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パイク探訪記 第一話

ある夏の日、私は私鉄電車に乗って都心を目指していました。車内は空席ぎみですがいつものくせでドア脇に立ち、外をぼんやりと眺めながら手すりにもたれかかっていました。ふと瞬間、彼方の道路を横切る、キラリと光る二筋の光。しかし一瞬の後にそれは後方へと流れ去り、電車は駅の防音壁の中へと突っ込んで行きます。減速、停車、そしてドアが開くが、すぐに発車する気配は無し。どうやら快速待ちのようです。私はホームへ降り、そのまま階段を下って高架下の改札口から外へ出ました。たいした用事でもないので、ここで少し寄り道をして行こうと心に決めたのです。


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迷わず足が向いたのは、さっき流れていった景色の方向。高架脇の細い路地を歩いて行くと、間もなく広い通りに出ます。頭上を電鉄の本線が複線幅で黒々と渡っているものの、地上には線路らしきものはなさそう。あたりは埋立の工場地帯で海は見えないけれど、何となく吹いて来る風に潮の香がただよっています。



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この道は工場地帯の中を走る産業道路のようですが、標識を見ると「海岸通り」なんてあまり似つかわしくない名前が付けられています。どうやらこのあたり昔は海岸ぷちだった雰囲気ですが、埋め立てで今の海岸線はずっと先へ遠のいてしまったみたいです。その道路を、海とは反対の方向へ歩いて行くと、やっぱりあった! どこからか、頼りない線路がカーブをまわって来て、この広い道路を堂々と渡っているのに出くわしました。



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この線路はどこへ行っているのかと踏切から覗いて見ましたが、家並みの間を急なカーブで曲がっており、その先が見えません。仕方なく道路の方からまわって行くと、目の前には町の公民館らしき古ぼけた木造家屋が建っていました。位置的にはこの建物の裏手になるはずなので、少々失敬してその庭からお邪魔し、奥手へと進んでみます。



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垣根の向こうは気持ち切り通し風ですが、その下を間違いなく線路が通っていました。向日葵の咲く裏庭を進み、そして、庭の突き当たりにある物置小屋の脇からその先を覗いて見ると、何とホームらしきものが見えたのです。草薮をかきわければ線路に降りられそうでしたが、ここは無理をせず一旦引き返します。



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