが、途中JRと接続する新西金沢での降り客が少ないのが意外だった。 野町はターミナルにしては手狭で比較的小さな駅だが、駅前にはバスが横付けされて乗り継ぎ客をさばいていた。 以前はここで市内線の路面電車とも接続していたので、きっと金沢の市街地へ行くにはJRを使うより便利だったのだろう。 私は野町ですぐ折り返して戻り、新西金沢でJRに乗り換えた。 ここで降りたのは私を含め3人のみで、やはりJRへの乗換客は少ないようだった。

これでひとまず北陸の地方私鉄は一通り乗りまわることが出来た。 だが平日に来られなかったので、今回も福井鉄道の高床車が見られなかったのが心残りである。 低床車への置き換えが順次進んでいるというが、まだ見に訪れるチャンスはあるだろうか。 明日は半日がかりで東京へと戻るので、今夜は宿の展望風呂で体を充分に癒しておこうと思う。

- 終わり -