村内の細い里道に直行する形で、大規模な道路の工事が進行している。
林道畑2号線入口右の道はこの先で行き止まり。左手の沢へと降りて行くのが林道の入口だ。
林道脇の高架橋脚進んで行くとこんな驚きの光景が。新しい道路は非常にダイナミックに工事が進んでいる。
通過した後に振り返って撮影。岩盤に素掘りで抜いたトンネル出口。
ところで、その少し先で気になる工事現場に出くわした。 北方向から南下して来た作りかけの太い車道が田園地帯のど真ん中を貫いて、これから行く畑林道の方へと延びていたのだ。 橋梁の造作などからすると結構な高規格道路のようで、その時は一瞬富津館山道の延長か?とかも思ったのだが、実はそうでない事がこの後で判明する。 工事中の道路路盤を左手に気にしつつ少し進むと道が二股に分かれ、右は「この先行き止まり」の案内板が立っている。 ここから左の沢へと降りて行くのが林道畑2号線だ。
分岐点に自転車を立てかけ、地図を確認しながらしばし休憩。 空は少し回復して来たようで、いつの間にか青空がだいぶ増えている。 冬真っ盛りではあるが、ここ南房の地はやはり暖かく、アウターシェル無しで風を受けながら立っていてもそれ程厳しい寒さは感じない。 ふと気がつくと、後ろからそろそろともみじマークの軽自動車が近づいて来た。 私の脇で停車して窓が開き、運転していたお爺さんが「この道は白浜へ抜けられますかねぇ」と尋ねる。 「行けますよ。道が狭いと思うんでお気をつけて。」と答えつつ見ると助手席にはお婆さん、地元ナンバーだったが夫婦仲良くドライブだろうか。
車を見送り、ひと息して再び自分も走り出す。 分岐の先で沢を渡る橋が二手に分かれているのだが、立派な方は工事車両専用と書いてある。 小さい方の橋を渡り、林道のピークへ向けてゆるゆると登りだすが、この数キロ先がもう海だなんて信じられないような山深い景色だ。 狭い谷筋も静かでなかなか良い風情だと思いつつ進んで行くと、カーブを曲がった先で高架橋の長い足がニョキっと生えているという驚きの光景に出くわした。 どうもこの道路は、畑林道と重なる方向を目指しているようだ。
その先で素掘りのトンネルに入ると、出口の向こうでガタガタと重機の動き回るらしい音が聞こえた。 トンネルを抜けるといやな予感は的中し、目の前に横たわる工事中の道路に林道が吸い込まれる光景が展開した。 頭がクラクラしつつしばし唖然として立ち止まっていると、道路の方から大型ダンプが林道へとバックして来て一時停止。 そしてミラーで私に気づいたのか、運転席からニョキっと腕が出て来て「カモン」の合図をこちらに送ってくれた。 気を取り直しつつ自転車を押し、会釈をしてダンプの脇を前に出ると、道路工事の大河の向こうに頼りなげな林道の続きが見えた。
日の光の届かない鬱蒼とした森の奥にあるトンネル。斜めの断層模様がいっそう迫力を増す。
畑林道からの展望雲間から冬の日差しが海面に落ち、その部分だけがキラキラと輝いていた。
畑林道からの展望シーズンであれば咲き競う花で見事な光景だろう。その季節にもぜひまた訪れてみたい。
林道出口へと下る最後に急坂を下れば林道の終点へと降り着く。林道出口脇には神明神社がある。
林道下の工事現場林道直下では、安房農用道3号トンネル(安房白浜トンネル)の工事が行なわれていた。
広い空の工事現場を渡り、少々ほっとして再び小休止。 向こうの方を見やると、ここでも谷を渡る大きな橋梁を作っているようだ。 自分の正面右手と左手でこんなにも極端に風景が違うというこの現実、何とも驚きの状況だ。 これが開通したら林道の方はきっと放棄され、徐々に荒れてゆくんだろうな… そんな胸騒ぎは多分、現実となってしまうような気がする。 そこから再び森へと入り静かになった道をしばらく登れば、程なくこの林道最後のトンネルへと到達した。
空が再び曇って来たのか、あるいは深い森の木々に囲まれているためか、トンネル前後は何だか暗くて少し薄気味悪い空気が流れている。 ここも素掘りで抜いてあるのだが、地形の断層がちょっと異様でそれが目立つせいもあるかも知れない。 一気に潜り抜けたあと写真を撮ったら、相変わらず暗い森の中をゆっくりと下りだす。 道の左手は沢っぽくなっているようだが、枯葉がたまっていて水の流れは見えない。 道路工事の方もまだここまでは達していないらしく、測量のマーキングすら見えないのでもうしばらくは静かな下りが楽しめそうか。
何て思いながら、ペダルも回さず落ちるに任せてしばらく走っていると、木の葉ごし前方遠く、何やら輝く明るい点が見えて来る。 ハンドルを握りながらその光へと向って突進し、森を抜けた次の瞬間、思わず「オォッ」と一人声を出してしまった。 カーブの手前で急ブレーキ、自転車を斜めに滑らせつつ足を付く。 顔を上げた視線の先には雲と海が広がる。 そしてその雲間から午後の陽光が降り注ぎ、照らされた海が銀色に輝いていた。
ここから海の展望が得られる事は予定通りだったが、この景色は予想以上の感動だ。 走っていればゴウゴウと後方へ流れるばかりの空気が、立ち止まっている今は下界からの音をそっと静かに伝えてくれる。 遠く海岸に寄せるさざ波のざわめきも、風に乗ってこの場所にまでかすかに聞こえて来るような気がした。 誰も来ないのをいい事に、しばらく道の真ん中で自転車を杖にして腰かけ、ボンヤリ海と空の景色を眺めて珠玉の時間を楽しんだ。
ブレーキを握り締めて最後の急坂を下ると、そこはもう崖下に広がる白浜の里。 シーズンには色とりどりの花が咲き乱れるが、残念ながら今はまだ季節外れで少しの品種しか咲いていない。 その寂しげな花畑の向こうに白いフェンスで囲まれた大きな工事現場が目に付き、そこへ行ってみて驚いた。 ゲートの奥にはコンクリートで固められた近代的なトンネルが、ポッカリと大きな口を開けて海からの風を吸い込んでいたのだった。 畑林道が白浜へと最後の急坂を下って来る、ちょうどその直下になる。
事業標識には「安房農用道3号トンネル工事」とあり、これは高速道でなく一般の道路なのだと認識した。 林道の後半で工事の気配がしなかったのは、この長大トンネルで抜けていたからだったのか。 平成21年に開通する予定のようだが、きっとこの道路が完成したら千倉方面から白浜へと抜ける主要ルートになるに違いない。 便利になるのと引き換えに、やはり林道の方は廃道化してしまうのだろうか。 あの高台から海の眺めを楽しむ事も出来なくなるんじゃなかろうか等と心配をしつつ、再び向かい風と戦いながら海岸通りを道の駅へと急いだのだった。 さて、きっかけを失ったお握りはどこで食おうかな…