Banner

2014/03

6年ほど前の夏、北陸地方の私鉄をあちこち訪問した。 金沢、富山、高岡、福井と乗り歩いたが、かなりの駆け足旅だったので、いくつかの路線を乗り残す事になった。 別に全国完乗を目指しているわけではないが、そこに存在するものに乗れなかったというのは何とも残念ではないか。 それで今回は未乗のえちぜん鉄道と北陸鉄道石川線に乗るべく、福井と金沢を訪れる事にした。 前回と違い季節は早春だが、果たしてどんな沿線風景を見せてくれるだろうか。

■ えちぜん鉄道 三国芦原線

寒々とした新幹線の高架橋下を吹き抜ける風は冷たく、3月半ば早朝の福井駅前は雪がチラついていた。 えちぜん鉄道の福井駅はJRの駅東口に接し、この新幹線駅予定地に並ぶように存在する。 やけに早い時期から新幹線の準備が進んでいるなと思ったら、えちぜん鉄道の立体化に際し、この高架を仮線として使うという計画らしい。 一旦出札窓口へ行ってフリー切符を手に入れた後、その手前にある温かい待合室で、頭上のテレビを眺めながら改札の始まるのを待つ。 今日は土曜だがクラブ活動へ向かうのか、男子高校生の三人組と、あとは年配の客が数名、談笑しながら電車を待っている。


えちぜん鉄道 福井駅

ご存知の通り、えちぜん鉄道は列車衝突事故により運行休止となっていた京福電鉄を引き継いで再生された第三セクターである。 つまり同じ京福電鉄として、京都の嵐電やかつての叡山線とも兄弟関係にあったのだ。 京福というからには京都と福井を結ぶ壮大な鉄道建設構想があったのかと思ったが、そうではないという。 前身の京都電燈は京都及び福井で電力事業を展開し、その電気の供給先として両地域での電鉄経営に至った為、という経緯がある。


ホームベンチに何故か恐竜君

発車5分ほど前になってようやく待合室にアナウンスが流れ、ぼちぼちと皆が動き出す。 ホームで待っているとヘッドライトを煌々と光らせた電車がやって来て静かに停車し、運んで来たお客さんを降ろした。 ワンマンの単行電車は新しそうに見えるが、雪国にしては停車中もドアが開けっ放しで、待っている間に風が吹き込んで寒い思いをした。 運転士がやって来て発車、客が少なくクロスシートのボックスを独り占めしているので、ドアが閉まってしまえば車内はなかなか快適だ。 これから乗るのは三国芦原線、路線としての起点は2駅先の福井口でそこから永平寺線と分かれるが、全列車が福井まで乗り入れている。

分岐駅の福井口を発車して留置線に憩う雪かき装置を付けた凸型電機を見下ろしつつ築堤を登ると、電車は北陸本線の上を跨ぎ市街地の中へ降りて西へと向かう。 4車線の大通りを渡ると田原町で、左手から路面を走って来た福井鉄道の線路がカーブを切って寄り添って来る。 街中の乗換駅だけあってこの駅からは多くの客が乗り込んで来た。 ここは将来の相互乗り入れ計画があるというが、その為のものか、福井鉄道の駅は工事を行なっており仮ホームに移っていた。 次の福大前西福井駅を発車すると線路は北進し、徐々に市街地から郊外へと走り出す。 左手に奇抜な建物の結婚式場が見えて来ると線路は長いトラスで九頭竜川を渡った。


誰もいない列車後部で流れ行くレールを眺めていたら、小さなホームらしきものが視界の隅を通過して行った。 後で調べるとこれは仁愛グランド前という臨時駅で、隣接する仁愛学園のグランドで開催される体育祭に際し、年に1日だけ数本の列車が停まるという。 列車は田園地帯の中をまっすぐに北へ向かって走り続けており、朝なので右手の東側から朝日が射している。 田園風景の左手彼方に忽然と大きな街が見えて来ると線路はそちらへ90度カーブし、列車は後方から朝の光を受けながらあわら湯のまち駅のホームに滑り込んだ。 さすが沿線屈指の観光地である芦原温泉の玄関口だけあり大半の客がここで下車、車内は一気に閑散としてしまった。


終点の三国港駅

残った乗客も三国駅で全員降りてしまい、私一人の貸切となった電車は次の終点、三国港駅を目指す。 ここから先は、廃止となった旧国鉄三国線を引き継いだ区間である。 また同時に、東尋坊方面へと延びていた京福電鉄の路線も廃止になっているので、なかなかにややこしい。 途中でその旧線の遺構なども車窓から一瞬チラ見しつつ、私を乗せた電車は終点の三国港に静々と到着した。

このまま乗っていては運転してきた甲斐がないだろうと思い、運転士さんに切符を見せて一旦車外へ、写真を撮りつつ駅の周囲をしばらく散策した。 向こうに見える県道には車が頻繁に通っているが、駅の周りはしんとして人の気配がない。 すぐ横は九頭竜川が日本海へと注ぐ河口であるが、堤防の内側なので波穏やかにして、冬の日本海という雰囲気はあまりしない。 駅ホームの一番福井よりへ行ってみると、構内の外れに眼鏡橋と呼ばれる陸橋が線路の上を通っているのが見える。 ここは車道が線路と斜めに交差しているので、「ねじりまんぽ」と呼ばれる特殊な煉瓦の積み方で出来ており、ちょっとした名所となっているのだ。

12分後に折り返した電車は、どこからかホームに上がって来た 8人程の地元客と私を乗せて福井市街地へ向かう。 時間帯がいいのか駅毎に数名の乗客を加え、福井駅へは立ち客も多数の状態で到着した。

Button次へ