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浅草松屋と東武電車

~ 郷愁の松屋デパート屋上に佇んで想うこと ~  2010/05

浅草の歴史あるデパート松屋浅草支店がこの5月に営業を縮小すると聞き、久し振りに訪問してみました。 そこは、戦前に建設された建物の中に電車のターミナルがあるという有名な場所、おそらく関東で初のデパートと駅の合体構造は、当時としてはとても画期的だった事でしょう。 戦後の昭和の世に子供時代を過ごした私にとっても、素晴らしく魅惑的な場所として記憶に残っています。 いぇ、デパートの中が…でなく、駅と屋上が、ではあるんですけども。

小さい頃に東京東部に住まいがあった関係で、ここへは何度か連れて来てもらった事があります。 普段は箪笥の奥にしまってある一張羅のよそ行きを着せてもらい、買い物の後は上階の食堂で味わうささやかな贅沢、食後は屋上へ出て遊園地で遊ぶという流れは、市井の庶民にとっては滅多にないハレのひと時でありました。 ここに限らず、かつてデパートの屋上には大変多くの乗り物があり、子供連れなら必ず立ち寄る一大行楽地だったのです。

でも昨今は消防法が厳しくなったのもあって、屋上に殆ど何も無い殺風景な百貨店が増えましたね。 しかも今の世情では、由緒ある大手デパートですら都心部での閉店が相次いでいます。 そういう意味では、ここ浅草で今日まで松屋が営業して来られているのは、むしろ奇跡と言えるのかも知れません。 東武側の持ち物であるこのビルを松屋はテナントとして借りているわけですが、今回の見直しではその4階以上を放棄して地上3階までの売場に絞るそうです(2階は東武の浅草駅)。

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訪問した日は花見時で、都営地下鉄の浅草駅から地上に出るといきなりの雑踏。 目の前には神谷バーの昭和風味な建物が建っています。 歩道の屋根の下を抜けて行くとその奥に、道路の関係で角を面取りされ、細長く尖がらせたお目当てのビルが見えて来ました。 周囲をグルリと一回りして観察すると、正面から見た建物は後付けした今風の外装で覆われていますが、裏手にあたる北及び西側の壁面の一部に、昔のままのアール・デコ調の外観が残っている事がわかります。 隅田川を渡った東武の電車を急カーブで駅に導く鉄桁の陸橋も、鋲打ちのとても重厚な造りが印象的でした。

店内に入れば1階のエントランスは観光客やら買物客やらでごった返していますが、エスカレーターに乗って上へ向かうと既に4階以上はテナントが引き払ってシャッターが下りていました。 7階の食堂街もひっそりとしているのかと思ったら、こちらはさすがの休日で意外にも賑わっています。 なかには客が行列を作って席を待っている店なんかもあって、かつてのデパート華やかりし頃を思い出してしまいました。

階段を使って屋上に出てみます。 ドアを開くとそこは別世界、タイムスリップでもしたのかと驚きました。 こんなに元気な屋上遊園地は久し振りに見た気がします。 やはり、昔を懐かしんで来ている人が多いせいなのでしょうか。 流れてくるミュージックや子供達の歓声を背に聞きながら奥の方まで行ってみると、そこには小さな社が人知れず祀られていました。 ずっとここで建物や電車の安全を守っていてくれたのですかね。 松屋は戦時の空襲にも持ち応えたそうですから。

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営業が縮小されると、この屋上にはもう上がって来れなくなってしまうのかも知れません。 使われなくなったフロアは何かに再活用されるのでしょうか。 そして東武はランドマークとしての浅草ターミナルにどんな未来を描いているのでしょう。 何しろ、良くも悪しくも浅草という立地です。 ここは外装を取り払ってしまって昔のビルの姿を復元し、全館丸ごと昭和レトロな観光施設に転用してしまったら… なんて素人考えも浮かんで来ます。 今は少し中途半端な所にある東武博物館を、そのままこちらに引っ越して来ても良いかも知れません。

屋上の遊具を跨ぐ小さな展望台の階段を登ると、春霞たなびく墨田川の対岸には建設中のスカイツリーが青い空に聳え立っています。 見晴らしが良いので、ここからの姿をカメラに収めようと登って来た人も少なからずいるみたいです。 しばらく見物したのち屋上を後にし、2階の駅まで大理石の手摺のある古色蒼然たる階段を伝って降りました。 あのタワーが完成する頃またここに来る機会があるだろうか… そんな事を思いながら、最徐行で鉄橋を渡る東武電車の窓から花見客を見おろしつつ、この日は浅草駅を後にしたのです。

参考リンク:

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