~ 富山:富山地方鉄道 ~

富山市電

北陸鉄道にはもう一線、JRと西金沢で接続している石川線があるが、時間が無いので次回のお楽しみという事にして、夕暮れと追いかけっこで富山駅へと戻る。 その理由は今日のうちに富山市電に乗るためだ。 電鉄経営なのに市電と呼ばれているのは不思議だが、かつて市営だった名残りからそうなっているらしい。 ちなみに正式名称は、富山地方鉄道富山市内軌道線という。 とりあえず駅近くの宿に荷物を置き、街の人となって電車で出かけてみよう。 地鉄には1日フリー切符600円というのがあり、この路面電車及びバス、それと鉄道線の電鉄富山から南富山までの区間が乗り放題。 でも、さすがに今から買っても元をとれそうにないので、普通に富山駅前~南富山の区間を往復してみる。

富山駅前の横断歩道を渡って道路中央の安全地帯へと進む。 電停のポールにもちゃんと「市電のりば」と書いてあるのを見て「なるほど」と思っていると、ちょうど駅前折り返しのデ7000形電車が、逆方向の線路から渡り線を通ってこちらのホームへ入って来た。 私と一緒にステップを登ったのは数名だったが、その後何人か駆け込んで来て、発車するまでには10人程になった。 しばらくするとドアがガラガラと閉まり、発車して地鉄ビル前を通過し交差点を右折。 電車は吊掛モーターの音をビルの谷間に響かせながら、黄昏の市街地を南へと向かって走る。 道路は若干渋滞しているが車はお行儀良く、軌道敷内には入って来ないので運行はスムーズだ。

停留所ごとに1人また2人と降ろして行き、終点間際では残り数名となった。 最後に前方に鉄道線の踏切が見えて来ると、右にカーブしてその線路に寄り添い、共に南富山駅へと滑り込む。 全線均一200円なので整理券は無く、料金は降車時に料金箱に入れるシステムだ。 黄昏の中、降り立った駅の雰囲気が良くてそのまま折り返すのが何だか勿体無く思われ、しばし待合室で地元の人に紛れてみた。 一電車遅らせたせいで南富山から折り返す途中で日が暮れたが、帰路の運転士さんは女性のかたでちょっと得した気分。 市電はその夜の宿からも窓の下に観察する事が出来たが、かなり夜遅い時間帯まで頻繁に走っていたのは意外であった。

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富山駅前電停

立山線

明けてこの旅の二日目、今日は盛りだくさんなので頑張って行こう。 早朝に宿を出てすぐ目の前にある電鉄富山駅へ。 まだ早暁5時台で駅前に人影はまばらだが、構内には既にリュックを携えた人々が多数、列車を待っていた。 何と言っても北陸の地方私鉄を代表すると言えば富山地方鉄道。 社名にしっかり織り込まれているので当然と言えば当然、「地鉄」と言ったら普通はまぁこの会社を指す。 その地鉄をこれから午前中かけて乗り歩き、12時までには富山駅に戻って来なくてはならない。 本線、立山線、不二越・上滝線をどう繋いで行くかというので大分悩んだが、まずは目の前に停車中の急行で立山へと向かう。 電鉄富山駅はさすがに立派なターミナルで、櫛形頭端式3面4線のホーム上に大きな屋根が覆いかぶさり、朝夕のピーク時には多くの列車がここに終結するのだろう。 目の前には立山行き急行と宇奈月温泉行き普通が発車待ち、それぞれの方面の始発列車だ。 どちらも社型の14760形電車、それも旧塗装の揃い踏みで美しい。 かつてローレル賞を取った名車でもある。 発車直前、すぐ隣の北陸本線にこちらも旧国鉄の名車ボンネットが入線して来たが、あとで調べたら夜行急行「能登」の到着だった。 知っていれば撮るんだったのに、事前のリサーチが足りてないな。

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電鉄富山駅

時間が来て発車。 出発するとすぐに駅の南北を連絡する道路を陸橋で越すが、そのせいか構内配線が少し面白い。 まず構内の引上線がこの道路に邪魔されて異常に短く、どうやって使うのかわからない。 そして、1,2番線と3,4番線を束ねた線路がそれぞれ別の細いガーダー橋で道路の上を渡り、その先にようやく上下線の渡り線がある。 つまり駅構内に鉄橋があり、その下を道路が横切っているような格好だ。 ところで、電鉄富山駅はJRと共に近く高架駅化されるとの事で、その折に2面3線の規模へと縮小されるようだ。 この奇妙な鉄橋もそれと同時になくなってしまうだろうから、見るんだったら今のうちかも。 その構内を出るとしばらくJRと並走し、やがて右にカーブして稲荷町駅を通過。 東京には「いなりちょう」駅があるが、ここは「いなりまち」と読む。 電鉄富山からこの駅までは各線の列車が重合するため複線となっている。 稲荷町駅は本線と不二越線のホームが三角状に配置されているが、両線のホーム間に工場があり、元西武のレッドアローが留置されているのがチラっと見えた。 市街地を抜け、常願寺川を長い鉄橋で渡ると田園の中をしばらく走り、本線と立山線の分岐する寺田で最初の停車。 やはり三角配置のホームだ。

ここから南へ向きを変え、一路立山へと向かう。 身軽な2両編成の電車は、富山平野の田園地帯の中を結構なスピードで飛ばして行く。 途中でアナウンスが入り、本日の室堂は快晴で視界良好との事。 私には関係ないけど、車内に歓声が起こった。 間で五百石駅に停車し、やがて右手から上滝線が寄り添って来ると岩峅寺(いわくらじ)駅だ。 ここもまた三角配置で、富山地鉄では分岐駅は大体この様なレイアウトとなっているようだ。 このあたりで広大な富山平野も終わり、段々と常願寺川が切り刻んだ広い谷に入って来る。 千垣と有峰口の間で常願寺川の右岸から左岸へと移動、雄大な谷を細々とした恐ろしげな高い鉄橋で渡る。 これはすごい景色だ。 川に沿った森の中をしばらく走り抜け、右手窓上からスイッチバック状の引上線が目線レベルに降りて来ると終点立山駅へ到着。 待っていた駅員のメガホンの案内に導かれ、大多数の客はそのままケーブルへと乗り継いで行く。 私には関係ないけど、ケーブルへ乗るには乗車整理券が必要との事だ。 ダッシュでケーブル窓口へと急ぐ人達の波から外れ、私は乗って来た電車でとんぼ返りとなる。

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常願寺川上流