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 この峠道は思った程キツくない。当然坂だが、少し登ってはフラットになり、また登ってはフラットの繰り返し。

名無村峠付近会場の山村ここから名無村

 つづらを何度か折り返しつつ登って行く。カーブ毎に C-26 のように番号がふってあり、それが段々と減って行くのでペース配分の目安になる。
 道が落ち着いているので、下で買ってきたスポーツドリンクの缶をボトルケージに落とし込み、チビチビと喉を潤しながらペダルをこぐ。途中に北方向の展望が開ける場所があり、そこでしばらく大休止。
 ガードレールにもたれかかってぼんやり景色を眺めると、きれいに晴れ渡った空に、乗ったら気持ち良さそうな雲がふんわり浮かんでいる。その下に左右から幾重にも張り出して来ている山ひだを縫ってゆくと、彼方には今朝走って来た平野がかすかに顔を覗かせている。

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峠道途中から小幡のある平野方向を展望する

 ふいに目のすぐ脇を黒い影がサッとよぎったかと思うと、「カーン」、鈍い梵鐘のような音があたりに響き渡った。何事かと思って見ると、頭上に張り出していた大樹から落ちてきた枝がガードレールにあたり、もんどりうって崖から下へ落ちてゆくところだ。
 あぶないあぶない、あんなのに脳天くらったらその場で失神していたかも知れない。いささか肝を冷やしてその場を離れ、またじわじわとつづら折れを登ってゆく。
 やがて周囲の山々の高みが殆ど目の高さになると、最後の C-1カーブを回って道も勾配をなくし、ピークに到達。峠には軽のワゴン車が止まっており、降りて景色を眺めていた地元の人らしき初老の男性に声をかけられた。「若いねぇ。秋畑から登って来たの?しかし元気があるねー。」

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名無村には何軒かの民家が肩を寄せ合うように建っている

 元気だがもうそれ程若くない(笑)事、東京から電車で来て、上州福島から走って来た事などを少し話す。別れ際に「怪我しないようにね」と声をかけてくれた。
 峠自体は三叉路になっており、会場(かいしょ)という集落がここにある。その村を守る社の脇で、県道は46号から177号へと番号が切り替わっている。ここでしばらく息を整えた後、一転して南斜面となった明るい風景の中を、風に乗って一気に下界へと下って行く。
 下り着いた所が名無村で、数軒の歴史のありそうな農家が集まっている。自転車を降りてしばらく佇んでみたが、何の変哲もない平和そうなごく普通の山村である。写真を撮ったガードレールの下から頼りなげな道が分岐していたが、これが御荷鉾の塩沢峠方面へと向かう林道の様だった。

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食後のまどろみのひと時。足の向こうには西上州の山並みが

 名無村からもまだまだ下る。ペダルを踏むでもなく、ブレーキを握るでもなく、あたりの風景を楽しみながら新緑の中をどこまでも落ちてゆくのは楽しい。道の下には、今度は鮎川という流れが寄り添って来ている。
 気がついたら 1時をまわっていたので、お昼の場所を探しだす。きょろきょろ見回しながら行くと、川の向こうに芝生の広場が見えた。立派な橋を渡って行くとそこは、昔の民家風の建物もいくつか並ぶ、「土と火の里」という藤岡市の公園だった。
 芝生の片隅に陣取り、遠くで親子の遊ぶ光景を眺めながら一人ゆっくりとクッキング。食後は、空を流れる雲を眺めながらのお昼寝タイムも満喫した。

 公園を去る時、園の入り口で小さな男の子とそのお姉ちゃんが、怪訝そうな表情でじっと私を見ている。「ん?」とサドルから腰を浮かしつつ、首を傾げたポーズをして見せると、いきなり「バイバイー」の声と共に男の子が満面の笑みで手を振り出した。私も思わず我を忘れて「バイバ〜イ」と片手を大きく振り返し、ペダルを踏み込む。心なしか頬をなでる風もくすぐったく、愉快な気持ちに包まれてこの地を後にした。

土と火の里公園内にて

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