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[ 2017/07 ]

1. 四国へ

川崎から東海道本線の熱海行きに乗車。 本来なら、東海道筋を下る際は由緒正しく東京駅からと決めているのだが、それだと間に合わないので、止む無く南武線でショートカットして来た。 何せ、この旅の行き先は四国、取り敢えず今日は普通列車を乗り継いで高松まで到達せねばならない。

四国を旅するのは2度目であるが、実は以前に仕事で高知を訪れた事がありそれを含めると3回目という事になる。 だがその時は往復ともに飛行機で、訪問先への移動途中にチラッと桂浜へ寄った程度。 なので旅という体を成しているのは、8年前の高松~松山にかけてを巡った時以来である。 という事で、その時に回れていない高知、徳島方面を経由する旅程を組んでみたが、これがなかなかに難物であった。

その辺は追い追い書くとして、アプローチに関しては途中何事も無くいつもの東海道&山陽本線を無事に走り抜け、岡山からはこの日の最終走者「快速マリンライナー」で瀬戸内海を一跨ぎ。 青梅を始発で出て何とか日没前に瀬戸大橋を渡り、四国へと上陸を果たす事が出来た。 前回は贅沢にサンライズの個室寝台だったが、今回は帰路に新幹線を使う関係で質素なスタートと相成ったのである。

Photo 始発で出て瀬戸大橋を明るいうちに渡れるのは、主に米原~網干間の新快速のおかげ。前回はサンライズで朝日の瀬戸内海を見た

2. 高松から阿波池田

高松の宿で一夜を明かし、高知へと向かうべく最初に乗るのは7:56発、多度津から土讃線に入る琴平行きだ。 18きっぷに日付を入れてもらい、案内表示に従って3番線で電車の入線を待つ。 ふと気づくと、あれ?線路の上に架線が無い。 琴平までは前回も乗っているが、確か電化されていた筈である。 おかしいなあ…と思いながら待っていると、果たしてやって来たのは気動車だった。 後で調べてみると、サンライズが琴平まで延長運転する日はこの区間の電源容量が不足するため、他の列車を気動車で代走させるらしい。

Photo 高松駅3番線に入線した琴平行きの気動車。最後尾の1200形はここで切り離し、1500形2両編成での出発となる

土曜だからか朝の時間帯でもさほど混まず、丸亀、善通寺で次々と乗客が降りてしまえば車内はすっかり見通しが良くなる。 架線の下をエンジンを唸らせてちょうど1時間走り、定刻8:56に琴平へと着いた。 跨線橋を渡り、次の阿波池田行きに乗り換える。高知へ直行と行きたい所だが、そういう列車は特急を除けば皆無なので仕方が無い。

Photo 琴平駅からリレーするのはJR四国の主力気動車である1000形だ。この先の区間はさらに乗客が少なくなるために単行である

琴平を出た列車はしばらくの間、讃岐平野の南端部を走る。 周囲が徐々に山がちになって来ると黒川駅、ここは山と山を繋ぐ高い築堤上にホームがあり、集落の見晴らしが素晴らしい。 次の讃岐財田を出るとキハはディーゼルの音を唸らせ、グングンと山岳地帯へ分け入って行く。 長い猪鼻トンネルを抜けて線路が下りだすと、やがて秘境駅として名高い坪尻だ。 列車は本線から外れて引き上げ線に入り、停車すると運転士は後部の運転席へ移動、バックして本線を横断したのちホームへ停車する。

Photo 坪尻駅の引き上げ線に入ったところを、列車最後部から撮った。分岐部分を直線で抜けているのが本線、左奥手がホーム

ここで交換か通過待ちがあるかと思ったが特に列車は来ず、乗り降りする人もない。 運転士は再び元の席へ移動して、そのまま発車。 これだけ苦労して運転してるのに、それが報われないのは何だか気の毒な気もした。 坪尻を出ると列車はすぐに高台に出る。 眼下の谷には吉野川が流れ、対岸の街並みが見渡せる。 土讃線は山肌に沿って左手へ下り、右に180度転回して川を渡れば徳島線と合流して佃駅、次はもう終点の阿波池田だ。

Photo 広い構内の阿波池田駅に到着。3面5線のホームは、四国内においては高松駅に次ぐ規模だそうだ。周囲は山に囲まれている

3. 阿波池田

阿波池田駅、私は初めて訪れたが、四国を旅する18kipperの間では悩みの種であるようだ。 曰く、「どの方向から来ても、どの方向へ行くにも、必ず長時間待たされる」駅なのである。 私の旅程も実際その通りで、本日は高松から高知へ向かう乗り継ぎで約2時間、明日は高知から徳島へ向かう乗り換えで1時間以上も過ごす事になっている。 それで、どう時間を潰そうかと考えた結果、近くに引込線の廃線跡があるとの情報を仕入れて来たのである。

Photo 阿波池田駅正面広場。この駅のある三好市は四国の中心部(?)に位置し、交通の要衝でもある事から「四国のへそ」とも呼ばれる

それを見に行こうと、駅を出て炎天下の道路を一人トボトボと歩き出す。 5分程行くと目の前に広大な駐車場のショッピングモールが開けるが、ここはかつて専売公社の煙草工場で、そこへと線路が引き込まれていたそうだ。 暑くてボォ~ッとしつつ、それでも気力を振り絞って裏手へ進む。 と、路面から陽炎がゆらぐアスファルトの向こうから、パトカーがゆっくりとやって来てすれ違った。 いつものパトロールだろうが、路地裏をウロついてる怪しい男とでも見咎められないか、一瞬不安がよぎる。

Photo 専売公社の専用線跡。画面手前が工場が元あった場所で、現在はショッピングモール。土讃線は画面奥を左右方向に走っている

幸い呼び止められる事もなくパトカーが行ってしまうと、その先で道路脇にカーブした小さな築堤が寄り添って来るのが見えて来た。 小規模な廃線だが、なかなかいい具合の枯れ加減である。 入口に柵が設けられているので外から観察するに留めたが、しかしじっと佇んでいるとさすがに暑さで参る。 脇道を、日陰を求めて土讃線の方へと歩いて行くと、線路の向こうが山裾になっていて木立の中に神社を発見。 これ幸いと踏切を渡って石段を登り、境内の木陰で一休み。 ここからは引込線も俯瞰できて良い眺めだ。 境内では地元の方が数人で作業をしていたが、祭礼か何かがあるのかも知れない。

Photo 土讃線脇の杉尾神社から、通過する特急列車を見送る。線路の向こう側に見えるのは、カーブで離れて行く引込線跡

警報機が鳴り出し、眼下の線路を軽やかに特急列車が駆け抜けて行ったのを潮時に、プチ廃線探訪を切り上げる。 とはいえまだ時間はタップリと残っている。 で、先ほどのモールに戻りキンキンに冷えたスーパーに入って人心地ついた。 他に敷地内には土産物センターもあり覗いてみたが、これはという程の物はなかった。 後は駅で待とうと考え、ムッとする熱気に包まれながら道路を戻る。 信号機に「サラダ」という地名?が書いてあったり「そんなバナナ」なんていうカラオケパブがあったりして、なかなか不思議な街である。

Photo 池田町サラダ、阿波池田駅もこの住所になる。漢字で「皿田」と知れば何のことはないが、仮名表記だととてもユニークだ

歩いていると、行きがけに見たパトカーが猛スピードで走って来て突然サイレンを鳴らしだした。 「うゎ、俺か?」と一瞬慌てたが、目の前を通り過ぎ、すぐ前方を走っていた軽自動車を向こうの方で路肩に停車させる。 「ほぅ、捕まりよった」道の反対側でそれを眺めていたランニングシャツ姿のお爺さんが、何故か嬉しそうにこちらに目配せをするので、私も苦笑いを返すしかなかった。 あらかたシートベルト違反あたりかも知れない。

4. 阿波池田から後免

Photo 発車30分位前から入線していた高知行きはまたまた1000形。貫通ドア部の幕にワンマン表示が出ている

阿波池田駅構内には幸いな事にコンビニがあるので、アイスを購入してそこのイートインコーナーで休憩する事が出来た。 その後、まだ時間があるなと思いつつ改札の方へ行くと、既に1番線に高知行きの列車が入っていたので、車内でコンビニ塩むすびをパクつきながら発車を待つ。 12時少し前に阿波池田を発車、土讃線はここから四国を南北に分かつ脊梁山脈を越えにかかる。 大歩危小歩危などの名勝地もあり、車窓としてはハイライトシーンが続いた。 だが、私としてはむしろ、トラス橋の中にホームのある土佐北川駅や、坪尻と同様なスイッチバックをする新改(しんがい)駅の方が興味深かった。

Photo 小歩危~大歩危間の車窓。大歩危峡は2014年に国の天然記念物に、翌年には国の名勝に指定された
Photo トラス橋の中に島式ホームのある土佐北川駅。出入口へと向かう階段は、鉄橋下にぶら下がっている形のようだった

新改を出てトンネルをいくつか抜けると、列車は山中から一気に高知平野の市街地へと舞い降りる。 緑濃い山岳地帯を下っていたのが、突然住宅街の中に飛び込むのだから、そのギャップの大きさには驚かされる。 平地に出て最初の土佐山田駅では高知へ遊びに出かける人達がどっさり乗り込んで来て、これまで閑散としていた車内がちょっとしたラッシュアワー状態となった。 私は後免町へ向かう為に後免駅で下車しなければならないので、混雑の中を最前部のドアまで辿り着くのに一苦労、ワンマンの運転士に切符を見せてホームへと降りたのは私の他に誰もいなかった。 後免は土佐くろしお鉄道への乗換もあり大きな駅と思っていたが、JRの集札はしていない様だ。

5. 後免から後免町

Photo 後免駅で発車を待つ阿佐線の9640形-2S。現在は、日本宝くじ協会の「宝くじ号」の外装となっている

近代的な橋上駅舎へと上がり、一旦改札を出て土佐くろしお鉄道の切符を買う。 後免から後免町へは阿佐線で僅か一区間、しかも大きくカーブしているから、直線で結べば歩いても行けない距離ではない。 それをパスしたのは一つには暑さに参っての事だが、もう一つはこれから乗る車両にその理由がある。

階段を下りるとホームに待っていたのは土佐くろしお鉄道の展望車両だ。 特にここのは座席のサイドにベランダ状のデッキがあり、外に出て景色を楽しめるという面白い構造なのである。 私も発車すると早速デッキへ出てみたが、思いのほか風が強くて早々に引き上げる事となった。 まぁ、まだ海が見える区間ではないし、乗車時間わずか2分では、満喫という事にはならないわけである。

Photo 後免~後免町間の高架線でデッキに出てみた。この区間はずっと右カーブなので、風の巻き込みが激しい
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