■ A ROUND TRIP 北陸 Image

 大学の鉄道研究会の合宿が、ある年、北陸で実施される事になった。合宿と言っても、我々の場合どこかに宿をとって集まるだけで、往復や現地での行動もかなり個人に任されていた。その年の宿は小松で、その頃はまだ尾小屋鉄道や北陸鉄道など現役であり、多くの会員はそちらへ撮影に行ったが、私は何故か余り興味が無くてひたすら幹線の列車に乗っていた様だ。今考えると実にもったいなかったと思うのだが...。


<栄光の第1日め>

 北陸への旅立ちのスタートとして、347Mを選んだのは、とにかく夜汽車に乗ってみたかったから。当初は急行能登で上信越線経由の予定であったが、周遊券を購入してみると東海道も往復ルートに含まれており、幸い帰りの特急北陸のBネもとれたので、どうせ行くなら往復別のルートにしようと思ったからだ。

 さてあこがれの347Mに乗ろうと東京駅ホームに上がっていくとなんとすごい列。これでも夜の10時過ぎかと思われる程。最後尾から2両目が割に少数だったので列の後ろにつく。若者に混じって老夫婦、サラリーマンの姿もチラホラ。23:28東京発。そのサラリーマン達も平塚あたりまででほとんど降りてしまった。私はサングラスをかけて必死で寝ようと努力するがどうも眠れない。向かいの出張らしいサラリーマン氏も顔に新聞紙をかけて、扇風機の風とふんとう中。

 金谷で数人の若者が降りていった。カメラを持っていたので、おそらく大井川のSL目当てだろう。暗い中をよく行くもんだ。夜の電車はやたらとのどが乾く。東京で買った缶コーヒーはもうほとんどカラ。それに扇風機の風がけっこう寒く感じる。持って来たカーディガンが役に立つ。体も暖まって1時間ほどウトウト。

 豊橋に止まる少し前に目がさめた。空が白々と明けて来ていた。タバコを一服、車内のけだるい空気の中に煙が1すじ登る。名古屋で20分停車。みんなドッときしめんを食べに。だが僕はトイレに行っただけで車内へ。どうもあまのじゃくらしく、大勢に従うのは好むところではない。

 7:13大垣着。接続3分!あせって跨線橋を渡る。749Mで米原へ。途中の新垂井はこれでも東海道本線かと思わせるような駅だった。うつらうつらしている間に早くも米原着。直江津行247レに乗り換えると、関西弁でしゃべっている女高生が2〜3人。アァ、関西なんだなァと実感。

 ピィーッ、ゴトンと走り出すのはさすが列車である。ナハ10の窓はかなり大きい。緑の田園のかなたに琵琶湖まで収まってしまう。敦賀で特急待ちの後、又のそのそと動き出す。日本海はまだ見えない。そのうちにやたら長いトンネルを通過、あれが北陸トンネルであろうか。途中で土地の若者らしい男女が乗ってきて、やたらしゃべりまくる。赤ん坊の泣き声も加わって、暑苦しいことおびただしい。

 10:49福井で下車。なんて長かったんだろう。荷物を預け、市内見物へ。暑いし、どこといって行くあてもないのでひと回りして帰り、ホームに入って次の列車を待つ。そのうちにキハ23が入線して来た。クロスシートに座って駅弁を食べるが、とてもおいしいと言えるしろものではなかった。

 キハは越前花道から越美北線に入った。すごい美人が乗っていた。越前大野まではかなり混雑。それから先は足が楽々と伸ばせる。やたら長いトンネルがあって窓を開放して涼味を存分に味わった。なんといっても水がしたたり落ちているのだから。トンネルとトンネルの間、一瞬鉄橋を渡る。すばらしいながめだ。終点、九頭竜湖まで行ってトンボ返り。15:39福井着。15:43発の快速糸魚川行で小松へ・・・と1日目は終わった。

<感動の2日め>

 思いがけず2日目がアキになったので、糸魚川まで足を延ばす事にした。とにかく早く日本海が見たかった。9:22発くずりゅう1号で金沢へと向かう。急行と名のつくものに乗るのはこの旅に出て初めてであった。くずりゅう1号は快調にとばして22分で金沢着。市内見物の人混みをかき分け、503D急行白馬・しらゆきに乗り換える。結局この旅行中、金沢には一度も出なかった事になるが、わざわざ北陸まで来て金沢見物もしない人間は僕ぐらいではないだろうか。

 くずりゅう1号ではデッキに立ちっぱなしであったが、503Dは最後尾の車両になんとか座った。魚津、泊と停車して、越中宮崎あたりから左方に待望の日本海!が広がった。窓の外でエメラルド色の海と、淡いブルーの空がとけ合って、水平線はかすんで見えるほどである。とにかく美しい。右手からは山がせまってくる。親不知が近い。

 糸魚川11:50着。503Dは、ここで松本行白馬と青森行しらゆきに分かれる。分割作業をしばらくながめた後、駅を出て海を見に行く。意外に近かったが、海の手前に国道が立ちはだかる。地下道を通って海側に出る。すごく静かな海だ。波の音もない、海独特のにおいもしないのが不思議な感じがした。駅前食堂で昼食。冷房がきいていたので長居してカレーライスと氷イチゴを食べた。久しぶりで落ちついて食べられた。その後駅のまわりを1回り。もう東洋活性はどうでもよかった。

 14:35発の快速に乗り込む。富山から急行立山2号になる編成で、グリーン車2両、サハシ451-8(もちろん営業休止だが)が組み込まれていた。海側の1ボックスを占領して、海のながめを存分に楽しんだ。富山で14分停車、宇奈月発の3両を増結して12両で小松へ。小松着は17:14であった。

 
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<灼熱の3日め>

 早起きをして駅へ急ぐ。早朝のアーケードを抜けて西友前に出る。小松がこんなに大きな町だとは来るまで思わなかった。6:53発243レ直江津行に乗り込む。引くはEF70。オハ35を選んで座ったが、朝早いだけあってガラガラであった。金沢着7:39。旅行センターで切符を買ったのだが、「金沢まで」と言ってしまいはじをかく。逃げるように改札を抜けると、能登路1号はもう0番Aホームに入線していた。満席で座れそうになかったが、とにかく幕の内弁当とコーヒーを買って乗った。

 日曜のせいか相当に混雑していて、それも女性がほとんどだった。津幡を過ぎたあたりで検札が来た。堂々と(?)周遊券を出す。穴水で編成は2分される。僕は後半分、輪島行に移った。今まで快調に飛ばして来たのだがここから急に減速。平均20km程度。カーブも急で、通路側の席に座っていても、窓の外にこれから通過する踏切の閉まるのが見えるほど。

 輪島着10:21。炎天下を20分も歩いて鴨ヶ浦に到着。正常な人ならバスで行くべき所である。ともかく、松林の中で100円のコーラを飲み、金沢で買った弁当を食べる。朝食兼昼食であった。素掘りのトンネルを抜けて袖ヶ浜へ・・・。海水浴には絶好の浜である。遠浅のようであったが、僕の知っている海と違って砂のつぶが粗い。泳ぎたかったが時間不足で、とにかく日本海に触れて帰ろうということで、サンダルのまま海につかる。袖ヶ浜からはバスで駅へと向かう。海女らしき人が多数、浮輪と海産物の入ったかごを持って乗っていた。車掌さんも顔なじみらしくて、遠慮のない言葉がかわされていた。

 輪島からの列車内で新潟から来たという老夫婦と知り合った。今朝は和倉温泉から来て、今夜は加賀温泉に泊まるそうだ。娘さんが東京の大学へ行っている事、郵便局関係の宿に泊まると安くて良いこと、高校野球の事など気軽に言葉をかわした。おまけに氷あずきまでごちそうになってしまった。いかにも新潟県人らしい2人だった。

<旅愁の Last day>

 今日で、(厳密に言えば明日も)この旅も終わりとなる。5日も切符の有効日数を残して帰るのは心残りだが、宿がないので仕方がない。9:41の快速で松任へ行き、松任工場を見学。何よりも、工場の人が出してくれたカルピスがおいしかった。

 見学後解散、みんなちりぢりに帰途につく。僕は快速で富山へ。荷物を預け、ビルでハヤシライスを食べる。次の快速は15:24でだいぶ時間があるので駅ビル内をうろつき、マルボロとおみやげを買った。時間になってホームに行くと、快速が何と40分も遅れているという。仕方なく同じホームの普通列車のデッキに立つ。

 高岡乗り換えで走りに走って城端線キハ45に飛び込んだ。車窓からは砺波の散在農家がチラホラと。城端に着いたのは16:49。331Dは6分で上り336Dとなって折り返す。急いで降り、スプライトと入場券を買って又乗り込む。

 城端から高岡に戻り、今度は氷見線へ。キハ23にはさまれて、小さなキハ10が1両。車内が白熱灯だったので気に入ってしまった。443Dは工場の間をすり抜け、快調に走る。外は早くも暗くなってくる。越中国分〜雨晴間は最高であった。何しろ窓のすぐ下が海なのだ。灯台も見える、遠くに船のあかりも。ここに来てやっと旅情というか・・・あの侘びしい感情を味わった。しかしもう帰らねばならない、何と皮肉な事だろう。

 氷見でまたまた入場券を買って同じ席に座る。来る時は工場から帰るらしい人達がけっこう乗っていたのに帰りはガラガラである。18:54発で折り返し。足を伸ばしてたばこを吸う。外はもう真っ暗。たばこの紫煙と、車内の淡い白熱灯と、海上の船の光が黒い窓に交錯する。

 19:22高岡着。デパートの中をうろつく。夜おそくで、さすがに静かである。"グリーン車"という喫茶店があった。待合室でしばらくTVを見て、20:10の普通電車で富山へ。1時間20分程冷房のきいた(ききすぎた?)待合室ですごし、ますのすし、缶コーヒー、週刊誌を買いこんで特急北陸に乗った。旅のフィナーレにふさわしい優等列車である。

 5泊4日の旅もこれで終わり、明日からは日常にもどる。思えば自分のお金で初めて出た旅であった。「もう一度来たいな。今度は一人で・・・。」そう思いながら眠りについた。列車は魚津を過ぎて、一路上野へと向かっていた。


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