今回は、6年前の走り初め、91/01 の記録です。投稿するつもりで書いてそのままになっていた文章がありました。(^^;)


上武秩父林道、陣見山林道

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 昨年(1990)の暮れに御荷鉾に出掛けた。佐久側から田口峠を越して悪名高きスーパー林道の全線走破を狙ったが、結果は行けども行けども頭上に道が連なり、塩ノ沢峠であっけなく時間切れ、そのまま万場へ下り、終バスに何とか間に合って輪行で帰るという有様だった。その時に、同行の土田氏が買って来た新品の5万図『万場』を見て驚いた。私の持っている昭和50年編集のものには兆しさえ見えない道が、土坂峠から城峯山を経て東へと、尾根上を伸びていた。さらに『寄居』にも、不動山・陣見山を巻いて寄居郊外の円良田湖へと走る、別の林道が存在する事を知った。どちらも二本線の立派な林道であり(実際、全線舗装だった。)、既にこの方面では定番コースなのかも知れないが、案外私の様に古い地図にたよっていて、知らない人も多いのではないかと思う。この2本をつなげると、なかなかいいプランが出来そうだ。殆ど尾根上の道だし、寒そうだが冬なら見晴しは抜群にいいだろうと思い、年明けに2人で出掛ける事にした。

 正月の5日朝、すっかりきれいになった西武飯能駅にて待ち合わせる。青梅からだと飯能へは列車の接続が悪く、今朝は暗いうちから岩蔵温泉を抜けて、ここまで走って来た。すっかり体が冷えてしまったので、熱々の缶コーヒーで暖める。8時発の秩父行きが入線し、発車1分前に池袋方面より土田氏の電車が接続。車内は暖房が効いて、列車交換で長く停車する時等も、戸閉装置があるので助かる。秩父からは西武バスの小鹿野車庫行きに乗り、9時半過ぎには終点に到着。車庫の敷地内にて組立てさせてもらう。今回は前記の通りのコースだが、地図には土坂からさらに西へ向かう道も途中まで線が入っており、その先の杉ノ峠や矢久峠の周辺でも東西に道が伸びている。この勢いからすると、二子山あたりを貫いて志賀坂まで行きそうな気配もして来る。事務所にいた運転手に状況を尋ねると、西は二子山手前辺りまでは、既に道がつながっているらしいという事だった。

 とりあえず小鹿野の町を抜け、バイパスを横切って上吉田へと一山越す。秩父鉄道の皆野駅から上吉田に直接入るバスもあるが、本数は少ない。上吉田をはずれ、土坂峠へと登り始める。以前、神流側から登ってこちらに下った事はあるが、登り出してみると結構な急登である。正月でまだダンプの走っていないのが救いだ。沢奥の堰堤に突き当たり一度折り返すと、沢を離れ展望も開けて来る。再度折り返してくると、左手上方奥の方に矢久方面への道らしきガードレールがかなりの急角度で登って行くのが見えて来る。あの道を登るんじゃなくて良かった、等とつい思ってしまう。やがて頭上にポッカリと口を開けたトンネルが見えてきて、その前の、東屋のある広場に着いた。右へはこれから行く林道上武秩父線が分岐し、左からは先程見えていた、矢久からの西秩父林道が合流している。しばらく休憩し、携行食で元気を付ける。足下には薬筺が落ちており、山の中では猟犬の声がしたりして、何となく物騒だ。

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 林道へと入るが、舗装でそれもかなり良好な路面である。あるいはと期待してパスハンで来たが、奥武蔵グリーンライン等と同じ様な性格の道だろうか。しばらくは秩父側の展望が良く、2つめの短かいトンネルを抜けて少し行くと尾根を越えて、御荷鉾側の風景が開ける。遠くに雨降山を巻いて、前回走れなかったスーパー林道が望め、やがて眼下に神流湖がポッカリと見えて来る。湖面に何もないので距離感がつかめず、すぐ足もとの水たまりのようだ。一旦下り、太田部峠より登り返して城峯林道と合流し、すぐ城峯峠の展望台に至る。神流側の斜面は伐採で丸坊主だが、その分見晴しもよく、遠く平野部まで望める。展望台には4駆が数台、東屋にも先客がいたので、すぐ上のコンクリート台上で昼食にかかる。

 今回のメニューは、昨今便利なコンビニのおでんパック。それだけだと若干物足りないので、土田氏はちゃんとオプションの具と、うどんまで用意して来ている。私は缶詰サラダと、正月なのでワインを持ち込んだ。おめでとう、カンパーイ。今年はどこを走ろうか等と話している内に、山盛のおでんは底をつき、食後のコーヒーを飲む頃には、雲も出てうすら寒くなってきた。

 ウィンドブレーカを着て下り始める。城峯林道をしばらく下り、分岐を右へ入る。寒いからゆっくり下ろう等と言ってはみても、気がつくとビュンビュン下っている。地図上では、さらにいくつか道が分かれるはずだが、スピードのせいか、気付かないうちに一気にふもとの更木まで下ってしまった。里に降りるとスピードも緩み、空気も何となく暖かくなってほっとする。

 走っていてよくこんな経験をするのだが、それは、今ちょうど空気と空気の境界線を超えたな、と感じる瞬間が有るという事である。今まで自分がいたのと明らかに違う(必ずしも気温のみだけでなく)空気の中に、今入って来たのだと感じ、「やっぱり自転車じゃなきゃ。」という気持ちから思わずニンマリしてしまう。こんな事は、空気と隔離された車では到底不可能だし、バイクでも速過ぎる。ほどよいスピードの自転車で、はじめて意識出来る物だと思う。おおげさな様だが、そんな風に自然に対して敏感でいられるという点でも、自転車はなかなか魅力的な乗物だと思う。

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 この近辺は、秩父から鬼石を経て神流湖へ向かった時に通過した事があるが、山中に開けた静かな村で、仲々いい雰囲気を持っている。その時、村に入る手前で右手の山にチラチラ見えるガードレールが気になっていたのだが、それが、これから行く陣見山林道である。その時は、寄居方面に抜けるとは知らなかった。

 冬の日も2時を過ぎると心細くなってくるが、道はよさそうなので登り出す。いきなり通行止めの看板が有り、しばらく行くと路盤が崩壊した場所に出たが、応急処置の砂利で埋めてあり、自転車は難無く通過出来た。登りは土坂程の険しさはないが、じわじわと結構足に来る。尾根上に出ると、正面に不動山、左手すぐ下にはこれから行く道がイロハ坂状に下っている。右手には釜伏から粥新田方面の山なみが望め、遥か下を荒川が流れている。風に乗って、秩父鉄道の踏切の音がカンカンとかすかに聞こえてくる。車が全く来ないのをいい事に、今日1日分の日射しを吸い込んだアスファルトに腰を降ろし、ぬくもりを感じながら休憩をとった。

 そこからは左下に間瀬湖を見ながら下って行くと、広い車道にぶつかる。この車道を右へ登り詰めた辺りが間瀬峠で、そのすぐ手前で左折すると林道の続きとなる。もう大分日も傾いて来たので、黙々と登る。尾根上を行く道の性として、次の峠へ下る。数々の、歴史ある小峠を串差しにして走る後ろめたさを、若干感じている。陣見山を巻いて最後のピークを曲がると、右側は一面の平野となる。グリーンラインから見る景色とそっくりだ。しばらく足を止めて、雲の影が平野の上を流れて行くのを眺めていた。

 最後の下りもなかなか楽しめる。うねうねとかなり下った後、やっとT字路で幹線に突き当たり、右折して円良田湖へと下る。ここで最後の休憩をしようと思っていたのだが、湖面は完璧に干上がっており、人気もないのでそのまま下ってしまった。農業用のダムという事だが、大丈夫なのだろうか。桜の名所らしいので、春だったら花見で決めるのもいいかもしれない。

 ダム下へ降り、国道へ合流して車に脅えながら寄居の駅へ向かう。寄居着は16:30過ぎで、1時間程の列車待ち。自転車をバラし、さて腹ごしらえをと土田氏が買出しに出掛けてくれたが、かなりの時間が経ってやっと、ビールと中華饅を仕入れて来た。店らしい店もなく、かなり離れた所まで行ったとの事で、東武・秩父・八高線の交差する大ジャンクションにしては、駅前は以外に貧弱な様だ。ホームからは、かすかに日没のなごりのある夜空を背景に、黒い稜線が横たわっているのがわかる。だいぶ冷え込んで来たので待合室に入り、御苦労様のカンパイでしめくくった。


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