師走である。振り返ってみるに、今年は例年になくまともに走っていない。 それで急遽どこかへ行かなくちゃという思い(何でだ?)にかられ、とりあえず車に自転車を積み込んで家を出た。 行き先は、パラパラとめくったコースガイドから見繕った南国の小林道。 南国と言っても手近なところで房総半島の先端、館山千倉エリアだ。 考えてみると本年は何かと房総の地を訪れており、今回で既に3度目となる。 この夏に館山道が全通した事もあって車で訪れるにはアクセスし易い地域となり、今後もしばし房総通いが続きそうな気配もする。
ところがだ。 近場という事に油断して家を出るのが遅くなり、休日朝のお台場や浦安あたりの渋滞に次々巻き込まれ、デポ地の道の駅「ちくら・潮風王国」に着いたのは正午をまわる時刻になってしまった。 おまけに、午前中あんなにポカポカと穏やかな陽気だったものが、時間と共に雲が沸きしぐれて来て、自転車を組み立ててスタートする頃には何やら怪しげな空模様。 でもせっかくここまで来たんだから、距離も短い事だしさっさと一っ走りして来ようと、暗い空の下、海岸沿いを千倉の街中目指して向かい風と戦いながら進む。
入口に「林道 千倉線」の表示がある。分岐して緩く登った先ですぐ左に曲がり、山へと分け入る。
千倉林道最初のトンネル千倉側から登って行って最初のトンネル。一応、きちんとコンクリートで固めてある。
千倉林道下り最初のトンネルを抜けてしばらくはゆるく下って行く。周囲には何もないが道路は滑らかな舗装だ。
昼飯がまだなので途中コンビニで腹つなぎ用にお握りを買い、国道脇の路地から内陸方向へとハンドルを向ける。 空は、何となく薄日は差して来ているものの相変わらずさえない天気、車がおらず周囲が静かになった事も相まってとてもまだお昼過ぎとは思えない空気だ。 小学校の前を過ぎて山裾をしばらく進めば、やがて前方右手に清掃センターの高い煙突、左手には分岐して緩く登って行く千倉林道の入口が見えて来た。
今回走るのは、この林道千倉線とその先にある畑2号線を繋ぐ全長20数キロのショートコースで、おそらくそのまま突っ走ったら1時間もかからないだろう。 でもそれじゃ来た甲斐がないので適度に休み休みしつつ、ゆっくりと味わいながら行こうと考えていたが、それもこの天気じゃ少し急いだ方が良さそうだ。 舗装された細い道の登り勾配を進んで行くと、すぐに目の前に短いトンネルが現れる。 房総の林道はわりとこのパターンが多いようで、もうすぐピークかと思われる所でもう一登りが無く、あっさりとトンネルで掘り抜いてしまう。 その分、健脚な人には刺激度は少ないが、軟弱な足の私みたいのには合っている。
トンネルを抜けると少し下って川尻川沿いの沢筋へと降り立ち、しばらく小さな渓谷に沿ってうねうねとした細道が続く。 特段観光地のあるわけでもないこの道は誰も来ない寂しい世界かと思いきや、所々に山仕事らしいトラックが駐車していたり、途中には観光客らしき若者の乗った他県ナンバーの車も居て、そこそこの定番ルートなのかも知れないと思った。 もう盛りの時期は過ぎてしまったようだが、周囲の森もこじんまりと紅葉していてなかなか綺麗だ。
海上保安庁の電波塔へと急坂で登って行く道は、残念ながら現在入り込む事は出来ない。
千倉林道トンネルその2ポータルが無いせいか、かなり小さめに見える。この角度からだと奥が見えないが出口はすぐ。
千倉林道下りその2段々と人里の気配がして来る。ここは周り一面が竹林に囲まれた独特の景色。
道が再び登り出して少し汗をかいてきたなと思う頃、この林道二つ目の小さなトンネルに到達する。 その直前で右手に分岐し急登して行く道があるが、その頂上には海上保安庁の電波塔が立っている筈である。 かつてのニューサイでお馴染み薜さんのガイドによれば、このどん詰まりのピークからは遠く海の眺めがあり、ランチポイントとしては絶好だとの由。 自分もちょっと寄り道して行くつもりでいたのだが、テロ対策の為か残念ながら現在は殺伐としたバリケードで登り口がロックアウトされている。あわよくば上でお握りを、何て目論見も見事に外れてしまった。
少し休憩した後、目の前のトンネルへ。 直前が急坂で登っているため下から見上げる位置では奥が真っ暗で恐ろしげだったのだが、入口から覗いてみると向こう側の出口がすぐそこに見えている。 でもここらはトンネル断面が極小なので、運悪く対向車が来たら壁に貼り付くしかないだろうな。 周囲の音に耳をすませて誰も来ないのを確認し、一応ライトを点灯、一漕ぎして後は惰性で道路中央を走り抜けた。 そこからは又しばらく下って竹林の中を潜り、顔にバシバシあたって来る小さな羽虫の集団に閉口しながら下る。 人里の空気を感じて空が開けて来たなと思う頃、ひょっこり「畑」の集落へと到着だ。
ここは山中の桃源郷という雰囲気の村である。 今しがた辿って来た頼り無げな林道の他に、麓の県道から直接この村落へと入って来る車道もあるが、そちらもあまり広い道ではないようだ。 周囲を見ると畑には藁囲いがしてあって、その中では正月につき物の赤い実がなるセンリョウが栽培されているという。 自転車を停めてそんな山村風景を写真に収めていると、「コンニチワー」と挨拶を交わし、レーシングジャージ姿の集団が颯爽と目の前を通過していった。