八王子と高崎を結ぶJR八高線、高麗川から北はいまだに未電化だ。 関東平野の西端と山地との境を縫って気動車が走るローカル風味満点の線区。 街、村、山、河。 列車からバラエティ豊かなその車窓を眺めていると、瞬間、魅力的な風景の開ける事がある。
ここもそんな場所の一つだった。 キハ100系がディーゼルエンジンを響かせて小さな山岳区間のサミットへと向かう途中、人家の見えない山中で窓の外を谷戸が通り過ぎる。 その一瞬の光景を訪れてみたくて、ある日、輪行袋を抱えてこの小駅へ降り立った。
スタートは折原駅。 ここが改札口兼駅舎である。 施設は新しいが、見事に何も無くてビックリした。 線路向こうの立派な工場とは対照的な光景だ。 トイレすらないので、しばらく我慢するハメに。
最初は軽トラなら通れる位だったが、やがてこんな感じで塹壕状の山道に変貌。 落ち葉をカサコソ踏み締めながらしばらく走ると、軽く一尾根越えて向こうの車道へと辿り着いた。 そこに待っていた風景は・・・
この景色、この景色! 谷が開けて空が広い。 線路端から少し山の方へ入ってみるが、この谷戸に民家は一軒も見えない。 行き止まりの農道は車も入って来ないのでどこまでも静かな世界だ。 ポカポカとしたアスファルトの上に寝転がりたい気分になる。
しばらく静寂の世界に浸っていると、やがて遠くからカタンコトンとレールを鳴らして上り列車がやって来た。 カメラを構える私とその背景の山々は、車内の人たちからどのように見えているだろうか。
そこからもう一つ山裾を越すと、木呂子の集落へと入って来る。 「木呂子」とはどういう由来だろう、なかなか響きの良い地名だ。 何しろ「きろこの里」なんだから。 ここからしばらく線路を離れ、山の方へと向かう。 秋の陽を浴びた柿の実が民家の庭先で熟した色を見せていた。