うめの里、ゆずの里

2004/03
梅の公園(昔の写真)

吉野梅郷へ梅見に行って来ました。ちょうど花の盛りの頃で、時期としては例年に比べるとかなり早めなようです。驚いたのは、青梅市梅の公園が、有料制となっていた事。花の時期だけ入場200円で、これは公園や梅の木の維持管理に使われるんだそうな。納得して入場券を購入し、入りましたが、ちょうど梅祭りの開催期間なだけに、人込みがものすごく、とてもお弁当広げるどころの騒ぎじゃありません。一回りして早々に退散し、入り口に停めておいた自転車に跨り、吉野街道を渡っていつもの裏道コースの方へ。

そこで偶然発見したのが、民家の裏手に広がる人っ子一人いない広大な梅林。こりゃメッケもんだわいと喜んでしばしその脇で休憩しました。梅郷近辺には、梅の季節になると自宅の庭を開放して茶菓等でもてなしてくれるインスタント茶屋も多いんですが、ここは生産品としての梅を純粋に育てている場所のようでした。しんとした空気の中を流れるほのかな梅の香に酔いしれつつ、静かな時間を過ごせました。ただ、立ち入りはご法度なので、結局梅郷ではお昼を食べられないまま、その足で御岳方面へと、お目当ての店に向かいます。

そこは多摩川沿いにあり、以前立川のデパート催事場でたまたま買い求めたここの柚子胡椒が美味だったので、家族からもリクエストがあり、買い求めにやって来たというわけです。ところが、店の前で少々躊躇してしまったのはその立派な門構えから。元々懐石料理の宿なので無理もないのですが、敷地内に宿とは別に売店があるものと勝手に想像して来たので、面食らったわけです。建物の脇に自転車を置き、おそるおそる玄関の引戸を開けると、上品そうな女性が一人、玄関の叩きを掃除しています。

「あのぉー、こちらに柚子胡椒は置いてますでしょうか?」「はい、ございますよ。少々お待ち下さい。」一旦引っ込んだ女性は奥からスリッパを持って再び出て来ると、どうぞこちらへ、と私を案内してくれました。そこはフロントの向かいにある売店コーナーで、棚には目的の品物が二つ三つ並んでいました。「柚子胡椒、ご存知なんですね。」「ええ、鍋なんかに最高ですよね。」「こちらは結構人気で、切らしてしまう事もあるんですよ。」

しばしの会話の後支払いを済ませ、入って来た玄関へと向かうと、女性、いやこの宿の女将かも知れませんが、つつつと小走りに前に出て、玄関に無造作に脱ぎ捨ててあった私の靴を揃え、「どうぞお使い下さい。」と靴べらを渡してくれます。「これからどちらかお出かけですか?」「ええ、自転車で奥多摩の方まで。」思わず口をついて出てしまいましたが、実はここで目的を果たしてもう引き返すのです。しかし、高々500円ぽっちの買い物をしたリュックにジャージ姿の怪しい客に、ここまでの気遣いを見せてくれる店はそうない事でしょう。次の機会はぜひ泊まってみたい、そう思わせるに充分な宿のかたの立ち振る舞いでした。

すっかり気分良くなりましたが、お腹の方は相変わらずスキスキ。青梅へ戻る道すがら、どこか昼食に適当な場所を頭の中のデータベースから引っ張り出します。思いついたのは、青梅線は宮ノ平駅の脇にある、芝生にモニュメントの小広場。普段何気なくリサーチをしていると、こういう時に役にたちますね。ベンチ横に自転車を立てかけ、駅の構内を背に足を伸ばせば、正面から照らすお日様がポカポカです。

途中のスーパーで仕入れたお昼をのんびりと広げていると、駅を発車した電車が背後を通過して行きます。振り返るとそれはジョイフルトレイン「四季彩」で、多摩川に向かって切り取られた大きな窓の展望席からは、私の弁当の中身まで丸見えだったに違いありません。ちなみにこの日は「とろびんちょう」のお鮨と、梅ワインをチビリ。ゆず胡椒は我慢して、大切に家族の下へ届けます。もちろんその夜の献立、お約束の鍋となった事は言うまでもありません。


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