頂上からの道を下り、分岐を右折して等高線沿いに少し走ると崖側の風景が開け、平野部の方角を見通せる場所に出た。 なかなかの良い眺めにしばらく自転車を降りて一服。 と言ったって煙草はたしなまないのでただボーっと景色を眺めるだけだ。 さらに進むと神社の急な石段の下に出て、そこから折り返すように分岐している道が下界へと続く。 心地良い曲線を繰り返しつつ、自転車に身を任せてその道を快調に下ってゆく。

photo弓立山山麓からの展望
photo日枝神社

再び見晴らしの良い場所に出たと思ったらそこは大附(おおつき)地区の外れ。 道路の高台から弓立山の山腹に並ぶ集落全体を見渡せ、その向こうには遥か関東平野が霞んでいる。 下って行くと、道路左手にログハウス風の東屋があった。 自転車を停めてみると「みかんの里休憩所」と書いてある。 このあたりはさながら天空集落の様相で、日当たりの良い斜面を利用して蜜柑の栽培がおこなわれているようだ。

photo弓立山斜面の大附集落を俯瞰
photoみかんの里休憩所でランチにした

お昼を過ぎていたので休憩所のベンチに腰掛け、ここでおにぎりを食らう。 すぐ先の分岐にはきれいなトイレも設けられていて、旅行者にはありがたい。 その分岐の坂下に小さな道の駅風の施設が見えたので、食後の休憩もかねて行ってみた。 入口には「いこいの里大附」とあり、そば道場の幟がはためいている。 駐車場の片隅には自転車ラックが設けてあったが、彩の国は各所にこういう設備が整っていて、自転車乗りにやさしい所だ。

中に入ると半分が地元産物の売店で半分が畳敷きの食事処となっている。 予約すれば別棟でそば打ち体験も出来るようだ。 カウンターでは店員のおばさん二人が、何やら故障したのかレジ打ち機と格闘中だった。 しばらく待って「柚子の贅沢」というジュースを購入。 ゆずとはちみつ、ときがわ名水だけで出来ているらしい。 飲んだ後に一息つくと、鼻に抜ける柚子の香りがとても爽やかだ。

photo休憩所前から「いこいの里大附」を見おろす
photo「柚子の贅沢」、スッキリ美味しかった

外のベンチで心地よい風にあたりながら飲んでいると、「あのー、すみませんが」と年輩の女性に声をかけられた。 何だろうと思ったが彼女は、「ここを上がってゆくとコーブリへ出ますか?」と尋ねる。 「えーと…」しばらく考えた後、「コーブリというと、顔を振ると書くこうぶり峠ですか?」と、思いついて返事をする。 「はい、その顔振です」 ハイキング風でもない彼女の服装と顔振峠の地名が、とっさに結びつかなかったのだ。

「…顔振峠はここからかなり遠いと思いますが」 頭の中で地図を描いてみたが、そう答えるのがやっと。 グリーンラインの一番南側の方にあるあの峠と、ここの山域は少し場所が違う。 「そうですか。車なんですが…」 「あ、車だったらすぐかも知れないですね、僕は自転車なもんでその感覚なんすよ」 「あら、自転車でいらしたんですか、それはそれは…」 二人とも要領を得ない会話になってしまった。 だが彼女が向かった先の車には夫が待っているようだったので、きっと何とかなるだろう。

photo蕎麦打ち体験の出来る「いこいの里大附」