2013/09

上野の山のおサル電車
Image 表面(クリックで拡大)

知人にもらったこの硬券、上野動物園でむかし走っていた「おサル電車」の切符と思われる。 おサル電車の事は何となく知ってはいた。 上野公園には親に何回か連れて行ってもらった記憶があるので、ひょっとして私も乗っているかも知れない。 しかしこの電車、実際に猿に運転させていた時期があったというのは最近まで知らなかった。 猿はお飾り程度に運転席に繋がれているだけだと思っていたのである。

切符の材質は当時の国鉄のと同じような厚紙。 地紋はなく、表面全体が水色に印刷されている。 運賃は10円だが、「十二才以上の方は本券二枚で乗れます」と書いてあるから大人も乗れたのだろう。 普通の鉄道では大人料金に対して子供が半額だが、ここでは子供が主役で大人は倍額なのだ。 描かれている車両は流線型のようだが、おそらくまだ新幹線の走り始める前の時代であろう。 印刷が色褪せして飛んでしまい見にくいものの、ボディ側面に「UENO ZOO」と白文字で書かれている。

Image 昔の硬券とほぼ同じ厚さ

この切符について興味がわいて来たので、ネット上で見られるおサル電車の情報を少し集め、調べてみた。 以下は「Wikipedia」と「まぼろしチャンネル」内にある「お猿の電車年表」とからマージして抜粋した年表である。 1948年に走り始めてから1974年のお別れ運転までざっと運行期間26年になる。 Wikipediaの「おサル電車」の項には色々と気になる事柄なども書かれていて興味深い。

年号歴史
1948(S.23)年9月 「おサル電車」設置される。 1周5円、全線35m、客車3両18人乗り。 軌間455mm、6kg軌条、金額は3円
1949(S.24)年4月 新型車両導入。1周3分、全線100m、機関車はEC型2馬力で客車4両60人乗り
1955(S.30)年頃 猿による運転を中止。猿は先頭車に座るだけとなる
1962(S.37)年5月 開園30周年を機に大幅な改装を実施。新幹線を模した車両、軌間520mm、9kg軌条
1964(S.39)年10月 東海道新幹線開業
1972(S.47)年 機関車が新幹線型に。客車4両40人乗り。 全線150mの8の字コースを2〜3周した
1973(S.48)年 動物の愛護及び管理に関する法律が制定
1974(S.49)年6月 「おサル電車」廃止。お別れ式が開かれる
※まぼろしチャンネル「お猿の電車年表」より抜粋(緑字部分は Wikipedia)

ところでこの切符、特に発行日等の押印は無いのだが一体いつ頃のものだろうか?  車両の形態がそのヒントとなりそうなので、以下に写真の載っているページのリンクを集め、車両の変遷として年代順に一通り並べてみた。

初代? 1948(S.23)年頃
むき出しの素っ気無い車体は機能性重視といったところだろうか。パンタグラフだけは、なかなか本格的なのが付いている。Wikipediaには、ロボット研究家の相沢次郎氏が提供したロボット電車に猿が搭乗したという話が書いてあるので、これがその車体のようである。
2代目? 撮影時期不詳
運行初期の頃の絵葉書とされているが撮影年度は不明である。形態的にはアメリカの電気式ディーゼル機関車そのもの。次の3代目との間があまりないので、ひょっとして初代の下回りに新しいボディを被せただけかも知れない。ナンバープレートが「C583」、ん?佐倉に居たC58か?
3代目(EC型)? 1950(S.25)年3月12日
この写真の撮影前年に年表でEC型の新車両導入と記録があるので、これがそのものである事は間違いない。鉄道模型のHOゲージ入門車両で「EB58」とかの2軸にデフォルメされた機関車があったが、さながらこれはデッキ付きの EF57あたりを模したC軸電関といった所だろうか。
4代目(新幹線を模した)? 1964(S.39)年
写真の2年前に製作された「新幹線を模した車両」と思われる。おそらく実車の完成予想図や試験車両などの写真を元に作られたのかと思う。この写真が撮られた年に実際の新幹線が開業したが、実物と見比べて来園者たちはどう感じただろうか。
5代目(4代目改?) 1969(S.44)年
これは新製ではなく、おそらく先代の「新幹線を模した車両」を改造したものだろう。基本形状は変わっていないが、細かい部分の作りが若干改修されている。全体がピンクで奇異に映るが、写真の退色のせいで色味は変わっているのかも。
6代目(新幹線型)? 撮影日不詳
廃止されるまで走っていた最後の車両。1972年製造だから、新幹線が走り出してからもう8年も経っている。さすがに先頭部の形状や塗色等も実物にかなり近い作りとなっているが、運転室の窓まわりは曲面で試作車1000形のようにも見える。
Image 表面(クリックで拡大)

さて、これらの写真を見比べると、手元の切符に描かれているのはどう見ても2代目?のアメリカ型機関車だ。 しかし疑問なのは、初代のロボット電車が走り出してから3代目のEC型が登場するまで僅か7ヶ月、その間のどこかでこのアメリカ型にチェンジしたという事になるが、そんなに短期間で車両交代があったのだろうか。

あるいは、運転開始時から使うつもりでアメリカ型のボディは手配されていたものの間に合わなく、当初は剥き出しのロボット電車そのままで運転せざるを得なかったというような内情も推理出来ない事もない。 いずれにしろ真相は分からないが、ひょっとするとこの形式は EC型の後の時代のものかも知れない。 何しろ、EC型とその次の新幹線を模した車両との間は、10年以上も年月があくのだから。

記載されている運賃も疑問である。 運行初期は3円(または5円)とされているが、この切符は10円になっている。 新幹線型車両になってからの切符で10円のものが見つかっているので、むしろそちらに近いのではないか。 比較的後期に何かの記念で作られた復刻切符の類?なんて可能性もなきにしもあらず。

ところで、この切符にはもう一つ少々不思議な点がある。 それは切符の名称が「おサル電車」でなく、「こどもでんしゃ」と記載されている事だ。 発行元も「うえのどうぶつえん」となっているが、ふと私の脳裏には「こども銀行」という言葉が浮かんできた。 まさか昔良くあった「電車カバン」についているおもちゃの切符なんてオチではないだろうが…。 う〜ん、わからない、でも一枚の切符から色々想像するのは実に面白い。

Image 裏面は特に何も記載がない
関連リンク
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