~ 2日目 ~

上田電鉄

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時間通りにやって来た信濃色の電車で屋代から上田へ移動し、ここでも待ち時間があるので一旦改札を出て駅前の通りを少し往復してみた。 上田は新幹線の停車駅でもあるが、正面となるお城口は新幹線改札もあり駅前は賑やかだが割りとコンパクト、反対の温泉口は新しくて広いが周囲は閑散としていて何も無い。 上田電鉄別所線は、その温泉口に面した高架に斜めに突き刺さるようにしたホームを持つ。 通路から直結する橋上の駅へ入って行くと、ガラスで仕切られた待合室には外人客の姿もチラホラと見えている。 日本式の温泉でも体験しに行くのかな?

発車10分程前になり何人かがホームへ向かい出したので、私も続いて改札を抜ける。 カーブを曲って高架を登って来た電車に乗り込むと、しばらくして折り返しの別所温泉行きとなって発車。 高架を降りるとすぐに幅の狭い単線トラスで千曲川を渡り、市街地を抜けると黄昏て来た塩田平を走ってゆく。 別所線に最初に乗ったのはまだ東急5000の譲渡車が走っていた頃、次に来た時は7200系になっていたが、今乗っているのは1000系である。 すべて東急車でさすが系列だけのことはある。 ここもやはり経営的にはかなり厳しいようではあるが。

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上田電鉄 上田駅
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下之郷駅で対向列車と交換後、走り出す時にチラっと見えた西丸子線跡のホーム上屋が、何だか小洒落たログハウスのように改修されているのにはビックリした。 畑中の寂しい小駅「八木沢」では若い女性のグループ客が降りたが、近くに良い宿でもあるのだろうか。 だんだんと勾配が急になって来て電車の速度が落ち、左手に丸窓電車の展示されているのが車窓に流れると終着の別所温泉に到着だ。 上田から一緒に乗った外人さんの一団はガイド役の日本人女性と言葉を交わしながら降りる準備をしていたが、どうもその発音を聞いているとフランスからの客人のようである。

電車を降りてホームを歩いて行くと、改札では袴姿の女性駅長さんがお出迎え。 その横には番頭風に旗を持った男性が「温泉へ行かれる方は駅前から無料バスが出まーす」と声高に案内している。 今夜は別所温泉泊まり、まだ4時前だがお日様も既に山の陰に入ろうとしているので私もバスに乗りたい所だが、少し駅の写真を撮った後で歩いて向かう事にした。 駅舎から少々離れた丸窓電車の方も写真に収めたが、昔に比べて1両だけになってしまったのは何だか寂しい。 でも別天地で大切にされているようだ。 写真を撮っていると通りかかった小学生の女の子が「こんにちわー」と挨拶して過ぎて行く、そんな情緒の温泉駅前なのであった。

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別所温泉駅
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別所温泉

さて、駅からゆるい登りの坂道を歩いて宿へと向かおう。 歩き始めの最初は特に温泉らしくもないごく普通の地方道。 周囲は段々と日陰になって来てちょっと心細い気持ちもわいて来る。 駅から送迎バスが出ているのは、この間の風景で興ざめさせたくないという意図もありそうだ。 しかし10分程歩くと周りの山が迫って来て、川に沿って両岸に旅館の建ち並ぶ典型的な温泉街の風景が目の前に現れる。 さすがにこの季節では浴衣姿で外をそぞろ歩く温泉客の姿は無いが、この光景を見るとようやくホッと不安が解けた。

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別所温泉

と、左手に下って行く階段があり「北向観音」の表示が目の前に。 事前に宿に告げていた到着時刻にはまだ間があるので、少し横道にそれてお参りして行く事にした。 階段を下り、客も店番の姿もない土産物屋街の前を通過すると、目の前には急な石段が現れてこれを登った先が観音様だ。 こんな時間に訪れるのは自分くらいかと思ったが、入って行くと境内には観光客の姿がチラホラと見えて少し心強い。 手水場のお清めの水に温泉が引かれているのはさすが温泉地だ。 こちらは既に薄暗いが、この高台から遠く望める上田の市街地はまだ茜色の夕日に照らされていた。 後で知った事だが、北向観音は裏善光寺とも呼ばれ、善光寺とセットでお参りするのが良いのだそうだ。

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お参りを済ませ、灯りの点きだした温泉街を宿へと向かう。 普段は駅前のビジネスホテルを定宿としているが、今日は少し気分を変えて純粋な日本旅館に泊まってみる事にしている。 昨今はお一人様でも歓迎してくれる宿が増えて嬉しい限りである。 歩いて行くと、川の対岸に大師の湯が見えた。 かつて美ヶ原から自転車で下って来てここへ降り着き、お湯に浸かって生き返った事を思い出す。 大師湯の向かいに中松屋というのがあり、その隣りが本日の宿、上松屋である。 名前が連携しているが何か関係があるのだろうか。 玄関を入ろうとするとすかさず中から係の方が開けてくれ、フロントで宿帳を記載した後はロビーで温かい抹茶のサービスを受ける。 寒い外を歩いて芯から冷えていたので、これは体が温まって有難い。

案内された部屋は別館最上階の12畳和室、一人で占有するには充分過ぎる広さだ。 小さなベランダには白い椅子も誂えてあって展望も良いが、外で夜景を眺めるには季節がちと寒過ぎる。 早速浴衣に着替えて階下の露天風呂へ、こちらは寒さ対策か葦簾に遮られていて眺望は無いがイイお湯だった。 ほっかほかの体で部屋に戻り、ウェルカムドリンクを飲みながら窓際の椅子で今日の旅程をメモしていると、係の中居さんがやって来て夕食のお膳準備が始まった。

料理を運んで来る毎に二言三言の会話を交わしながら、程良く泊まり客を構ってくれるこういう待遇も悪くない。 上等のすき焼き、煮物、お造りなどで、後からご飯やデザートの出て来る頃にはすっかり満腹、酒もまわってご機嫌になった。 こういう宿で一人では退屈するかと思っていたが、食後も書き物等しているうちに知らず知らず夜が更けた。 眠気をもよおして来たので、広い畳の真ん中に敷いてもらった布団へくるまった途端、あっさりとそのまま眠りに落ちてしまう温泉旅館の夜であった。

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今宵の宿「上松屋旅館」
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沿線略図
駅名時刻列車番号
屋代 14063650M(しな鉄下り)
上田 1428
150229(上電別所線下り)
別所温泉1529
参考リンク