峠指南旅・正丸編

2012/05
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正丸駅前の木陰にて休憩

ボトルを空にかざすようにしてグビっと喉を潤すと、視線の先にある新緑の山々がやさしい色で清々しい。 その上に広がる晴れた空、樹々を揺らすそよ風はまさに風薫る五月という表現がピッタリだ。 日差しを遮る木陰、ガードレールに自転車をもたせ掛けて小休止のひととき、ここまで基本平坦とは言え上り基調なのでジワジワと足には来ている。ここんところまともに坂を登ってないので、これから先が少々不安だ。そんな事を考えながら、走って来た国道の方を眺めつつしばらく待っていると、かなりグロッキーなご様子の相棒がカーブをまわって追い付いて来た。

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相棒のU氏、愛車のクロスバイクで登場

ここは西武秩父線の正丸駅入口。 本日は飯能駅スタートで、正丸峠と山伏峠を周回して戻るコース設定になっている。 スタート地点へは私は自宅から自走、パートナーのU氏は最寄駅から輪行でやって来た。 そこから国道299号線を高麗川沿いに小一時間走り、正丸駅まで遡上して来たというわけだ。

U氏は数年前にクロスバイクを購入したが、本格的な峠を登るのは今回が初めて。 というわけで、東京近郊のサイクリストなら必ず通る登竜門的なコースとして、正丸峠と山伏峠を組み込んだプランを提案した次第である。 肩で息をしている彼に「今日はここでおしまいにして輪行で帰る?」と冗談を飛ばすと、「いゃ、登りますっ」とキッパリ。 うん、なかなか成長したな。

汗も引いた所で再び国道を登り始める。正丸駅前から先はにわかに勾配がきつくなって来て、押し込むペダルの回転がだいぶ重い。 行き交う車やバイク集団に神経を尖らせながら、しばらくはじっと我慢の子で亀の歩みだ。 やがて行く手にトンネルの入口が見えて来て、その直前の信号を斜め右に分岐するのが正丸峠へと向かう旧道になる。 後続を待って息を整え、いよいよ登坂の開始。 登りだしてすぐに刈場坂峠へ向かう林道を右に分け、トンネルの上をグルっと左へ巻くと勾配も落ち着いて林間の気持ち良い小道になる。 いや、勾配は相変わらずかも知れないが、車の来ない分、そして木陰の多い分、快適なツーリング気分に浸れる。

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正丸峠へ向けて登坂中(実はセルフタイマー)

時折すれ違うハイカーやサイクリストの人達と「こんにちはー」と挨拶を交わしつつ、ローローにしたギアをクルクル回転させて快調に登って行く。 正丸峠は自転車趣味を始めた頃に何度も通っているが、実はこちら側から登るのは今日が初めてだ。 この道を下った時の経験ではかなり急坂な印象があったが、登ってみると意外と楽で少々拍子抜けした。

旧道の登り口からは各自のペースで行こうという事にしていたのだが、振り返ると大分下の方へと引き離してしまったようだ。 ここは少しU氏を待とうという事で、実は自分が休みたいのもあって路肩で休憩に入る。 最近購入したミニ三脚で自画撮りなどを試しつつ、姿が見えるのを待っていた。

そのうちに、「ハッハッ」と荒い息を吐きながら、あきらかにツーリングで走っているのとは違う自転車の一団が目の前をあっという間に通過して行った。 その後も何台か同じグループと思われるロードが登って行ったが、中には何人か女子もいてその健脚ぶりには驚かされた。 やがて追い付いて来たU氏と共に木陰で談笑していると、下の方からサイレンの音が近づき、今度は大きな消防車や救急車が続々とやって来た。 これは峠で事故か?あるいは山火事でも発生したんだろうか。 前に山梨の甘利山へ登った時も、確かこんなシーンがあったのを思い出した。 そこからは坂も最後の一登り、行く手の山稜が切れて大きなU字を成しているのが見え、ガーデンハウス入口の分岐を過ぎると急に風が流れ出して峠の広場へと躍り出た。

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ようやく到着。峠の奥村茶屋前にて

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峠の標識を背にU氏記念のショット

正丸峠は喧騒の中にあった。 それは自家用車でも登山者でもなく、先ほど抜いていった緊急車両の群れ、そして大歓声で迎えるサイクルジャージ姿の若い男女の集団だった。 いや、その対象は私ではなく、後から登って来る仲間達への応援なのだが。 どうも峠のこのコースで、本日は私的なタイムトライアルが行なわれているらしい。

「次、違います」峠手前にいた女性は私を見て、ゴール地点でタイムを図っているメンバーに声をかけた。 「違います」な私はその集団の輪の裏へスゴスゴと進み、再びちぎれてしまった相棒を待つ。 峠の茶屋前に停められた緊急車両の方は、隊員達が降りて来て何やら準備が始まっている。 スノーボートのような物を担いでいる隊員もいるので、登山道で遭難があったのかも知れない。

登りついたU氏と共にしばし峠の展望を眺めつつ休憩。 私「食べますか?」、U氏「食べましょう!」という結論で、奥村茶屋でお昼にする事にした。 正丸は何度も通過しているが、ここの茶屋に入るのは初めてだ。 峠の人口密度は高かったが茶屋でくつろいでいる人は少なく、席は数組が食事をしているだけでガランとしている。 窓際の特等席はジンギスカン専用との事で、一段奥まった中央の席に落ち着く。

メニューを見て二人とも「正丸丼」に即決、ここの名物だ。 先に漬物やサラダ、味噌汁が出て来てそれらで時間を潰してるうちに、「お待ちどおさまー」と主役の到着。 豚丼に甘い味噌ダレがけ、下のご飯もたっぷりと大盛りでとってもボリュームがある。 ハイキング客やサイクリストが多く、みんなお腹を空かして来るせいかな? 味噌は田楽用のを使用しているらしく、かなり甘めだが疲れた体にはちょうどいい。 窓の向こうに広がる景色を眺めながら、しばし無言で丼メシをかっ込む二人なのであった。

食後、出発する前に峠の標識を入れて写真を撮りたいと思ったが、まだタイムトライアルが続いているようで群衆に占拠されており場所がなかなか空かない。 そのうち「あと一人」という声が聞こえたので少し待ってみると、やっと最後の選手がゴールに辿り着いて拍手が沸き起こった。 ようやく写真も撮れてこれで峠に思い残す事は無い。 身支度を整えて快速で下り始める二人、しかしこの先に山伏峠への登り返しがあるのでまだ安心は出来ない。 その山伏峠からの下りで、相棒を先行させて後ろ姿の写真を撮った後スタートしたら、案外速くて下まで追いつけなかったのには参った。

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山伏峠から下り出す

久し振りに来た正丸峠のコース、初心者の頃はこの界隈を足繁くあちこち走り回った思い出がある。 山伏、正丸と越えて、さらに刈場坂峠へ登り返し、グリーンラインを経由して帰るなんて元気な走りをしていた時期もあった。 最近はずっとご無沙汰だったが、また初心にかえって奥武蔵や秩父方面を走ってもいいかな、なんて気持ちも沸き起こって来る今回のライトツーリングなのであった。



light touring report
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