第五日目

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北見付近(オホーツク6号車中)

 っと雨でしたねぇ...。宿を出る日、おじさんが駅まで車で送ってくれながら、申し訳なさそうにつぶやいた。けど、管理人さん(息子さん?)には根室の秋刀魚を焼いて差し入れしてもらったし、何なら温泉にお連れしますとまで声をかけて頂いた。またおやじさんにも雨の中、買い物に付き合ってもらったり、また地元の色々な面白い話も聞かせてくれた。むしろ気を使って頂いて、感謝しているのはこちらの方だ。結局乗れずに、そのまま又夕べ分解してパッキングした自転車を、後で送り出してもらう事までお願いしてしまったし。

 たら広いが何もない川湯温泉の駅前で、私を送ってくれた軽自動車が転回してエンジンの音も高らかに行ってしまうと、あたりにはシンとした静けさが戻った。次の網走行き快速までまだ小一時間ほどあり、駅前にも待合室にも人っ子一人いない。早めに来たのにはわけがあって、この駅の佇まいを写真に収めておきたかったからだ。ストラクチャとしてはまことに好ましくまとまった、いわゆる日本の、国鉄の、北海道の駅なのだ。台風が通過した後とはいえまだどんよりと曇った空の下に、落ち着いた三角の屋根をどっしりと乗せたこの駅は、駅員はいないが実は無人ではない。駅舎の事務所を利用して、喫茶軽食店が開業しており、玄関にもその幟がはためく。

 がまだ10時の開店前なので、当然店内も暗く閉まっており、ここにも人の気配は全くない。ホームに出て駅構内の様子をカメラに収めていると、一人のライダーがやって来て待合室で一服。そのうちに小さな定期バスが温泉街から客を運んできて、段々と賑やかになって来た。開店時間になり喫茶店も開いて、バスを運転して来た運ちゃんが、ポケットに両手を突っ込んで入っていく。しばらくすると遠くでホイッスルの響きがし、やがて森の陰からカーブを回って銀色の車体を揺らしながら、快速しれとこ号がやって来た。

 り込むと車内はほどほどに混んでおり、私はクロスシートを諦め、入り口近くの長椅子に陣取る。斜めに腰掛けると開放的な運転席を通し、前方の森をどんどん掻き分けて登って行くのが見えて気持ちよい。小さなサミットを越え、汽笛一声短いトンネルを抜けると、列車は一路オホーツクを目指しジョイント音も軽やかに下り出す。知床斜里でほぼ90度向きを変え、今度は網走へと向けて海岸沿いを疾走する様になるが、空はやっと所々青空が抜けて来て、海も灰色から若干青みを帯びてきた。岬をいくつか回りこみ、トンネルを抜けて山裾の高架を走るようになると、終着の網走はもうすぐだ。


 走駅前でお昼にラーメンでも食そうかと、改札を出てリュックを背負ったまま歩き出すが、幾つか店はあったものの何となく入りそびれて港近くまで来てしまった。海へと続く網走川には漁船が係留されており、台風で茶色になった流れの中で静かに揺れていた。折り返して駅の待合室に入り、構内レストランで売っていたホタテ弁当をそこで掻きこむ。食後に少し待合室のテレビを見ながらうとうとしていると、次に乗るオホーツク6号の改札開始アナウンスがあった。ホームへ行き指定券の号車に乗り込もうとするが、何故かそれがグリーン車。おかしいなぁ... と思いながらデッキに入ると、1/3程が普通指定席の半室構造だった。

 れが発車時は私ともう一人しか乗っていなくて、何か個室を占有してる様な雰囲気でなかなかよろしい。思わずくつろいだ雰囲気で、早速まわって来た車販のお姐さんからコーヒーを調達してしまった。列車は北見の市街地を抜け、常紋トンネルをくぐった後、遠軽で方向転換。この頃には半室もほぼ定員になっていたが、操作のわからないお年よりを手伝ってあげるなど、みんなで一致団結して座席の方向転換を行なう光景が和やかで微笑ましい。

 はすっかり晴れ渡ったが、列車の渡る川々には台風の置いていった濁流が渦巻いており、今にも堤を越えて周囲の牧草地へ溢れんばかり。青空と泥水の流れが、奇妙なコントラストを見せていた。再び山間地へ入って石北線をのろのろと進むが、付かず離れず工事中の高速道路の壮大な高架橋が見える。これが開通すればおそらく、この道央と北見,網走を結ぶ線路も、少なからずダメージを受ける事は免れられないだろう。石北トンネルから構内のだだっ広い旭川の駅へと降り着き、宗谷本線を走り出すと、オホーツクは見違える様なスピードに変身して一路夕闇迫る札幌へと突っ走った。


[ この日のメモ ]
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