2013/12

Banner

私を乗せた東海道本線の上り普通列車が大垣駅4番線に到着し、ドアが開く。 ここが終点なので、さらに東京方面へ向かう客は小走りに跨線橋を渡って次の列車が待つ1番線へと向かう。 私はただ一人、その列に背を向けて同じホームの米原寄りにある切欠きホームの3番線へ。 そこで待っている2両の短い編成は、ここから美濃赤坂駅へ向かうワンマンカーである。 その名は通称だが、美濃赤坂線と呼ばれている。

Photo (各クリックで拡大)

それは東海道本線の支線、元はこの付近で産出される石灰石等を輸送する為に敷設されたものだ。 今でも終点の美濃赤坂で接続する西濃鉄道(西濃運輸とは無関係)との間で貨物輸送を行なっている。 旅客列車に関しては、平日の通勤時間帯はそこそこ走っているが、休日になると本数は限りなく少ない。 朝夕でも1時間に1〜2本、昼間の閑散時は2時間に1本程度の列車密度だからなかなか訪れる機会がなかった。 今朝は早くに京都を出て18きっぷで東京へ帰る途中、多少時間に余裕があるので寄り道をした次第だ。

Photo

釦を押して停車している電車のドアを開け、先頭車の車内に入る。 扉を閉じれば外界から隔絶された車内で、数人の乗客が静かに発車を待っていた。 時間となり、大垣区所属の313系は軽やかにホームを離れる。 左手に仲間の憩う車両基地を見ながらしばらく東海道本線を快走し、やがて荒尾駅到着のアナウンスと共に減速しつつポイントを渡って支線へと分岐した。

Photo

本線から離れてすぐが唯一ある途中駅の荒尾、1面1線、屋根も駅舎も無い小さな停留所だ。 すぐ裏手は小学校の校庭、いや、校庭の裏手にこの駅があるのかも知れない。 乗客が一人、運転士に切符を渡して右の前ドアから降りて行った。 ここでの降車は珍しいのか女性の運転士はドア開閉の操作に少々戸惑っていたが、隣にもう一人、教官っぽい男性が添乗しているので見習い中なのだろうか。

Photo

荒尾を発車してしばし住宅地の中を真っ直ぐ進むともう終点の美濃赤坂構内に入る。 西濃鉄道のものだろうか左に引込線が分岐して行き、機関庫に憩う DLの姿が一瞬、窓の外を後方へと流れる。 分岐器を渡る音と共に右手はヤードが広がり、大屋根の付いた広いホームが見えて来ると電車は静かに停車した。 だがドアが開いたのはそちらではなく、左手の屋根のないホーム、右手に見えるのは貨物の為の施設のようだ。

Photo
Photo

乗客達は三々五々運転士に切符を渡して外へ出る、私も18きっぷを見せて最後に降りた。 どんよりと曇った冬空の下、寒々としたスロープがホームから行く手の古い木造駅舎へと続いている。 もちろんここも無人駅であるが、西濃の事務所として使われているようで、駅務室には生活感がある。 深い屋根に覆われた大きな駅舎内に入ると、暗い待合室には黒光りした新しい木のベンチが並んでいる。 そこから振り返ってカメラのファインダーを覗くと、ホームに停まる近代的な電車が夢のようにハレーションを起こしていた。

Photo

さて、乗って来た列車が折り返すのは約20分後、その間に私は駅の周辺を少し探検して来よう。 但しこれに乗り遅れると次は1時間後というエライことになるので、あまり遠くまでは行けない。 地図を見ると先程駅構内に入る手前で左手に分岐していった引込線があるので、とりあえずそこまで足を延ばす事にする。 駅舎を出ると客待ちをしていたタクシーが1台、私が乗る意志が無いと見るや、空車のままどこかへ走り去った。

Photo

駅前には西濃の事務所が一軒(と思ったら本社だった)、付近には民家もあるようだが他に商店らしきものは見えない。 駅構内を左手に見つつ工場の間を縫って南へと足早に進むと、程なく行く手に踏切が見えて来た。 だが、近づいて行くと左右の線路は封鎖されており、ここは既に廃線となったもののようだ。 あとで調べてみると、これが2006年に廃止された西濃鉄道昼飯線だそうだ。 いい感じで雑草に覆われた線路はカーブしつつ山の方へと続いている。 この奥はどうなっているのだろうと少し追ってみたい衝動にかられたが、時間もないので一旦駅前に戻る。

Photo
Photo

次は駅のヤードを挟んで東側にある線路を見にゆく。 こちらは市橋線という名だそうで、一応まだ現役である。 線路の錆もあまり進んでいないし、付近の信号機も活きているようだ。 日に何本か貨物列車が走るとの事だが、残念ながらここでそれを待っている時間的余裕は無い。 とりあえず何枚かパシャパシャと写真に収め、北端から広大な構内ヤードの眺めも堪能しつつ駅へと帰った。

電車の中に落ち着くと、セミクロスシートの背もたれ越しに女子中学生らしきグループが会話しているのが聞こえて来た。 校則か何かが不満らしく「でらめんどくさいー」等と話しているが、ここらも名古屋弁の圏内なのだろうか。 発車時間が来て、電車は静かに美濃赤坂のホームを後にする。 帰りの荒尾駅では思いがけず7〜8人の乗客を追加し、本線に入ると電車は息を吹き返したように加速を開始した。 片道7分の小さな旅、いつか自転車持参で美濃赤坂の奥に潜む魔境を訪ねてみたいものだ。

Photo
ButtonBack to Rail Page