あたりには畑仕事の人達が多く、道路も大きなタイヤの農作業車が頻繁に往来している。
路肩には農耕車優先の標識があるが、時々それらを追い抜こうと大きくはみ出してこちらの車線に入って来る乗用車があるので要注意だ。
高原状の耕作地の中を少し進み緩いカーブが終わった所で、目の前に現れた光景に思わず息を呑んだ。
山へと向かって急角度で真っ直ぐに登って行く坂道、勢いをつければそのまま空へと飛び出して行きそうだ。
つづら折れの道が積み重なった壁のような山肌を見るのも心臓によろしくないが、信州峠名物であるこの直登もなかなかジワリと脚に来そうな眺めではある。
日もだいぶ高く上って暑くなって来た。
この区間、陽射しを遮るものが何も無いのがさらに体力消耗に追い討ちをかけてくれる。
大汗をかいて何とか急坂をやり過ごすと、その後はしばらく森林の中をうねうねと緩勾配で登り続ける道となる。
やがて急な右カーブが見えて来ると向こうから風が抜けて通るようになり、「もうすぐだ」と峠を直感するひと時が訪れる。
これはパスハンティングの醍醐味とも言えるだろう。
信州峠はその大上段な名前の割に標高はさほど高くなく、残念ながら峠からの眺望も特に期待出来るものは無い。
一息ついたら登山客が駐車していった車の脇を擦り抜け、そのまま山梨側へと下り出す。