2013/10

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八高線の金子駅は、今も国鉄時代からの小さな木造駅舎が残る停車場である。 構内も、上下列車の交換出来る対向式のホームがあるが、それらの間は屋根のない簡素な跨線橋で結ばれているだけだ。 その金子駅を川越行きの下り電車が出ると、小さな踏切、そして霞川の谷間を短いガーダー橋で越え、それに続く緑の築堤に差し掛かる。

以前はこの築堤の横は広大な原っぱで、その中に大きなケヤキが一本ポツンと立ち、通り過ぎる気動車を見送っていた。 私は自転車で霞川に沿って走る事も多かったので、よくこの樹の下で休憩をしたものだった。 夏の暑い草いきれの中、この大樹の木陰は私のようなサイクリストが一休みするのに絶好の場所であったのだ。 しかしそれから十何年か経ち、駅至近の広い空き地は恰好の住宅地として開発が行なわれていった。 八高線も電化されて本数が増え、このあたりも通勤圏としてだいぶ便利になったようだ。

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今、同じような構図で狙うとこうなる
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もう少しカメラを左へ向けると、八高線の鉄橋が視野に

ある日ふとここを通りかかった時、サイクリングロード脇にある公園に目をやると、紛れも無いあの樹がそこに立っているのに気がついた。 宅地化と共にとうの昔に切り倒されてしまったと思っていたが、大樹を中央にした小公園として整備されていたのである。 周りを瀟洒な住宅に囲まれ、かろうじて頭だけ屋根の上に出ている状態なので、この樹が列車と挨拶を交わすことはもう出来なくなってしまった。 でも、近所の幼児達が母親と遊ぶ公園の中央で皆を見おろしている姿は、何だか以前よりも幸せそうに見えるのである。

昔を思い出しながらしばらくその姿を眺めているうち、遠くで踏切の警報音が鳴り出し、やがて霞川の鉄橋を渡る電車がキラリと銀色に光った。 だがすぐに家々の陰へと隠れてしまい、住宅地裏手の築堤を加速して行く 205系の軽いモーター音だけが風にのってかすかに聞こえる。 以前のように列車を背景とした構図で写真を撮ることは叶わなくなってしまったが、私はカメラのモニターを覗きながら見えない電車を見送った。 勢いをつけて走り去る八高線の電車、その先は都県境に横たわるなだらかな丘陵地帯、通称「金子坂」のサミットが控えている。

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公園の入口に立ち、90度ほど振ったパノラマ写真で無理矢理一枚に収めた

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金子中央けやき公園のケヤキについて

詳細は不明だが、過去の空中写真などを見ると、このあたりは1970年代までは耕作地だったようだ。 非常に微妙ながら、1974年撮影の写真では拡大すると畑の中にそれらしい影が見える。 だがこの空中写真は 12月の撮影なので、落葉樹のケヤキは枝だけになっているようで、あまり明確には写っていない。

1980年頃になると一帯は草に覆われた空き地になっており、その片隅にはこの樹の姿がはっきりと認められる。 周囲が住宅地として整備されたのは 2000年前後と思われるが、その際にこのケヤキを中心とした「金子中央」地区の公園として整備されたようだ。 入間市公式サイトによると、この公園の設置日は 1999(平成11)年12月18日となっている。 ちなみにケヤキを市の木に指定している所も多いが、入間市もその一つである。


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