何気なくネットの地図で埼玉県のあたりを眺めていたら、弓立山というのが気になった。 それは八高線の西側、ときがわ町にある小さな山である。 調べてみると標高400mちょいの低山で、山頂直下まで林道も行っているようだ。 八高線で少し先の小川町まで輪行し、そこからスタートして弓立山を目指してみる事にした。
10月のある日曜の朝、ポカポカ陽気の小川町駅前ではロードレーサーのグループが集合して走り出そうとしている。 ここから向かうのはおそらく定峰から白石峠の方面だろう。 自分も広場の一角で自転車を組み立て、とりあえずスマホの地図でルートを再確認。 実のところ今日は、いつもの五万図を持ってくるのを失念した。 そればかりか出掛けに輪行袋を忘れ、取りに戻るという失態を演じている。 久し振りのツーリングなせいか、何かと忘れ物が多い。
駅前のコンビニで買い出しを済ませ、まずは一旦西へ向かって少々回り道。 緩いカーブを描くこの道路はお察しの通り廃線跡だ。 過去にも何度か訪れているが、東武東上線から分岐していた貨物線の跡である。 久し振りに寄ってみたが、切り通しで線路の上を跨いでいた鉄道当時の跨線橋は、既に新しい物に架け替えられていた。
線路跡の緩やかなサミットを越え、大河小の前から県道273に入る。 丁字路の信号に「松郷峠入口」の標識が。 ふーん、これから向かう高みは松郷峠と言うのか。 ちゃんと名前が付いているからには、昔からある生活路なのだろう。 段々家が少なくなると、道は徐々に登りにかかる。 林間の気持ちいいカーブ、対向車線を下って来るロード乗り多数。 みんなすれ違いざまに挨拶を送ってくれるのが嬉しい。 うん、なかなか良く教育されてる… なんて、何故か上から目線。
大汗かいて松郷峠に到着。 見晴らしが良いわけでもないので、一息ついたらそのまま下る。 あ、寒い。木陰の中を下り出すと、汗かいた背中が急速に冷えて来る。 ブレーカーを羽織れば良かった、今からでも着るか? と思う間もなく、森が切れて明るい里山風景の中に飛び出した。 地図によるとここは、ときがわ町雲河原。 やはり人の営みのある場所は景色も空気も暖かくていいな。
あとはゆるゆると下って南平の交差点に至る。 ここを右手に行けばどん詰まりは白石峠。 先ほどから多くの自転車とすれ違うのは、その周回コースの一部なのだろう。 そこを白石峠とは逆方向に曲がり、ときがわ町の中心部へと向う。 途中で都幾川四季彩館という温泉施設の看板を見かけた。 日帰り入浴には手頃で良さそうだが、自転車の場合は近場で輪行しないとせっかくの風呂上りに汗をかく。
しばらく走って桃木バス停のあたりで右手脇道に入る。 弓立山へ向かうルートのショートカットコースだ。 と思ったのも束の間、この近道はちょっとした峠越えなのだった。 これじゃ多少遠まわりでも素直に平地を周り込んで来た方が楽だったけど、まぁいいや。 峠には温泉スタンドがあるが、前後の区間で道路工事をしており何やら騒々しい。 後で調べたら、都幾川四季彩館はここのお湯を使っているそうだ。
ダーッと下って丁字路を右折、弓立山にはパラグライダーのスクールがあり、その案内板が道案内となる。 しばらく道なりに上り坂を進むと、トトロの世界のような弓立山入口バス停。 ここで折り返すように本道から分かれると、いよいよ弓立山への登りにかかる。 道はなかなかの急勾配だが登るほどに風景が開けて来た。 ひとしきり漕いでピークに達すると、そこからさらに分岐するのが頂上へ向かう道。 休憩していると、「こんちは~」とロードの二人連れがハイペースで登って行った。
ここまで来ると私はもうバテバテで、走るより休憩時間の方が長くなる。 走ったり止まったりを繰り返しつつ徐々に高度をかせいでゆく。 カーブはなるべく外側をまわらないと、坂がきつ過ぎて止まりそうになってしまう。 しばらく走ると先ほどの二人連れが路肩の広場で休憩をしていた。 ここは見栄を張って止まらずにその前を通り過ぎた途端、目の前にはばかるゲート。 ガーン、道路封鎖されてる、何でだ~?
とりあえずゲート前で証拠写真を撮り、すごすごと彼らのあたりまで引き返す。 「こんにちはー、ここいつも閉まってるんですか?」 「いや、先日の台風以降みたいですよ。」 「そうすかぁ、登山道なら行けるのかな…」 ここから山道を行く事も考えたが、今朝のテレビで見たスズメバチの脅威に少々怖気づく。 ちなみに弓立山の由来についてだが、それまで龍神山と呼ばれていたこの山で、天慶8(西暦945)年に武蔵国司の源經基が蟇目(ひきめ:射たときに音を響かせる矢)を行なって四囲境界を定めた為、と伝えられているそうだ。 …というくだりは頂上に着いた時に書こうと思っていた言い伝え、あえなくここで繰り出すことになってしまった。 「頂上行けないか。残念…」 「ですねぇ~(笑)」 地図だとあと一登りで林道終点なので、7合目あたりまで来たかな? 「では、お先にー」潔くあきらめ、二人を残して先に下りだす。