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第7章 熊本にて(その2)

 宿へ向かうにはまだ早い。「この指と〜まれ」のマスターとあまりに気持ち良く話し込んだので、まだ飲み足りない気がする。普段は無いことだが、賑やかな客引きの声に誘われてもう1軒ハシゴをした。
 店内は暗く、ほとんど足元しか見えない。一瞬キャッチバーかと身構える。そういうオソロシイところなのかどうか、そこまでを嗅ぎ分けるには経験が乏しいのだが、ここまできたら戻れない。案内されるままボックスに腰を下ろす。

 やがて女の子がついた。体の線もあらわな薄着で、ほとんど下着らしいものを着けていないようにも見える。今時でいえばさしずめ「ランパブ」なのだが、8年前の熊本でそんなものがあったとは思えない。そういう時代考証はさておき、とにかくスケスケなのであった。まわりのボックスにもぽつぽつと客が入っている気配が伝わってくる。が、仕切りが高く姿は見えない。多分あちらもスケスケなのであろう。
 おしぼりサービスを受け、形ばかりの水割りなどが運ばれてくるうち、だんだんと暗闇に目が慣れてきて、この「女の子」は、もう少し年齢層が上であることがわかってきた。20代半ば、といったところか。あれこれご接待を受けるうち、また身の上話になった。どうも一人旅の客は、お決まりの身上話が好きなようで、自分ながら情けないのだが、さしあたって他に話題がない。

 なんと彼女には、4歳の子供がいるという。そしてご亭主は、いない。同僚である他のホステスとご亭主がデキてしまい、そのホステスに子供まで産ませてしまった。そして、離婚。
 「でも時々はね、会ってるんですよ、元のダンナと。子供に『おとうちゃんの顔、見て行きなよ』って言ってね、連れて行くんです」
 そう語る彼女は、決して饒舌ではない。まさに黙々と、体を張ってこの仕事を続けている。たとえそれが、つらい思い出の舞台となった場所であったとしても。それは、生きるために。
 やがて酔いが回り、その後の記憶も薄れてしまっている。ただ、店内の淡く赤茶けた光を通して浮かび上がった、彼女の細いシルエットだけが今も思い出されるばかりである。

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