会津、駒止峠   1999/11 

 津田島の駅前。「よっこらしょ」と輪行袋を立てかけて、ベンチに腰をおろす。
 あわてる事はない、時間はいっぱいある。夕べ会津若松駅前に宿をとった恩恵は充分だった。朝一番の会津線快速で着いて、まだ 10時前。
 目をつぶってベンチに座っていると、心地よいディーゼル車の振動がまだ体の芯でくすぶっている様だ。

 目を開ければ、何とはないいつもの地方駅前風景。通学時間を過ぎたロータリーに人影はなく、数台のタクシーがエンジンを止めて客待ちをしてる。

 さてと、組み立てを始めるか... ガラスの向こうでみやげ物やのお姉さんが、物珍しそうにこちらを見ている。

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 日これから向かうのは、駒止峠。ネタはちょっとむかしのニューサイだが、野岩鉄道が開通した頃に南会津の特集があり、それ以来ずっと自分の中で暖めてきた場所。

 「やっこらせ」とサドルに跨る。やたらかけ声が多いのは一人旅のせいか。短い駅前通りを出て、国道へ右折。会津鉄道のガードをくぐると、荒海川を渡る。
 途端に街並みはとぎれ、開けた谷あいに広がる農村風景となる。どっかにコンビニくらいあるだろう、と高をくくって走り出したが、駅からここまでの間で一軒もなく、何となく不安が頭をもたげ出す。

 ま、いいや。リュックには携行食が... あ、もう無いんだっけ。

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 は広いが、路側帯が狭い。次々に追い抜いてゆくダンプが、大きくセンターラインを越えて行ってくれるのがありがたい。

 本道と平行して少し離れた所に、村なかを通っている旧道が見える。その道を宣伝カーがやってきて「今世紀最後の冬の大売り出し開催中!」とやってる。オィオィ、それじゃ来年の冬はどうするんだ、と心の中で突っ込みを入れながら淡々と足を回す。

 竜神橋を渡ってしばらく走ると、道はやおら登り坂。最近走り込んでいないので、途端にスローペースとなる。
 何とか止まらずに、すぐ前の道路に視線を落としながら黙々と登る。顔を上げてしまうと延々と続く坂道にガッカリさせられるので、自ずからこういう走り方となるのだ。
 しかし、これが間違いの元となろうとは、この時は全然気が付かなかった。

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R289 を行く。谷は広く、空は高い。
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登るほどに、路肩には雪が。。。

 り坂がひと段落すると、針生の集落。ちょっとした路地が右手に見えるが、食べ物を仕入れられそうな店は無いみたい。そのまま村を出はずれると、そこから先、さらに急な坂が待っていた。

 ふーふ〜、ハッハとダンシングしたり、諦めてシートに腰を据えて走ったり。そのうちに登坂車線まで出てきて、もぅへろへろ。ついに路肩には、雪がちらほらと見え出す。
 しかしキツいな〜、おゃスキー場が見えて来たぞ。どうりで雪があるわけだ。。。ん!?スキー場!!?あわてて地図を取り出して見る。

 案の定、道を間違えてるみたいだ。途中で旧道に入るべきところを、新道をそのまま真っ直ぐ来てしまったのか。んー、どこで分岐してたんだろ。いゃ、ひょっとして。。。

 結局そのまま半信半疑で登り続け、トンネルの入口まで来てしまった。





 音を立てて目の前を通過して行くダンプカーの音が、トンネルの奥へと反響しながら消えて行く。その音を聞きながら、しばらく呆然としていた。
 やっぱり五万図を買わないで、ネット上の略図だけで来たのが間違いだったな。しかし、案内板ぐらいあっても良さそうなもんだが。

 トンネルの前にはガラス張りの電話ボックスが何故かポツンと立っている。非常用を兼ねているのかも知れないが、人けの無いこんな山奥では奇異に感じる。
 携帯を持たない主義の自分としてはありがたいのだが、これからの時代、確実にこれらは存在の危うい物になって行く事だろう。

 しかしどこで道を曲がり損ねたんだろうなぁ。。。そろそろと下り出しながら、頭の中で往路の景色を反芻させている。

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駒止トンネル。旧道は右奥遥か上方。
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会津の山々を眺めながら、下り出す。

 生の村まで降りてきてその謎は解けた。村を外れて下り坂の始まるちょうどそのあたり、頭上に「駒止湿原→」の案内板が高々と。その指し示す先には、行きに見た路地の様な道が延びていた。
 下から登って来れば、まさに激坂の真っ最中。道路に目を落とし、ハンドルにしがみついて黙々とペダルを回していたのがこの位置だ。

 あぁ、なんてこった。俺も焼きがまわったもんだ。。。なんて思いながら、分岐点でしばらく考え込んでいた時、
 「こんにちわー」っと元気な声がして、振り向けば学校帰りのランドセルの女の子。「こ、こんちわ〜」あわてて返事をしたものの半分声にならなかった。
 女の子の方は何事もなかったかの様にスタスタと行ってしまったが、なんかめげていた気持ちがきゅーっと晴れやかになって来た。ハハ、単純。

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