通勤車、ときどきツーリング

シルクと聞いて「あぁ、自転車の事か」と考える人は今や稀な存在だろう。 かつて「カワムラNISHIKI」と共に双璧を成していた自転車ブランドの一つが「片倉シルク」である。 どちらも絹に関連したネーミングなのが面白い。 実際、母体の片倉工業は絹糸紡績を本業としており、かの富岡製糸場を作ったのもこの会社だ。 ちなみに片倉自転車の工場は東京都福生市にあった。

通勤で使っていた黄色いスポルティフが盗難に会って、急遽買い求めたのがシルクのこの自転車である。 良く覚えていないがおそらく事前に雑誌か何かで下調べをして、シルクというのは頭にあったと思う。 はなから通勤用なので他の自転車のようにフレームからオーダーする程の気持ちは無かったが、完成車を購入するにしてもちょっと人とは違うメーカーの物が欲しいとは考えていたようだ。 カタログを見つつスタッフと相談しているうちに、このロイヤルブルーのボディにクラクラしてしまっただろう事は想像に難くない。

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その日はカミさんと子供も連れてショップへ寄ったのは、もちろん購入予算について大蔵大臣としての了承を得るためだった。 そのブランドゆえ一般のマスプロ車に比べると少々根の張るシルクなのであったが、気さくなおしゃべりで有名なショップのおばちゃんに「いい奥さんだねー」と助け舟を出されて了解を取り付けられたのは良き援軍で有り難かった。 そのおばちゃんも昨年末に遠い所へ旅立ってしまわれたが。 タイヤは27x1-1/4WOで当時としては細いクラス、700Cも流行りだしていた頃かと思うが、ゴツゴツとかなり硬い乗り心地だった印象がある。

通勤車として購入はしたものの、乗り始めに少しはツーリングにも連れてってやろうという事で、ある日カーサイクリングで南房総へのお供に駆り出した。 久留里線終点の上総亀山駅近くに車をデポして、山中の道路を安房天津方面へと漕ぎ出す。 軽快なイメージの自転車だったが、坂道を登り始めるとなかなかペダルが重い。 この近辺を本格的に走るのも初めてだったが、房総という事で油断していたのもあったかも知れない。 大汗かいて山を越したら遠くに海が見えて感動したのを思い出す。 その後は安房鴨川から再び山を登り返し、房総スカイラインを経て周回コースを回った。

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正月に友人と伊豆へ泊まりがけのツアーを組んで走ったのも、同行はこの自転車だ。 キラキラとお日さまに照らされて輝く駿河湾を遠くに見下ろしつつ、峠へと登りつめると目の前に富士山のやさしい姿が現れた。 下りは山道へと突入、ガンガン下る友人のMTBを追いかけるうち私の細タイヤはスリップし、草薮へと突進して前方一回転。 この時に後ろのマッドガードに枯れ枝を巻き込んでひん曲げてしまい、買ってまだすぐだっただけにかなり落ち込んだというエピソードもある。

以後は破損部を切断したショートガード装備に変身した青い絹号。 何年にも渡って毎朝毎晩の通勤に酷使し、風雨にさらされて徐々にその青さも輝きを失っていった。 もはや処分した理由もはっきりとは覚えていないが、役割を立派に果たして体力の限界(耐久限度)に達したと言えるのは確かだろう。